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- アメリカで有名な「1月バロメーター」を日経平均76年で試すと、1月ぶんを差し引いた瞬間に効き目が消えました。
- ところが観測する期間を短くすると、年明け最初の3〜7営業日だけが、まぐれの範囲をはみ出しました。
- 2026年は、前年も年明け最初の5営業日もプラスで、合図が点灯した年です。同じ形だった過去36年のうち、75%がプラスで終わっています。
海外の投資本を読んでいると、必ず出てくるのが「1月の株価がその年を占う」という話です。アメリカでは的中率88.7%という数字まで付いています。では、日本株でも効くのでしょうか。日経平均の76年分を数えてみたら、答えは「1月では効かない。効くのは年明けの数日だけ」という、少し意外な形でした。
- 「1月の方向がその年を占う」が日本で当たるのか、当たらないのか
- 当たるとしたら、年明けの何営業日を見ればいいのか
- 2026年はいまどういう位置にいるのか
検証の下敷きにした本
今回の下敷きにしたのは、ジェフリー・A・ハーシュ『アノマリー投資』(パンローリング・2013年)です。アメリカで長く続く相場データ年鑑『ストック・トレーダーズ・アルマナック』の中身を1冊にまとめたもので、季節性や暦のクセを片っ端から数字で並べた本なんですよね。
ただ、書かれているのはすべてアメリカの市場の話です。読みながらずっと「これ、日本でも成り立つんだろうか」と思っていました。今回はその一番の目玉である「1月バロメーター」を日本株で確かめて、ついでに本に出てくるおもな主張を通信簿にしています。
検証① 「1月の方向がその年を占う」は、日本でも当たるのか
まず本に書かれている形をそのまま日本に持ってきます。1月がプラスで終わればその年もプラス、1月がマイナスならその年もマイナス。この符号が一致するかどうかを、日経平均の1950年から2025年までの76年で数えました。
結果は的中率68.4%。1月が上げた52年のうち75.0%はその年もプラスで終わり、1月が下げた24年でプラスに終わったのは45.8%でした。数字だけ見れば、効いているように見えます。
ところが、ここには2つの落とし穴があります。
落とし穴その1:日本株は、そもそも6割以上の年が上がっている
76年のうち上昇で終わったのは50年、割合にして65.8%です。つまり1月を一切見ずに、毎年判で押したように「今年は上がります」と言い続けるだけで、65.8%は当たってしまうんですよね。
1月バロメーターの68.4%は、そこからたった2.6ポイントしか増えていません。当たっているように見えて、実は何も足していないという可能性があります。
落とし穴その2:1月ぶんが、答えのなかに入っている
もうひとつが、こちらの方が厄介です。「1月がプラスだった年は、その年もプラスだった」と言うとき、その年の成績のなかには1月ぶんがすでに入っています。1月に5%上がった年は、その時点で年間成績が5%のゲタを履いた状態から始まるわけです。
これでは、予言が当たったのか、予言そのものが答えに混ざっているのかが分かりません。そこで、年間成績から1月を外して、2月から12月までだけで測り直します。
背後の薄い帯は「まぐれでもこのくらいは出てしまう範囲」です。76年しかないので、本当は何の力もなくても、たまたまこのくらいの差は出ます。棒が帯からはみ出していれば「偶然では出にくい差」、帯のなかに収まっていれば「偶然と見分けがつかない」と読みます。基準は、まぐれで出る確率が20回に1回(5%)を切るかどうかです。
左の棒が、本に書かれている形です。差は+29.2ポイントで、まぐれの範囲(±23.6ポイント)をかろうじてはみ出しています。
真ん中が、1月ぶんのゲタを外したものです。差は+9.0ポイントまで縮み、まぐれの範囲(±24.0ポイント)にすっぽり収まりました。1月バロメーターの予測力に見えていたものは、その大半が「1月ぶんが答えに混ざっていたから」だったことになります。
ここで終われば「日本では効かない」という、それだけの話でした。ところが、いちばん右の棒があります。
検証② では、年明けの何営業日を見ればいいのか
本には、1月バロメーターとは別に「1月最初の5日間」という指標も出てきます。アメリカでは、この5日が上げた39年のうち33年で年間もプラスだったそうです。
ここで素朴な疑問が出ます。1カ月まるごと見るのと、最初の数日だけ見るのと、どちらがいいのでしょうか。そして、そもそも何日ぶん見るのが適切なのでしょうか。
そこで、大発会から1営業日、2営業日、3営業日……と観測する長さを1営業日ずつ変えて、同じ検証を並べました。どれも見た期間ぶんは答えから外して、そのあと年末までがプラスで終わったかどうかで測っています。
むしろ、見すぎると分からなくなります。
帯からはみ出したのは3営業日から7営業日までの5本だけです。8営業日目から先は、10営業日でも、20営業日でも、1月末まで見ても、すべて帯のなかに収まりました。
1営業日だけだと、まだ何も見えていません(むしろ符号が逆を向いています)。2営業日でようやく形が見え始めて、3営業日で帯を抜ける。そこから7営業日までがいちばん強く、8営業日目でふっと消えます。
本が「1月最初の5日間」と言っているのは、この幅のちょうど真ん中に当たります。日本でも、そのあたりが使いどころだったということになりますね。
以降は、本にならって年明け最初の5営業日で話を進めます。念のためですが、これは大発会から数えて5営業日目の終値までという意味で、1月5日という日付の話ではありません。
検証③ 5営業日で分かれた年は、そのあとどう違ったのか
「差がある」と言われても、実際どのくらい違うのかが分からないと使えません。年明け最初の5営業日で年を2つに分けて、そのあと(6営業日目から大納会まで)を比べました。
上げた年は、そのあと78.3%がプラスで終わり、平均で17.0%伸びていました。76年ぜんぶをならした水準(67.1%・10.5%)を、はっきり上回っています。
問題は下げた年のほうです。プラスで終わった割合は50.0%。ちょうどコイントスです。
ただ、五分五分に戻るだけです。
ここは読み違えると危ないところなので、繰り返しておきます。この指標は上げたときにだけ意味があって、下げたときは何も言っていません。「年明けが弱かったから売り」ではなく、「年明けが弱かったから、今年は分が良いとは言えない」という程度の話です。
ちなみに平均だけでなく中央値で見ても、上げた年は12.2%、下げた年は0.1%でした。一部の飛び抜けた年に引っ張られた結果ではなさそうです。
検証④ それは、前年の勢いが続いているだけではないのか
ここまで読んで、こう思った方がいるかもしれません。「地合いが良い時期は年明けも上がるし、その年も上がる。ただそれだけでは?」
もっともな疑問なので、正面から確かめます。まず、年明けを一切見ずに前年がプラスだったかマイナスだったかだけで年を分けてみました。
左の棒が、前年の方向だけで分けたものです。差は+7.8ポイントで、まぐれの範囲(±23.2ポイント)のなか。前年が良かったか悪かったかだけでは、その年の先は言い当てられませんでした。
そのうえで、前年の勢いをそろえたグループの内側で、あらためて年明け5営業日を見たのが真ん中と右の棒です。
面白いのは右で、前年に下げた年のグループでは、年明け5営業日で明暗がくっきり分かれています。上げれば90.0%、下げれば43.8%。差は+46.2ポイントで、帯(±31.2ポイント)をはっきりはみ出しました。
ここは誤解されやすいので補足します。これは「前年に下げた年は年明けが上がりやすい」という意味ではありません。むしろ逆で、前年に下げた26年のうち年明け5営業日が上がったのは10年だけ、割合にして38%です。ふだんの60.5%より、むしろ少ないんです。上がりにくいけれど、上がったときの意味は大きい、という形なんですよね。
前年に下げたあとの年明けは、相場の空気が変わったかどうかの試金石になっているのかもしれません。ただし右の棒は10年と16年という小さなサンプルの比較なので、方向は見えても、強さまでは信用しすぎないほうがよさそうです。
2026年は、いまどういう位置にいるのか
せっかくなので、今年の答え合わせもしておきます。
2026年は、前年(2025年)が+26.2%で、年明け最初の5営業日も+3.18%。どちらもプラスで、合図が点灯している形です。
そこで、過去76年のなかから「前年がプラスで、かつ年明け5営業日もプラス」だった年だけを36年ぶん抜き出して、そのあとどうなったかを小さい順に並べました。
36年のうち27年、割合にして75.0%がプラスで終わっています。平均は+15.7%、中央値は+7.4%。2026年はいま+27.9%で、36年のうち上から9番目という位置にいます。
ただ、この図でいちばん見てほしいのは左端です。同じ合図が出ていても、9年はマイナスで終わっています。いちばん悪かった1973年は−17.9%でした。1957年、1970年、2018年も15%以上の下げです。
4年に1年は外れる。これは「合図が出たから上がる」ではなく、分の良いほうに賭けられる、という程度の話だと受け止めておくのが安全だと思います。しかも2026年はまだ8月です。この位置から年末までに何が起きるかは、この図の左端が教えてくれています。
この本の主張は、日本株で何個生き残ったか
ここからは通信簿です。『アノマリー投資』に出てくるおもな主張を、日本株から見て5つに仕分けました。
そもそも日本に持ち込めないものがある
意外だったのが、このバケツの存在です。本の3分の1近くは大統領選挙の4年サイクルに割かれているのですが、日本の衆議院は解散のタイミングが決まっていないので、対応する周期そのものがありません。感謝祭や独立記念日のクセも、日付が日本にない以上どうにもなりません。
「効かなかった」のではなく「土俵が違う」。海外の投資本を読むときに、いちばん最初に仕分けるべきなのはここなのかもしれません。
日本の暦に置き換えれば残りそうなもの
本には、年末の節税売りが一巡したあとに小型株が買われる、といういわゆる1月効果の話が出てきます。ただアメリカの企業と個人の税の区切りは12月、日本は3月です。日本で同じことが起きるなら、時期は年明けではなく年度明けのはずなんですよね。ここは形を変えれば残る可能性があります。
すでにこのシリーズで確かめたもの
本の主張のうち4つは、このシリーズですでに検証ずみでした。上の表の「シリーズで検証ずみ」の欄から、それぞれの記事に飛べます。
この4つを並べて眺めると、アメリカで強いとされる主張ほど、日本では星が落ちているのが分かります。
まだ確かめていないもの
残りは宿題です。表のいちばん下に5つ並べました。たとえば10月について、本はアメリカでは戦後12回の下落相場が10月に終わっていると書いています。12月の安値を年明けに割り込んだあとどうなるか、曜日にクセがあるかどうかも、日本ではまだ数えていません。
どれも日経平均や個別株のデータがあれば確かめられるものなので、このシリーズで順番に扱っていくつもりです。
元ネタが気になる方は、本のほうが圧倒的に情報量があります。月ごと・週ごと・休日ごとのクセまで数字つきで並んでいるので、記事の末尾にリンクを置いておきます。
- ×本の目玉である「1月バロメーター」は、1月ぶんを差し引くと効き目が消えた
- 〇年明け最初の3〜7営業日なら、差し引いても帯からはみ出した
- △ただし時代を分けると、どの期間もサンプルが足りず判定できない
- ×大統領選挙サイクルや米国の休日は、そもそも日本に持ち込めない
★3にした理由を書いておきます。「アメリカのアノマリーは日本でも効く」を額面どおり受け取るなら、答えは×です。本が推している形(1月まるごと)では効きませんでしたし、大統領選挙サイクルに至っては土俵にすら上がれません。
ただ、窓を年明けの数営業日まで狭めれば、日本でもちゃんと残りました。しかもその幅は、本が言う「最初の5日間」とほぼ重なっています。まるごと否定するには惜しい発見でしたので、真ん中に置きました。
この結果、実践にどう活かす?
今回いちばん正直に書いておきたいのはここです。年明け5営業日の効き目は、1950年から2025年までを全部ひとまとめにして、ようやく帯からはみ出しました。時代を3つに割ると、1950〜1989年も、1990〜2012年も、2013年以降も、すべて帯のなかに収まってしまいます。差の向きは3期間とも同じでしたが、それだけです。
理由は単純で、この指標は1年に1回しかデータが増えないからです。76年かけて76個。曜日のクセなら1年で250個近く貯まることを考えると、いかに心もとないかが分かると思います。「近年も効いている」とは、このデータからは言えません。
それと、なぜ年明けの数日にそんな力があるのかという理屈は、私にはうまく説明できていません。年末年始をはさんで運用方針が組み直されるから、といった説明は思いつきますが、それを裏づけるところまでは今回やれていないんですよね。
まとめ
- 「1月の方向がその年を占う」は、日本では1月ぶんを差し引くと効き目が消えました。日本株はもともと65.8%の年が上昇で終わるので、当たっているように見えていただけでした。
- 効いていたのは年明け最初の3〜7営業日。上げた年はそのあと78.3%がプラス、下げた年は50.0%と五分五分に戻るだけ、という非対称でした。
- 前年の勢いだけでは説明がつかず、とくに前年に下げた年ほど、年明けの数日で明暗が分かれます。
- 2026年は合図が出ている年です。同じ形の36年は75%がプラスで終わりましたが、9年は外しています。
よくある質問
- データ出典:Stooq(日経平均株価 日次終値・1949年5月16日〜/S&P500 日次終値)。集計はすべて私が行っています。
- 対象期間を1950〜2025年の76年にした理由:日経平均の記録が1949年5月16日から始まっており1949年が年の途中からになること、および2026年がまだ終わっていないためです。
- 2026年の値のみ、Stooq ^NKX の2026年8月28日終値(66,405.56円)を使っています。年末時点の確定値ではありません。
- 騰落率はすべて終値ベースで、配当・手数料・税金は含んでいません。
- 「まぐれでもこのくらいは出る範囲」は、割合の差の標準誤差を2倍した幅です。おおまかに、本当は差がなくても20回に1回くらいはこの幅の外に出てしまう、という目安として使っています。
- 書籍:ジェフリー・A・ハーシュ『アノマリー投資』(長尾慎太郎監修・山口雅裕訳、パンローリング、2013年)。原書は The Little Book of Stock Market Cycles(Jeffrey A. Hirsch & Douglas A. Kass, 2012)。本文中の米国の数値は同書の記載によります。
本記事は過去データの分析であり、将来の値動きを保証するものではありません。特定の銘柄や売買を推奨するものでもありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。数値の集計は私が行っていますが、誤りが含まれる可能性があります。















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