「SQの週は荒れるから、手を出すな」——先物やオプションを触ったことがなくても、一度は聞く警句だと思います。メジャーSQの週を36年・145回ぶん数えた結論を先に言うと、MSQ週が特別大きく動くわけではありませんでした。ただし、上がっても下がっても結局元の場所あたりに戻ってくる「行って来い」の週が、平常の週の約1.4倍あったのです。
- MSQ週の値動きの大きさ(日次騰落率の絶対値の平均)は1.079%と、平常週の1.044%とほぼ同じ。1%以上動いた日の割合はむしろ平常週より少なく、「大荒れ」は確認できませんでした(1990〜2026年・145週)。
- ただし「行って来い週」(動いた割に進まない週)はMSQ週の53.8%と、平常週(37.4%)の約1.4倍。この傾きはどの年代でも一貫し、2020年代は68%とむしろ強まっています。
- 派生の通説も検証しました。「魔の水曜日」は確認できず(MSQ週の水曜は平均+0.036%・ほぼコイントス)。「SQ通過後のアク抜け」は逆で、通過後はむしろトレンドが続きやすい時期が2010年代まで続いていました。
- 判定:★★★☆☆(半々——「大荒れする」は外れ、「振らされる」は当たり)
- SQ日=毎月第2金曜(休場なら前営業日)とし、3・6・9・12月をメジャーSQ(145回)、それ以外をミニSQ(292回)として特定する
- まず「荒れる」を値動きの大きさ(日次騰落率の絶対値)で測り、次に方向感のなさ(上下したあげく、元の場所に戻ってきたか)を測って、平常週と比べる
- 派生の通説2つ(魔の水曜日・SQ通過後のアク抜け)もあわせて検証。対象は日経平均の日次終値・1990〜2026年。出典=Stooq、集計は私の自作です
そもそもSQとは——なぜ「荒れる」と言われるのか
SQは「特別清算指数(Special Quotation)」の略です。日経225の先物やオプションといったデリバティブは、株と違っていつまでも持ち続けることができず、決められた期日にまとめて清算されます。その清算価格(SQ値)を計算する日がSQ日で、毎月第2金曜日。とくに3・6・9・12月は先物とオプションの清算が重なるため「メジャーSQ(MSQ)」と呼ばれ、それ以外の月の「ミニSQ」と区別されます。
清算日が近づくと、建玉の手じまいや翌限月への乗り換え(ロールオーバー)、先物と現物の価格差を利用した裁定取引の解消など、ふだんとは目的の違う売買が集中しやすくなります。だから「SQ週は荒れる」——ここまでが通説の筋書きです。周辺には派生の通説もあって、「SQ週の水曜日は要警戒(魔の水曜日)」、そして「SQを通過するとアク抜けしてトレンドが変わる」。この記事では、この3点をまとめて検証します。
結論から——MSQ週は、「荒れて」いなかった
まず「荒れる」を、誰もが思い浮かべる意味——値幅が大きい、ボラティリティが高い——のとおりに測ります。SQ週(第2金曜を含む月〜金)に属する営業日の日次騰落率の絶対値を平均し、ミニSQ週・平常週(どちらのSQ週でもない週)と比べたのが図2です。
結果は表題のとおりで、MSQ週の平均は1.079%、平常週は1.044%。差は0.035ptしかありません。1%以上動いた日の割合にいたっては、MSQ週38.1%に対して平常週39.5%と、むしろMSQ週のほうが少ないのです。年代別に分けても差は最大±0.1pt以内で、どの時代にも「大荒れのSQ週」は見つかりませんでした。
唯一はっきり動いていたのがSQ当日です。MSQ当日の平均|騰落率|は1.242%と、SQのない金曜(1.002%)より約2割大きく、これはどの年代でも同じでした。SQ値の算出に向けて売買が集中するぶんの「揺れ」は、確かに当日には出ています。ただし方向は時代でバラバラです。2000〜2010年代のMSQ当日は勝率6〜7割と上がりやすい日でしたが、2020年代は勝率44%・平均-0.366%と逆転しています。言えるのは「当日は少し動く」まで、という感じですね。
当日だけ動く背景として考えられるのは2つです。清算される限月の取引最終日は前営業日(通常は木曜)なので、SQ当日は残った建玉が寄り付きの株価で一斉に清算される日にあたります。その算出に合わせて裁定解消などの現物注文が寄り付きに集中すること。そして期近オプションの建玉が消えて値動きの「抑え」が外れ、新しい限月で改めて方向を取る売買が入り始めること。どちらが主かは終値データでは分解できないため、ここでは推測にとどめます(FAQも参照)。
ここで話が終われば「ほぼ気のせい」の★2で締める記事です。ただ、「SQ週はやりにくい」という体感を持つ人は多いはずで、実はデータもそれを裏付けていました。荒れ方の「向き」が、思っていたのと違っただけなのです。
本題——「行って来い週」が、平常週の約1.4倍あった
結果を先に言います。MSQ週の53.8%は「行って来い週」——上がったり下がったりしたあげく、結局元の場所のあたりに戻ってきた週——でした。平常週では37.4%ですから、約1.4倍です。しかもミニSQ週は36.7%と平常週並みなので、これはメジャーSQ固有の現象と言えます。
数え方はシンプルです。週のあいだに動いた距離(毎日の値動きの合計)に対して、実際に進んだ距離(週の始めから終わりまでの騰落)が3分の1に満たなかった週を「行って来い週」と数えました。たとえば5日間で合計5%ぶん動いたのに、週末に振り返ると1%しか進んでいなかった——そんな週のことです。厳密な定義と、線引きを変えても結論が変わらないことの確認は、脚注に回します。
「値動きの大きさは同じなのに、行って来いは多い」が不思議に感じたら、毎日ちょうど1%ずつ動く2つの週を想像してみてください。5日続けて+1%なら、週末には+5%進んでいます。+1%と-1%を交互に繰り返すと、同じだけ動いたのに週末はほぼ元の場所です。1日ごとの値幅が同じでも、向きが揃うかどうかで週の景色は別物になる——さきほど測ったのは値幅、ここで測っているのは向きの揃わなさです。結果が図3です。
図3の左半分がその実額です。MSQ週は平均で5.39%ぶん動いて、実際には2.11%しか進んでいません。平常週は5.01%動いて2.26%進むので、動く量は同じなのに、進む量だけ少ないのがMSQ週ということになります。
この傾きは、一時代の癖でもありません。図4のとおり、行って来い週の割合は1990年代48%→2000年代52%→2010年代52%→2020年代68%と、どの年代でも平常週(35〜39%)を上回り続けています。今回の検証で見つかった偏りのなかで、これがいちばん頑健でした。統計的にも偶然では説明しにくい水準です(脚注)。
動いた割に進まない「行って来い週」は53.8%——平常週の約1.4倍。
なぜ「行って来い」になるのか
はっきり証明できる話ではないので、私の見方として書きます。SQ週に増えるのは、裁定取引の解消や限月の乗り換えといった、「上がると思って買う・下がると思って売る」のではない売買です。持ち高を畳むための注文は、相場観と関係なく買いにも売りにも出ます。方向を持たない売買が普段より厚く行き交えば、値幅は普段どおりでも向きだけが揃わなくなる——「行って来い」が増えるという今回の結果とは、つじつまが合うんですよね。あくまで値動きの形からの推測ですが、「SQ週はやりにくい」という体感の正体も、たぶんここにあるという気がします。
おまけの検証——「魔の水曜日」と「アク抜け」は本当か
ここからは、冒頭で挙げた派生の通説2つを片づけます。結論はどちらも「確認できず」——ただしアク抜けのほうは、少し面白い「逆」の形が出ました。
魔の水曜日——データの中にいなかった
SQ週の水曜日は、オプションの清算をにらんだポジション調整が出やすく、下がりやすい・荒れやすい——いわゆる「魔の水曜日」です。私も少しだけ身構える日だったのですが、SQ週の水曜だけを取り出して測ったのが図5です。
MSQ週の水曜は平均+0.036%・勝率48.6%で、ほぼコイントスでした。ミニSQ週の水曜が平均-0.123%・勝率47.2%とうっすら弱く、「魔」の気配があるとすればむしろミニ側なのですが、これも統計的には誤差の範囲です(脚注)。年代別に見ると向きはさらにバラバラで、MSQ週の水曜は1990年代-0.177%、2010年代は+0.222%。どの年代にも安定して住みついている「魔」は見つかりませんでした。身構えるだけ肩が凝る、という結果です。
SQ通過後のアク抜け——むしろ「ダメ押し」だった
最後は「SQを通過するとアク抜けして、トレンドが変わる」です。SQ日をはさんだ前5営業日と後5営業日の騰落の符号が入れ替わった割合(反転率)を、すべての営業日を起点にした基準値と比べました(図6)。
結果は通説の逆でした。MSQの反転率は40.0%と、基準の49.9%より10pt低い。トレンドが変わるどころか、続きやすいのです。とくにMSQに向けて下げていた場合、通過後5営業日はさらに平均-0.61%(基準は+0.13%)。アク抜けではなく「ダメ押し」と呼びたくなる形で、窓を10営業日に広げても同じ向きでした(反転率42.8%)。終値が25日移動平均線のどちら側にいるかで測っても、MSQ後10営業日以内に反対側へ抜ける率は51.7%と基準(54.6%)より低く、向きは一致します。移動平均線まわりの通説は#05 ゴールデンクロスでも検証しましたが、ここでも「線を境に世界が変わる」ことはありませんでした。
うっすらアク抜けらしきものが見えるのは、むしろミニSQです(反転率52.7%、SQに向けて下げていた場合の通過後は平均+0.51%)。ただ差は小さいので、こちらは参考程度に受け取ってください。
注意点がひとつあります。年代別に見ると、MSQの「ダメ押し」は1990年代35.0%・2000年代45.0%・2010年代32.5%と30年間一貫していたのに、2020年代は52.0%と基準(51.3%)並みになっています。#11 ヘッジファンドの45日ルールとまったく同じ、「2000〜2010年代の偏りが2020年代に消える」パターンなんですよね。回数がまだ25回なので断定はしませんが、少なくとも「いまも使える偏り」と考えるのは危うい、といったところでしょうか。
本記事の「値動き」はすべて日次終値ベースです。日中に急落して急返した1日は、終値だけを見ると小さな動きに見えるため、寄り付きの波乱やザラ場の乱高下まで含めた「荒れ」は測れていません。SQ当日の寄り付き前後の攻防(SQ値をめぐる駆け引き)は、この記事の枠の外にあります。
また、「なぜ行って来いになるのか」の説明は値動きの形からの推測であって、因果の証明ではありません。判定はあくまで「日経平均の値動きに出るか」で行っています。
- ×値動きの大きさは平常週並み(差0.035pt)。1%以上動く日はむしろ少なく、「大荒れ」はどの年代でも確認できない。
- 〇「行って来い週」は53.8%と平常週(37.4%)の約1.4倍。全年代で一貫し、2020年代は68%とむしろ強い。ミニSQ週には見られないメジャーSQ固有の現象。
- △MSQ当日だけは値動きが約2割大きい(全年代で一貫)。ただし方向は時代依存で、「上がりやすい」とも「下がりやすい」とも言えない。
- ×「魔の水曜日」は確認できず。「通過後のアク抜け」は逆で、2010年代までは反転しにくい「ダメ押し」——それも2020年代には消えかけている。
★3とした理由を正直に書きます。「荒れる=大きく動く」と読むなら、答えはきれいに×で、★1〜2の水準です。しかし「SQ週はやりにくい」という体感まで含めて読むなら、方向感のなさは全年代で一貫する本物の偏りで、こちらは〇。通説の言葉が指す中身しだいで採点が正反対になる、シリーズでも珍しい形でした。「大荒れ」は外れ・「振らされる」は当たり——差し引きで真ん中の★3です。
この結果、実践にどう活かす?
私はMSQ週でも売買自体は避けませんが、新しく方向に賭けるトレードだけは翌週に回すことが多いです。荒れて怖いからではなく、動いても戻ってくることが多い週だと知っているからです。そして「SQ通過で潮目が変わった」という解説を見かけたら、今回の反転率40%を思い出すようにしています。カレンダーより地合い、は私の中で変わらない結論です。
まとめ
- メジャーSQ週の値動きの大きさは平常週とほぼ同じ(1.079%対1.044%)で、「大荒れ」は1990年以降のどの年代でも確認できませんでした。はっきり動くのはSQ当日だけ(約2割増)です。
- 代わりに増えていたのは「方向感のなさ」。動いた割に進まない「行って来い週」がMSQ週の53.8%と平常週(37.4%)の約1.4倍で、全年代一貫・2020年代は68%。ミニSQ週には見られない、メジャーSQ固有の現象でした。
- 「魔の水曜日」は確認できず、「SQ通過後のアク抜け」はむしろ逆(反転率40.0%=トレンド継続。ただし2020年代は消失気味)。判定は★★★☆☆——大きくは動かない、ただ方向感がなくなる週です。
よくある質問
- SQ日の定義:毎月第2金曜日。第2金曜が休場の場合は直前の営業日をSQ日とした。3・6・9・12月をメジャーSQ、それ以外の月をミニSQと表記した(後者は俗称で、オプション等のSQを指す)。
- 週の定義:SQ週=第2金曜を含む月〜金曜。値動きの大きさ(検証1)は各週に属する営業日の日次騰落率(前営業日終値→当日終値)の絶対値を平均した。行って来い度(検証2)は祝日などで4営業日未満の週を除外して集計した(メジャーSQ週145週はすべて4営業日以上)。
- 「行って来い週」の厳密な定義:効率=|週の騰落率(前週末終値→週末終値)|÷週内の日次騰落率の絶対値の合計(=動いた距離)とし、効率が1/3未満の週を「行って来い週」とした。効率の中央値はMSQ週0.303・平常週0.429。線引きを0.2〜0.5のどこに置いてもMSQ週の割合は平常週より9〜17pt高く、結論は変わらない。
- 対象期間を1990年以降とした理由:日経225先物の上場が1988年9月、日経225オプションが1989年6月で、SQという仕組みが両輪で回り始めて以降を対象とするため。それ以前はSQが存在しないため図表から除いた。
- 統計的な強さ:行って来い週の割合の差(53.8%対37.4%)は割合の差の検定でzがおよそ4となり、偶然では説明しにくい水準。一方、MSQの反転率40.0%と基準49.9%の差はzがおよそ2.4、ミニSQ週水曜の平均-0.123%(全営業日比)はzがおよそ1.5で、こちらは偶然のブレと断定も否定もしにくい水準である。
- 逆張り検証(FAQ)の条件:前半=週の最初の3営業日(月〜水)、後半=3日目の終値→週末の終値。5営業日そろった週のみを対象とし、MSQ週はN=144。前半×後半の相関はピアソン係数で、年代別には1990年代-0.41/2000年代-0.27/2010年代-0.26/2020年代+0.29。オーバーナイト版=MSQ週の月〜木に日次+1.5%以上上昇した日(N=64)の翌営業日リターン(平均-0.10%・中央値+0.09%・翌日下落率44%)。いずれも売買コスト・空売り規制は考慮していない。
- 終値ベースの限界:日中の高値・安値は使用していないため、ザラ場の乱高下や寄り付きの波乱は測定に含まれない。「荒れる」の定義は日次終値の振れ幅と週内の相殺度合いに限られる。
- 出典:Stooq 日経平均株価 日次終値(1949/5/16〜2026/6/5)。SQ日はカレンダー計算で私が生成し、集計・作図も私が行った。











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