ETFの分配金捻出売りで日経平均は本当に下がる?“7月の風物詩”を過去18年で検証

💬 今回検証する通説
「ETFの分配金捻出売り」で、7月頭の日経平均は下がる
30秒でわかるこの記事
  • ETFの決算日(今年は7/8・7/10、売り需要1.5〜1.7兆円)に、日経の“当日”は確かに下がりやすい。過去18年で12年が下落していました。
  • でも、その下げはほぼ1営業日で埋まる。7月上旬をトータルで見ると、むしろプラスでした。
  • 判定:★★★★☆(当日は下がりやすい。ただし、すぐ戻す)。

毎年7月になると、「ETFの分配金捻出売りに警戒」というニュースが流れます。今年(2026年)は1.5〜1.7兆円規模とも言われ、「株価が大きく下がるのでは」と心配する人も多いでしょう。

でも、本当にそうなのでしょうか。

過去18年の日経平均を調べると、「当日は下がりやすい」けれど「その下げはほぼ1営業日で埋まる」という、意外な結果になりました。

この記事でわかること
  1. そもそも「ETFの分配金捻出売り」とは何なのか(なぜ7月に集中するのか)
  2. 決算日の当日、日経平均は本当に下がっているのか
  3. 下がったとして、その下げはどれくらいで埋まるのか

そもそも「ETFの分配金捻出売り」って?

ETF(上場投資信託)は、日経平均やTOPIXといった指数に連動するように作られた商品です。中身は指数とほぼ同じ株の詰め合わせで、保有している株からは配当金が入ってきます。この配当は「未収配当金」としていったんファンドの中にため込まれ、指数から離れないように、その分だけ株価指数先物を買い建ててフルインベストメント(常に満額運用)を保っています。

そして年に一度の決算日に、ためた配当を分配金として投資家へ払い出します。このとき、払い出す現金を用意するために、保有していた現物株や先物をまとめて売る必要が出てきます。これが「分配金捻出売り」です。3月決算企業の配当が6月の株主総会で正式に決まり、それを受けてETFが7月に決算する——という暦の都合で、売りは毎年7月上旬(今年は7/8・7/10)に集中します。今年の規模は現物・先物あわせて1.5〜1.7兆円と試算されています。

ひとつ用語だけ補足します。ここでいう決算日は、分配金を受け取る権利が確定する“基準日”のこと。捻出売りは「その1日だけドカッと出る」というより、この決算日に向けて出る(一部は前もって、分散して執行される)という関係です。※3

ここまで読むと、「そんな大きな売りが一度に出たら、そりゃ下がるでしょう」と思いますよね。でも、データを並べてみると、話はそう単純ではありませんでした。

決算日、日経は本当に下がった?

まず素直に、ETFの決算日(7/8前後)の“当日”、日経平均が何%動いたかを、2008年から2025年まで並べてみました。赤が下落した年、紺が上昇した年です。

ETF決算日(7/8前後)、日経平均は本当に下がった? 決算日“当日”の騰落率(2008〜2025年)。赤=下落、紺=上昇(ふつうの1日は平均+0.04%) 下落した年 上昇した年 18年中12年が下落 +3% +2% +1% +0% -1% -2% -3% 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 平均 -0.56% 出典:Stooq(日経平均の日次終値)をもとに集計。決算日は7/8以降の最初の営業日。配当は含まず。
図1:ETF決算日(7/8前後)の“当日”の日経平均騰落率(2008〜2025年)
▼ 検証条件
対象:日経平均の日次終値(指数)/期間:2008〜2025年の各年/決算日:7月8日以降の最初の営業日/集計:前営業日終値→当日終値の騰落率/配当:含まず/出典:Stooq

ぱっと見て、赤(下落)が多いのが分かります。18年のうち12年、つまり約7割の年で決算日は下落していて、平均すると−0.56%。日経の“ふつうの1日”の平均が+0.04%ほどなので、決算日だけ明確に下向きのクセがあります。ここは通説どおりで、決算日の当日は、確かに下がりやすいと言えそうです。

ただし、下げ幅そのものは小さめです。平均−0.56%という数字も、2008年(−2.45%)や2015年(−3.14%)といった、そもそも相場全体が荒れていた年に引っ張られています。こうした波乱の年を除くと、平時の決算日の下げはもっと浅いんですよね。

白眉 その1

決算日の当日は、確かに下がりやすい。
過去18年で、7/8前後は12年(約7割)が下落。

でも、その下げはすぐ埋まる

大事なのはここからです。当日に下がったとして、その下げはそのまま残るのか、それともすぐ埋まるのか。決算日の前日終値を起点にして、その後の日経平均が平均でどう動いたかを追ってみました。

決算日の下げは、ほぼ1営業日で埋まる 決算日の前営業日終値を起点にした、その後の平均リターン(2008〜2025年) +1.0% +0.5% +0.0% -0.5% -0.56% 当日 -0.01% +1営業日 +0.10% +3営業日 +0.55% +5営業日 +0.99% +10営業日 ↓ 当日は下押し むしろプラス圏へ ↑ 出典:Stooq(日経平均の日次終値)をもとに集計。決算日前営業日の終値を100とした累積リターンの平均。配当は含まず。
図2:決算日の前営業日終値を起点にした、その後の日経平均の平均リターン
▼ 検証条件
対象:日経平均の日次終値(指数)/期間:2008〜2025年の各年/起点:決算日の前営業日終値/集計:当日・+1・+3・+5・+10営業日後までの累積リターンの平均/配当:含まず/出典:Stooq

決算日“当日”は−0.56%まで沈みますが、翌営業日にはもう−0.01%とほぼ帳消し。3営業日後には+0.10%とプラスに顔を出し、5営業日後は+0.55%、10営業日後には+0.99%まで戻していました。つまり、当日ちょっと凹んでも、ほぼ1日で埋まってしまうという絵です。

さらに視野を広げて、7月上旬(7/1〜15)をまるごとの成績で見ると、平均は+0.56%。しかも下がったのは18年中6年だけでした。「捻出売りで7月頭は軟調」というイメージとは逆で、上旬をトータルで見ると、むしろ上げている年のほうが多かったわけです。

白眉 その2

下げても、ほぼ1営業日で埋まる。
7月上旬をトータルで見ると、むしろプラスだった。

なぜ「1.7兆円」でも大きく崩れないのか

1.7兆円という売りが出るのに、なぜ数日で埋まってしまうのか。理由はいくつか重なっていると考えられます。私なりに整理すると、こんな3つです。

1
市場に広く知られている=先回りされる
この売りは毎年ニュースになるので、投機筋があらかじめ先物を売り建てて待ち構えます。すると決算日の当日は、その売り方の「買い戻し」が逆に相場を支える、なんてことも起きたりします。あらかじめ知られている売りは、その時点でだいぶ織り込まれてしまうんですよね。
2
売りは1日で終わらせない(分散執行)
運用会社も、一度に大量に売れば自分で値を下げてしまいます。だから時間を分けて執行すると見られていて、「当日ドスンと落ちる」というより、じわっと薄く出るイメージです。
3
活況相場なら、売買代金に対して軽微
1.7兆円は大きな数字に見えますが、売買が膨らんでいる相場ではその中に吸収されやすい。実際、株高で商いが厚い年ほど、下押しは限定的になりやすいように見えます。

証券会社のストラテジストのなかにも、「そもそも市場が効率的なら、7月上旬より前に調整して織り込んでいるはずで、データ上、7月上旬を境に日本株が下がるという裏付けは乏しい」という見方があります。私が並べたデータも、その指摘とだいたい同じ方向を向いている、という気がします。

私の判定:「当日は下がる、でも戻す」で★4

📊 通説検証 判定
通説:「ETFの分配金捻出売りで、7月頭の日経平均は下がる」は本当?
  • 決算日の当日(7/8前後)は下がりやすい(過去18年で12年下落・平均−0.56%)
  • 今年も7/8・10に1.5〜1.7兆円の売り需要と、下押し圧力そのものは実在する
  • 下げ幅は小さく、2008・2015年のような“もともと荒れていた年”に偏っている
  • ×その下げはほぼ1営業日で埋まり、7月上旬トータルではむしろプラス(=振り回されて売ると損)
★★★★☆
判定:当日は下がりやすい。ただし、すぐ戻す

星の付け方を正直に説明すると、こうです。通説を「決算日当日は下がる」という意味に取るなら、これはデータではっきり出ている(12/18年)ので、ほぼ満点の★5に近い話です。でも、多くの人がイメージする「7月頭は大きく崩れる」という意味では当たりません。下げはほぼ1営業日で埋まり、7月上旬トータルではむしろプラスだからです。当たっている部分から、この「崩れない」ぶんを1つ差し引いて★4——というのが私の見立てです。「当日は下がる、でも戻す」。ここまでをワンセットで覚えておくと、毎年7月のニュースに振り回されずに済む、という気がします。

初心者はどう受け止めればいい?

「じゃあ7月頭は身構えたほうがいいの?」と思いますよね。これも「こうすべき」とは言えないので、今回の検証で私が持てた“こんな見方もあるよ”を3つ置いておきます。

1
「1.7兆円」は規模の話で、方向の話ではない
大きな売りが出るのは事実ですが、それがそのまま「下がる」を意味するわけではありません。先回りと分散で、数字ほどの下押しにはならないことが多いようです。
2
当日の下げは“押し目”の範囲で終わりやすい
過去はほぼ1営業日で埋まっていました。慌てて売るより、いったん様子を見るくらいのほうが、結果的に落ち着いていられたりします。
3
これは「過去の平均」で、毎年その通りではない
相場全体が崩れている年は、決算日も大きく下げました。捻出売り“だけ”を理由に動く相場ではない、という前提は忘れないでおきたいところです。

この検証の前提だけ、正直に

本質日経平均(指数)の値動きだけを見ています

今回は日経平均そのものの終値で「決算日の前後で何%動いたか」を集計しています。実際の捻出売りは現物株と先物にまたがって執行されますが、その一つひとつの売買を追ったものではありません。また、ETFの決算日は年によって曜日の都合で1〜2日ずれるため、「7月8日以降の最初の営業日」を決算日として拾っています。対象を2008〜2025年にしたのは、ETFの残高が大きく育って“捻出売り”が話題になり出したのが近年だからです。※1 ※2

私の場合は
私はこのイベントを、「知ってはいるけれど、売買では基本スルー」で見ています。理由はシンプルで、今回のデータでは当日下がっても、翌日にはほぼ埋まっていたからです。意識するとすれば、「今日は需給で少し押しやすい日かもしれない」と頭の片隅に置く程度。あくまで私のやり方、ですが。

まとめ

通説検証 #03 のまとめ
  • 決算日の当日(7/8前後)は下がりやすいのは本当。過去18年で12年(約7割)が下落していた。
  • ただしその下げはほぼ1営業日で埋まり、7月上旬をトータルで見るとむしろプラス。
  • 「1.7兆円の売り」は規模の話。先回りと分散で、数字ほどの下押しにはなりにくい。これは過去の検証で、将来の保証でも投資の推奨でもありません。
  • 判定:★★★★☆(当日は下がりやすい。ただし、すぐ戻す)

「1.7兆円の売り」という数字だけを見て身構えると、たいてい肩透かしに終わります。今回のデータが示していたのは、下押しは本物だけど、すぐ埋まる、という7月の“お約束”でした。

よくある質問

Q. 今年(2026年)の7/8・7/10も、下がるってこと?
A. あくまで「過去はこうだった」という話です。過去の平均では決算日当日は下がりやすい一方、すぐ埋まってきました。相場全体の地合いのほうが影響は大きいので、捻出売りだけを理由に上下を決めつけないのが安全です。
Q. 1.7兆円も売られて、なんで大きく下がらないの?
A. 毎年予告される売りなので、投機筋が先回りして先物を売り、当日はその買い戻しが相場を支えることがあります。運用会社も時間を分けて売るため、「当日ドスンと落ちる」形にはなりにくいと見られています。
Q. 「配当再投資買い」で逆に上がる、という話も聞くけど?
A. これは別の需給イベントで、また別の回で検証します。今回は「7月のETF分配金捻出売り」に絞っています。
脚注・前提
  • ※1 データ出典:Stooq(日経平均の日次終値)。終値ベースで私が集計し、作図しました。決算日は「7月8日/10日以降の最初の営業日」を採用しています。
  • ※2 「決算日当日」は前営業日終値→当日終値の騰落率。「埋め戻し」は決算日の前営業日終値を起点にした、その後N営業日後までの累積リターンの平均です。対象は2008〜2025年。ETFの決算日・売り需要の規模は年により異なり、将来も同じ動きになる保証はありません。数値は指数ベースで、配当・手数料・税は考慮していません。
  • ※3 ETFの決算日は、分配金の権利が確定する“基準日”(=計算期間の締め日)で、株式会社の決算日と同じ位置づけです。分配金を受け取れる最終売買日「権利付最終日」は決算日の2営業日前、その翌営業日が「権利落ち日(分配金落ち)」で、この日はETF自身の市場価格が分配金分だけ下がります(指数である日経平均が下がるわけではありません)。本記事で見ているのは、捻出売り=現物株・先物への実際の売りが、日経平均に与えた影響です。
※本記事は過去データの分析であり、将来の運用成果を示すものではありません。特定の銘柄・商品・投資手法を推奨するものではなく、投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。記載の数値は私が公開データをもとに集計したもので、正確性を保証するものではありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA