「7月頭はETFの売りで下がる」「8月は夏枯れ」「12月は年末ラリー」──日本株には、月にまつわる通説がたくさんあります。この記事は、1月から12月まで各月にどんな需給イベントが起きるのかを、1枚の地図にまとめたものです。個々の通説が本当に効くのかどうかは、この地図から飛べる各検証記事(通説検証シリーズ)に譲ります。まずは全体像から眺めてみてください。
- 日本株の1年には、経験則(アノマリー)・制度で発生が決まっている売買・企業イベント・指数リバランスの4種類の需給が、月ごとのパターンで巡ってくる。
- この記事はその12か月×4分類の全体地図。「発生する事実」と「株価が動くかどうか」は別問題なので、効き目の検証は各記事へ。
- 検証済みの通説(2月・3月・5月・7月・8月・9月・12月など)へは本文からリンクで飛べます。
- 1月〜12月、それぞれの月にどんな需給イベントがあるのか(1枚のカレンダーマップ)
- 需給イベントの4分類──性格の違いと、注意すべきポイント
- 検証済みの通説はどれか、これから検証する通説はどれか
まずは全体図:12か月×4分類のカレンダーマップ
1年分をまとめたのが図1です。縦に1月から12月、横に需給の4分類を並べました。「済」バッジの付いたマスは当ブログでデータ検証済みで、マスをタップ(クリック)するとそのまま検証記事に飛べます。「予」は今後シリーズで取り上げる予定のものです。
この地図は、横に読むか縦に読むかで見えるものが変わります。横に読むと、その月の「忙しさ」がわかります。マスが埋まっている3月・5月・8月〜11月は需給イベントの密集地帯で、空白の多い6月は凪の月です。縦に読むと、分類ごとのリズムが見えます。リバランス列は2・5・8・11月末(MSCI)と4・10月(日経225)、10月末(TOPIX)という規則的な刻み。機械的需給列は四半期のリズム(SQ・45日ルール・権利落ち)。そしてアノマリー列は、春・夏・年末という人の季節感に寄り添うように並んでいます。
なぜ「月」ごとにパターンがあるのか
そもそも、なぜ株式の需給に月ごとのパターンが生まれるのでしょうか。発生源は大きく3つあります。第一に決算期の集中です。日本の上場企業は3月期決算が主流のため、決算発表・配当の権利確定・株主総会が特定の月に束になって訪れます。第二に制度の日程。先物・オプションのSQは3・6・9・12月の第2金曜、指数の定期入替は運営元が定めた日──と、規則で日付が固定されているものがあります。第三に人の行動のリズムです。年度替わりの資金配分、お盆や年末年始の休暇、節税のための年内の損出し。こうした「制度」と「習慣」が毎年同じ月に重なることで、需給の季節パターンが生まれます。
逆に言えば、このパターンは誰でも事前に知ることができるものです。だからこそ「知られているのに、それでも株価は動くのか?」が検証の焦点になります。市場が完全に織り込んでいれば、イベント当日に株価は動かないはずだからです。
需給イベントの4分類──性格がまったく違う
同じ「月のイベント」でも、性格は4つに分かれます。この違いを押さえておくと、ニュースの読み方が変わります。
アノマリー経験則・相場格言の類いです。「5月に売れ」「8月は閑散」など、昔から言われているものの、なぜそうなるのかの因果がはっきりしないのが特徴。本当に効くのかどうかは、データで確かめる必要があります。実際に検証してみると、生きている経験則・すでに消えた経験則・名前と中身がズレている経験則に分かれるのが面白いところで、当ブログの通説検証シリーズの主戦場はここです。
機械的需給制度やカレンダーによって、売買の発生自体がほぼ確定しているものです。ETFの分配金捻出売り、配当権利落ち、先物・オプションのSQ、ヘッジファンドの解約期限(45日ルール※1)など。発生は確実でも、株価がどれだけ動くかは別問題です。市場参加者の多くが事前に知っているイベントは、先回りの売買で織り込まれてしまうこともある──「確実に起きるのに、効かない」がありうるのがこの分類で、そこが検証しがいのあるところです。
企業イベント決算発表・株主総会・自社株買いなど、個々の企業の行動です。1社ずつはバラバラでも、日本企業は決算期が集中しているため、シーズンになると市場全体の変動要因になります。決算またぎの持ち越しをするかどうか、発表直後の乱高下にどう向き合うか──個別株を売買する人にとっては、4分類の中で最も日常的に付き合うイベントでしょう。
リバランス日経225・TOPIX・MSCIといった指数の定期入替に伴う売買です。指数に連動する巨額のパッシブ資金が、決まった日の大引けに一斉に動くため、対象銘柄の需給が大きく揺れます。日程は指数の運営元が公表しており、市場では毎回イベントとして意識されます。「どの銘柄が採用・除外されるか」を予想するアナリストのレポートが出るほど注目度が高く、発表から実施日までの間、対象銘柄には先回りの売買も入ります。
月別に見る:1月〜6月
ここからは月ごとに、図1のマスを言葉でほどいていきます。前半の1〜6月は、年度末(3月)と新年度(4月)を挟んで需給の主役が入れ替わっていく半年です。
1月:新年の資金と3Q決算の入り口
年明け最初の取引日(大発会)は上がりやすい、小型株は1月に強い(1月効果)──といった経験則が古くから語られる月です。制度面では静かな月ですが、下旬から3Q(第3四半期)決算が始まり、月末には日経225・春の定期入替の基準日(1月末)が控えます※2。ここで測った流動性が、4月の入替銘柄を決めます。もう一つ、年末年始の長い休場明けは、休みの間の海外市場の動きを寄り付きで一気に織り込むため、値が飛びやすいという実務上の注意点もあります。1年の需給カレンダーは、この「静かだが飛びやすい」月から始まります。
2月:解約期限と最初の指数見直し
「節分天井」──2月上旬に高値を付けやすいという格言がある月です。これが本当かどうかは検証済み✅(通説検証#13)──77年分のデータで答え合わせしています。機械的需給では、ヘッジファンドの解約通知期限とされる45日ルール(3月末の45暦日前=2/15ごろ※1)があります。ヘッジファンドの解約には事前通知が必要な契約が多く、期限前にファンド側が換金の準備売りを出す──というのがこの説の仕組みです。その売りは本当に相場に影を落としているのか?は検証済み✅(通説検証#11)です。月末にはMSCIの四半期見直し。発表は実施の約2週間前で、採用・除外の候補銘柄は発表前から思惑で動くことがあります。3Q決算も中旬まで続きます。
3月:権利落ち・SQ・期末の総仕上げ
1年でも指折りにイベントが密集する月です。「彼岸底」という格言がある一方(節分天井とセットで検証済み✅・通説検証#13)、月末には配当の権利落ちがあります。配当を受け取る権利が確定した翌営業日は、理論上その配当分だけ株価が下がる──個別では小さくても、3月は権利落ちが集中するため指数全体が朝から機械的に下押しされる日です。同じ日に、配当を再投資する機関投資家の先物買いが入るとされます。この下げがすぐ埋まるのかどうかは検証済み✅(通説検証#07)──「埋まる」とは何か、から確かめています。第2金曜にはメジャーSQ──先物・オプションの清算価格が決まる日で、寄り付きに特殊な注文が集中し、朝方の値動きが荒れやすいとされる日です。SQの週は本当に荒れるのかは検証済み✅(通説検証#12)──「荒れる」の中身を分解して確かめました。上旬には日経225・春の定期入替の発表、期末に向けては機関投資家の「お化粧買い」も語られます。
4月:新年度資金と日経225の入替
新年度入りで、年金や投資信託など機関投資家の新年度の資金配分が動き出すとされる月です。「4月は外国人買いが入りやすい」とも古くから言われますが、これも検証されるべき経験則の一つでしょう。第1営業日には日経225の定期入替が実施されます(基準日は1月末・発表は3月上旬※2)。採用銘柄には連動資金の買い、除外銘柄には売りが、実施前営業日の大引けに集中します。下旬からは本決算シーズンが始まります。
5月:本決算ラッシュと年2回の大型リバランス
「5月に株を売れ(セルインメイ)」という、おそらく最も有名な月の格言がある月です。もともとは「5月に売って9月に戻れ」と続く英国由来の格言で、日本株にそのまま当てはまるのかは自明ではありません。これが本当かどうかは検証済み✅(通説検証#02)──結論はぜひ記事のほうで。企業イベントでは本決算の発表が集中します。決算発表の前は自社株買いを控える慣行(いわゆるブラックアウト期間)があるため、発表明けの5月は自社株買いの設定・再開が一斉に動き出す月でもあります。45日ルールの2回目(6月末の45暦日前=5/16ごろ)もこの月。月末にはMSCIの半期見直し──年4回のうち5月と11月は入替規模が大きく、大引けの売買代金が跳ね上がる日として知られます※4。
6月:総会シーズンの凪
需給イベントの少ない、比較的静かな月です。第2金曜にメジャーSQ(検証済み✅ #12)、下旬には株主総会が集中します。総会自体が株価を動かすことは多くありませんが、株主還元の発表や経営方針の変更が出ることはあります。カレンダー要因が薄い月は、裏を返せば海外要因や個別材料が相対的に効きやすい月とも言えます。
月別に見る:7月〜12月
後半の7〜12月は、夏の閑散期を経て、秋に指数リバランスが集中し、年末の売り買いで締まる半年です。当ブログの検証済み記事(7月・8月・9月・12月)もこのゾーンにあります。
7月:ETFの決算と1Q決算
7月上旬、日経平均に連動する大型ETFの決算日が集中します。ETFの分配金の原資は保有株から受け取った配当ですが、支払いのために保有する現物株を売る必要が生じ、兆円規模の機械的な売りが決算日の大引けに出ます。売りが出ること自体は制度上ほぼ確実──では日経平均は実際に下がるのか?は検証済み✅(通説検証#03)です。下旬からは1Q決算が始まり、月末には日経225・秋の定期入替の基準日(7月末)が控えます。
8月:薄商いの月と、月末の基準日
「夏枯れ相場」──お盆休みで市場参加者が減り、商いが細って下がりやすいと言われる月です。商いは本当に細るのか、細ると本当に下がるのかは検証済み✅(通説検証#04)。45日ルールの3回目(9月末の45暦日前=8/16ごろ)もあります──ヘッジファンドの換金売りは本当に観測できるのか?は検証済み✅(通説検証#11)です。月末にはMSCIの四半期見直しに加えて、TOPIX定期入替の基準日(8月最終営業日)が置かれています※3。この日の浮動株時価総額と売買代金が10月末の入替判定に使われるため、採用・除外のボーダー付近にある銘柄には基準日に向けた思惑が働きます。なお2026年は、TOPIXにとって史上初の定期入替の基準日にあたる特別な8月です。
9月:中間期末の権利落ちとSQ
3月の相似形です。「彼岸」の変動が語られ、月末には中間配当の権利落ちと配当再投資の先物買い──規模は期末配当の3月より小さいものの、構図は同じです(落ち分が埋まるのかは3月と合わせて通説検証#07✅で検証)。第2金曜にはメジャーSQ(検証済み✅ #12)。上旬には日経225・秋の定期入替の発表があります。中間期末に向けた機関投資家のポジション調整も意識されやすい月です。
10月:指数入替が集中する月
リバランスの本番月です。第1営業日に日経225の定期入替が実施され、最終営業日にはTOPIXの定期入替が実施されます(基準日8月末※3)。どちらも、指数に連動するファンドが入替を反映する実施前後の大引けに巨額の売買が集中します。パッシブ資金は終値で執行する必要があるため、対象銘柄では引けの1分間に1日の出来高の半分以上が成立することさえあります。TOPIXの定期入替は2026年10月が初回で、以後は毎年の恒例イベントになります(移行期の2027年のみ実施なし※3)。下旬からは2Q決算が始まります。
11月:決算と大型リバランス再び
2Q決算の発表が続き、決算明けの自社株買いも再び動き出します。45日ルールの4回目(12月末の45暦日前=11/15ごろ)を経て、月末にはMSCIの半期見直し──5月と並ぶ年2回の大規模リバランスです※4。年によっては日本株だけで採用・除外が十数銘柄規模になり、対象銘柄の月末の出来高が跳ね上がります。
12月:年内最終盤の売りと買い
「年末ラリー」──年末にかけて上がりやすいという有名な経験則の月です。これが本当かどうかは検証済み✅(通説検証#06)──ラリーには「開始時刻」があります。一方で、個人投資家の損出し売りが出るとも言われます。年内の利益と損失を相殺して税負担を減らすには、年内最終受渡日までに売却する必要があるため、含み損銘柄の売りが下旬に集中しやすい──という仕組みです。第2金曜にはメジャーSQ(検証済み✅ #12)。そして大納会で1年が締まり、翌年の大発会へ──カレンダーは1月に戻ります。
カレンダーに乗らない検証も
通説検証シリーズには、月に紐づかないテーマもあります。「とりあえずS&P500」を検証した#01と、「ゴールデンクロスで買えば儲かる」を検証した#05、そして「米SOXが下がった翌日は、日本の半導体も下がる」を検証した#10です。カレンダーの外側にある通説も、同じ流儀──データで確かめて★で判定──で検証しています。今後も「S高の翌日は買いか」など、月に紐づかない検証をこの枠で増やしていく予定です。
このカレンダーの使い方
最後に、この地図とどう付き合うか。私からの提案は3つです。
まとめ
- 日本株の1年は、アノマリー・機械的需給・企業イベント・リバランスの4種類の需給が月ごとのパターンで巡る。
- 要注意の集中月は3月・9月(権利落ち+SQ+日経225の基準日/発表)と10月(日経225・TOPIXの入替ダブル実施)、そして5月・11月(MSCI大規模見直し+決算集中)。
- 「発生する事実」と「株価が動くか」は別問題。効き目の検証は各記事で──✅印から読めます。
- 本記事はシリーズのハブとして、検証が進むたびに更新していきます。
よくある質問
- ※1 45日ルール:ヘッジファンドの解約通知期限が「四半期末の45暦日前」(2/15・5/16・8/16・11/15ごろ)に設定されていることが多く、その手前で換金売りが出るとされる経験則。ファンドごとに規約は異なります。効き目の検証は通説検証#11で。
- ※2 日経225の定期見直し:2022年10月のルール改定以降、年2回(実施は4月・10月の第1営業日、基準日は1月末・7月末、入替は上限各3銘柄)。発表は実施の約1か月前(3月上旬・9月上旬)が通例。出典:日経平均プロフィル。
- ※3 TOPIXの定期入替:第2段階見直しにより新設。初回は2026年10月最終営業日(基準日8月最終営業日)、第2回は2028年10月で、以後毎年実施(移行期の2027年は実施なし)。出典:JPX「TOPIX等の見直し」。
- ※4 MSCIの指数見直し:年4回(2月・5月・8月・11月)、各月末の取引終了時に実施。5月・11月は半期レビューで入替規模が大きい。出典:MSCI公表資料。
- 各月の平均リターン(どの月が強い・弱いか)は、通説検証#02(セルインメイ)の月別リターン図をご覧ください。本記事では重複を避けるため再掲していません。












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