いま東京市場は銀行株に沸いています。三菱UFJの時価総額はトヨタを抜いて一時トップに立ち、長期金利は約30年ぶりの高さ。合言葉のように「金利が上がれば銀行株は買い」と語られます。私も何度も耳にしてきました。ただ、それが本当に再現性のある関係なのか、今がたまたま良いだけなのか、腰を据えて確かめたことはありませんでした。今回は日本10年金利と銀行株の20年分を突き合わせます。すると通説はおおむね本当でしたが、効いているのは金利の“高さ”ではなく”向き”で、しかも今の強さは「金利が上がっていく時期」に限った話だという、少し据わりの悪い結果になりました。
- 金利が上がった月、銀行は対TOPIXで平均+1.24%勝ち(勝率60%)。下がった月は−1.32%負け。向きとしては通説どおりです。
- ただし効いているのは金利の“高さ”ではなく”向き”。金利が高いか低いかで銀行の成績を分けても差はわずか+0.40%ですが、上がったか下がったかで分けると差は+2.57%と大きく開きます。
- 金利が下がり続けた2005〜2021年は銀行が負け続け、金利が上がり始めてから復活しました。今の強さは「金利が上がっていく時期」の追い風で、20年通算ではまだTOPIX負けです。
- 判定:★★★★☆(条件付きで正しい)
- 対象:東証銀行業(銀行株ETF・コード1615)を銀行株の代表とし、TOPIXに対する超過リターン(=市場に勝ったか)で見る
- 金利:日本10年国債利回り。その月に前の月より上がったか下がったかで「上がった月/下がった月」に分ける
- 期間:2005年11月〜2026年7月(月次248か月)。金利データがこの起点からのため、超低金利・マイナス金利・金利上昇の3つの時期をまたぐ
- 指標:株価指数どうしの比較(配当は未考慮)。特定銘柄の売買を勧める趣旨ではありません。出典=Stooq、集計は私の自作です
そもそも、なぜ金利が上がると銀行株は買われる?
データを見る前に、肝心の「なぜ?」を押さえます。銀行は、低い金利でお金を集め、それより高い金利で貸す会社です。その差が、銀行のもうけになります。
金利が上がる局面では、貸す金利は上がりやすい一方で、預金金利の引き上げは遅れがちです。そのため銀行の利益が増える期待が高まり、投資家は銀行株を買いやすくなります。つまり 「金利↑ → 銀行利益↑(期待) → 銀行株↑」 という流れです。
この「貸す金利」と「払う金利」の差を、専門用語で「利ざや」と呼びます。図で見るとこんなイメージです。
金利上昇は良いことばかりではなく、銀行が持つ国債に含み損が出る面もあります。それでも市場が銀行株を買うのは、目先の含み損より「差=利益が増える」将来を重く見るから。だから金利が“上がっているあいだ”が順風で、このあと見る「効くのは金利の”水準”ではなく”向き”」に、そのままつながります。
まず、20年の地図を一枚で
細かい話に入る前に、全体像です。銀行株の対TOPIX相対(=銀行がTOPIXに勝っていれば上、負けていれば下)と、日本10年金利を重ねました。日銀がマイナス金利を導入したのは2016年、それを解除して”金利のある世界”に戻したのは2024年3月です。その2つを縦の点線で入れています。
ひと目で分かるのは、2本の線が同じ方向を向いていることです。金利が下がり続けた期間、銀行株はTOPIX対比で沈み続け、相対は100から一時23.5(2020年末)まで落ちました。そこから金利が上向くとともに反発し、足元は64まで戻しています。ただし裏を返せば、20年通算では銀行株はいまだTOPIXに負けている(相対100→64)という事実も、この一枚は同時に語っています。
金利が上がった月、銀行は市場に勝つ
では「向き」との関係を数字にします。248か月を「金利が上がった月」と「下がった月」に分け、それぞれで銀行の対TOPIX超過リターンを平均しました。
これはノイズで片づけられる差ではありません。方向がそろっているだけでなく、勝率でも60%対31%とはっきり分かれます。通説の骨格——金利上昇は銀行株の順風——は、データ上たしかに実在します。
でも”効いている”のは、金利の高さではない
ここが今回いちばん伝えたいところです。同じ銀行株の成績を、金利の「高さ」で分けた場合と、「向き」で分けた場合で並べてみました。
「金利が高いから買い」ではなく「金利が上がっているあいだが順風」でした。
じつは“高い・低い”は、いつと比べるか次第で変わってしまうあいまいな物差しです(ここでは20年間の真ん中=中央値0.7%を境にしました)。その基準しだいで動く”高さ”よりも、「前の月から上がったか・下がったか」という向きのほうが、はっきりしていて銀行株の動きをよく説明しました。つまり見ているのは「金利が高いか」ではなく、「前の月よりさらに上がったか」です。金利が2%でも、前月より下がっていれば”下がった月”に入ります。だから「もう金利は十分高いから、これから銀行株は…」という言い方は、この20年のデータからは支持しにくいのです。順風が続くかは、金利がこれからも上がるかにかかっています。
勝ちパターンは、金利が上がる時期のもの
もう一つ、目を背けたくなる留保があります。時期を3つに割ると、通説が「効く/効かない」がきれいに入れ替わるのです。
金利が下がり続けた2005〜2021年、銀行はTOPIX対比でじりじり負け続けました。マイナス金利が導入された2016年は対TOPIX−8%、コロナで金利が這った2020年は−25%。「金利が上がれば買い」は、裏返せば「上がらなければ何年でも報われない」という条件付きの話です。日銀がマイナス金利を解除したのは2024年3月。今の強さは、2022年ごろから金利が上がり始めた追い風に乗っているぶんが大きい、と私は受け止めています。
相対では勝つが、絶対では守ってくれない
もう一段、実戦的な注意点です。金利が上がる月でも、地合いが悪い(TOPIXが下げる)ときがあります。この局面でも銀行はTOPIXには相対で勝ちます(超過+1.16%)。ところが銀行株そのものの値動きは平均−2.5%。つまり「みんなが下げる中でマシ」なだけで、絶対の下落を防いでくれるわけではないのです。銀行株は”守りの資産”ではなく、金利上昇に乗る”攻めの相対プレー”だと考えておくほうが、私は安全だと感じます。
なお、ひとくちに銀行株といっても、地銀・メガ・信託・ネットで金利の効き方はかなり違います。同じ“相対プレー”でも、どの業態が金利に強く、株主還元がどれだけ手厚いか。それを14銘柄で整理したのが日本の銀行株の見極め方です。
2026年の答え合わせ
最後に、足元です。日銀は2026年6月に政策金利を1.0%へ引き上げ、長期金利は約30年ぶりの高さになりました。2026年はここまで金利が2.11%→2.69%へ上昇し、銀行株は年初来+38.8%とTOPIX(+16.1%)を22.7ポイント上回っています。図1の右端で2本の線がそろって跳ねているのがそれです。まさに通説どおりの”金利上昇×銀行株高”ですが、これは「金利が上がったから」効いているのであって、金利の向きが変われば前提も変わる——という今回の結論を、そのまま体現した1年でもあります。
私は銀行株にかぎらず、金利の動向を真っ先に気にします。今回の検証で、銀行株は金利としっかり関連があると確かめられたので、これからも金利が上を向いているかはチェックし続けるつもりです(あくまで私の見方で、推奨ではありません)。
- 〇金利が上がった月、銀行は対TOPIXで平均+1.24%・勝率60%。下がった月(−1.32%・31%)との差は月+2.57%。
- △効くのは金利の”向き”。金利の”高さ”で分けても差はわずか+0.40%で、「高いから買い」ではない。
- ×金利が下がった2005〜2021年は負け続け、20年通算では今もTOPIX負け。無条件の勝ち筋ではない。
よくある質問
※本記事は過去データの傾向を筆者が自作集計したもので、特定の銘柄・売買を推奨するものではありません。将来の成果を保証するものでもありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。数値はStooq提供データ(TOPIX・東証銀行業ETF・日本10年国債利回り、2005年11月〜2026年7月)に基づき、株価指数どうしの比較で配当は未考慮です。金利の”高さ”を分ける基準は期間中央値(0.7%)を用いました。










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