- 1日で3%以上下げないと、反発は始まりません。1%や2%の下げでは、翌日はふだんと何も変わりませんでした。
- 戻りは3営業日で終わります。3日で+1.18%まで戻ったあと、残り17日で足されたのは+0.38%。ふだんの17日ぶん(+0.66%)にも届きません。
- 上げた側には、この鏡がありません。5%以上上げた日の翌日は+0.03%。市場が戻すのは、欲張りすぎたときではなく、怖がりすぎたときだけでした。
- ただし、さらに急落する確率もふだんの8倍です。翌日にもう一度3%以上下げたのは12.1%(ふだんは1.6%)。買い向かうなら、この裏側もセットで見る必要があります。
「急落した翌日は反発する」。下げた翌朝によく聞く言葉ですが、これが当てはまるのは1日で3%以上下げたときだけでした。日経平均の77年・19,130営業日を数えると、3%以上下げた298回の翌日は平均+0.53%。ふだんの翌日(+0.04%)を大きく上回ります。ただしこの戻りは3営業日で終わり、そのあとは、ふだんより歩みが遅くなります。そして同じ翌日に、さらに3%以上下げる確率もふだんの8倍に膨らみます。
- どのくらい下げたら「反発する側」に入るのか
- 反発は何日で終わるのか。乗り遅れてから追いかけると、どうなるのか
- 買い向かった場合、どこまで含み損を抱える覚悟がいるのか
- 下げ続けた末の急落と、上げてきた末の急落で、戻り方は違うのか
まず、どこからが「急落」なのか
この通説のいちばん厄介なところは、「急落」の定義が人によって違うことです。1%下げたら急落という人もいれば、5%でようやく急落という人もいます。そして後で見るように、この線をどこに引くかで結論がまるごとひっくり返ります。
そこで今回は、下げ幅を1%刻みで区切って、それぞれの翌日がどうなったかを別々に数えました。使ったのは日経平均の終値だけです。ある日の終値から翌日の終値まで、という単純な測り方をしています。期間は1949年5月16日から2026年6月5日までの19,130営業日。この間、全営業日の翌日リターンは平均+0.04%、上がった日の割合は52.5%でした。これが「ふだん」の姿で、急落の翌日がこれをどれだけ上回ったかを見ていきます。
検証①:どのくらい下げると、翌日が変わるのか
下げ幅ごとに、翌日がふだんより余計に動いた分を並べたのが図1です。左が下げた日、右が上げた日。棒の背後にある薄い帯は「まぐれでもこのくらいは出てしまう範囲」で、棒が帯からはみ出していたら、偶然では説明しにくいと読みます。件数が少ないほど帯は広くなります。
左側は、きれいな階段になりました。1%以上下げた日(2,665日)の翌日は−0.05%と、ふだんよりむしろ悪い。2%以上(865日)でも+0.15%で、帯の中に収まっています。ここまでは「気のせい」の領域です。
変わるのは3%からです。3%以上下げた298回の翌日は+0.49%ポイントと帯をはみ出し、4%以上で+0.88、5%以上(56回)では+1.67まで伸びます。5%以上下げた翌日は、10回のうち7回が上昇していました(勝率71.4%)。
つまり「下げた翌日は戻る」という言い方は雑すぎて、実際には3%という線の向こう側でしか成り立っていません。日常的な1〜2%の下げでは、翌日に何も起きていない。
そして、この記事でいちばん意外だったのが右側です。
市場が戻すのは、欲張りすぎたときではなく、怖がりすぎたときだけでした。
もし「行き過ぎたら戻る」という力が働いているなら、大きく上げた翌日も同じように反対へ動くはずです。ところが上げ側は、1%以上でも5%以上でも+0.03〜+0.14%ポイントとほぼ横ばいで、上げ幅が大きくなっても何も変わりません。下げ側だけが深さに応じて階段状に伸びる。この非対称が、急落翌日の反発の正体に近いのだろうと考えています。行き過ぎの是正ではなく、下げのときだけ働く別の何か、ということです。
検証②:戻りは、どこで終わるのか
翌日に戻ることは分かりました。では、そこから先も戻り続けるのか。3%以上下げた298回について、急落した日の終値を0として、20営業日ぶんの平均をつないだのが図2です。
形がはっきり出ました。1営業日で+0.53%、2営業日で+1.03%、3営業日で+1.18%。ここで折れて、あとはほぼ横ばいです。10営業日後は+1.23%、20営業日後でも+1.56%。
残り17日間で足されたのは+0.38%で、ふだんの17日ぶん(+0.66%)にも届きません。
ここは丁寧に読む必要があります。急落のあと20日で+1.56%まで戻るので、数字だけ見れば「ふだんの20日(+0.78%)の倍も戻っている」ように見えます。ところがその差は最初の3日で全部ついていて、4日目から20日目までの区間だけを取り出すと、急落後の相場はふだんより歩みが遅い。急落の傷が数週間残る、という言い方をしてもいいかもしれません。
もうひとつ、「反発した=元に戻った」ではない点も押さえておきたいところです。3%以上下げた298回のうち、急落する前日の終値を取り戻すまでにかかった日数は中央値で9営業日。5営業日以内に戻せたのは31%、20営業日以内で62%にとどまります(1年以内には88%が回復)。翌日に+0.53%戻っても、開いた3%の穴はまだ半分以上残っている、ということです。
検証③:乗り遅れてから追いかけると、どうなるのか
ここまでの結果には、実務上いちばん困る続きがあります。急落の翌日に反発するとしても、その日にちょうど買える人ばかりではありません。大きく戻したのを見てから、追いかけて買った場合はどうなるのか。
そこで「当日2%以上上げた日」を全部集めて、直前5営業日以内に3%以上の急落があったかで2つに分けました。急落があった側が「戻しの日」(225日)、なかった側が「普通の上げの日」(610日)です。それぞれの日の終値から10営業日ぶんを追ったのが図3です。
同じ「2%以上上げた日」なのに、先が逆を向きました。普通の上げの日はそのまま伸びていき、5営業日後+0.45%、10営業日後+0.72%。ところが戻しの日は5営業日後で−0.45%、10営業日後でも−0.07%と、伸びるどころか削れています。5営業日後の差は−0.89%ポイントで、まぐれで出る範囲(±0.74)をはみ出しました。
もっと極端な形——5%以上下げた直後に3%以上戻した日——に絞ると42回しかないので帯は出ませんが、翌日−0.05%、3営業日後−0.11%、5営業日後−0.48%と、やはり伸びていません。
検証②とあわせると筋が通ります。戻りは最初の3営業日に集中している。だから戻したのを確認してから乗ると、おいしい部分はもう終わっているのです。「急落の翌日は反発する」は正しいけれど、それを見てから動ける通説ではありませんでした。
検証④:買い向かうと、どこまで沈むのか
ここまでの数字だけを見ると、「3%以上下げたら買い」という読み方をしたくなります。ただ、+0.53%という平均は、うまくいった回とやられた回を均した結果でしかありません。均す前の姿を見ておく必要があります。
翌日の終値が実際どのあたりに着地したのかを、100回あたりの回数でふだんの日と並べたのが図4です。
両側に太っています。翌日にさらに3%以上下げたのは12.1回。ふだんは1.6回ですから、およそ8倍です。同時に+3%より上に跳ねるのも1.4回から13.1回へ増えています。ふだんなら7割が±1%以内に収まるのに、急落の翌日は3割しか収まりません。
この片側だけを見るのが、いちばん危ない読み方です。勝率62%という数字は「8回に1回はもう一度3%以上やられる」とセットになっています。しかも5%以上下げた日に限っても、翌日さらに3%以上下げた割合は12.5%とほぼ変わりません。深く下げたから安全、という関係にはなっていないのです。
連鎖もあります。3%以上下げた298回のうち、その後5営業日以内にもう一度3%以上下げたのは101回(33.9%)。3回に1回は、買ったあとにもう一発来ています。
では、買ったあとどこまで沈むのか。買った日の終値から、その後の最も安い終値までの下落率を「含み損」として測ったのが図5です。
20営業日持ち続けると、19%——5回に1回が10%以上の含み損を抱えていました。ふだんの日に買った場合は7%ですから、約2.7倍です。いちばん沈んだところの中央値も、ふだんの−1.98%に対して−3.51%と深くなります。
ところが5営業日以内に手じまう前提だと、10%以上沈んだのは4%、いちばん沈んだところの中央値は−1.05%。ふだんの日(−0.70%)とほとんど変わりません。
短く切れば傷はふだん並み、持ち続けると5回に1回は10%沈みます。
検証②で「戻りは3営業日で終わる」と出て、こちらでは「長く持つほど深い含み損を抱える確率だけが増える」と出ました。取れる分は先に終わり、リスクだけが後から積み上がるという形です。急落を買うなら期限を決める、という結論に、儲けの側からもリスクの側からも行き着きます。
最後に、最悪がどのくらいだったかも書いておきます。5営業日以内でいちばん深かったのは2008年10月6日(当日−4.25%)に買った場合の−20.97%。20営業日まで持つと、2008年9月30日(当日−4.12%)に買って18営業日後に−36.39%です。記憶に新しいところでは2024年8月2日、−5.81%と急落した翌日がさらに−12.40%でした。この日に「急落の翌日は反発する」で買った人は、翌日にもう一度同じ幅をやられています。
「下げ続けた末の急落ほど、よけいに戻るのでは?」
ここまで読んで、当然こう思われた方がいるはずです。同じ3%の急落でも、高値から突然落ちたのか、すでに下げ続けた末の一撃なのかで、戻り方は違うのではないか。私も同じことが気になったので測りました。
急落する前日までの60営業日(およそ3か月)を見て、−10%以下だった115回を「下げ続けた末の急落」、プラスだった98回を「上げてきた末の急落」として、戻り方の差を窓ごとに並べたのが図4です。
結果は「そう見えるが、証拠としては弱い」でした。差は1営業日後+0.19、3営業日後+0.90、5営業日後+1.12、10営業日後+0.92、20営業日後+1.66と、5つの窓すべてで下げ続けた末のほうが上。方向は一貫しています。ところが5本とも帯の中に収まっていて、偶然と見分けがつきません。片方が115回、もう片方が98回しかないので、この程度の差では判定できないのです。
実額で言うと、5営業日後は下げ続けた末が+1.73%、上げてきた末が+0.60%。3倍近い開きがあるのに「まぐれでもこのくらいは出る」と言われてしまう。5つの窓すべてで同じ向きに出たことは意味がありそうだと感じていますが、この記事で「効きます」と言い切るには足りませんでした。1年高値の近くで急落した40回に絞ると5営業日後+0.11%とほとんど戻っておらず、こちらも件数が足りません。続きは件数が積み上がってからの宿題にします。
同じ「急落の翌日」でも、個別株では逆を向く
注意していただきたいのは、ここまでの話がすべて指数(日経平均)の話だということです。個別株では、まったく逆の結果が出ています。
私が別に集計した東証プライムのストップ安27件では、翌日は平均−3.16%と続落していました。指数の急落が翌日+0.53%戻すのとは正反対です。理由は考えてみれば当たり前で、指数が3%下げるのは市場全体が怖がったときですが、個別株がストップ安になるのはその会社に固有の悪材料が出たときだからです。前者は気分、後者は事実。気分は翌日に薄まりますが、事実は薄まりません。
「急落の翌日は反発する」を個別株に持ち込むと、この違いに足をすくわれます。個別株側の実測はストップ高・ストップ安の翌日はどうなる?にまとめてあります。
- 〇3%以上下げた翌日は+0.53%・勝率62%。5%以上なら+1.71%・勝率71%と、はっきり戻る
- 〇1949年から2026年まで、どの時代でも同じ向きに出ている
- △戻りは3営業日で終わり、そのあとはふだんより歩みが遅い。開いた穴が埋まるのは中央値9営業日後
- ×1〜2%の下げでは何も起きない。戻したのを見てから追いかけると、5営業日後は−0.45%
- ×さらに急落する確率もふだんの8倍(12.1%)。20営業日持つと5回に1回は10%以上沈む
★4にした理由を書いておきます。この通説は現象としては確かに存在するからです。3%という線の向こう側では帯を大きくはみ出していて、しかも上げ側には同じ現象が起きないという非対称まで揃っている。77年のうちどの時代を切り出しても向きは変わりません(1949〜1989年は+0.38、1990〜2009年は+0.60、2010〜2026年は+0.46ポイント。ただし件数の関係で、単独で帯をはみ出すのは1990〜2009年だけです)。昭和にしか通用しなかった通説が多いなかで、これは珍しく現役でした。★5にしなかったのは、多くの人が思う「下げた翌日は戻る」の“下げ”が1〜2%を指しているだろうこと、そして戻りが3日で終わるという制約が、通説の言葉からはまったく読み取れないためです。
この結果、実践にどう活かす?
まとめ
- 3%が線。1%や2%の下げでは翌日に何も起きず、3%以上でようやく+0.49%ポイント、5%以上で+1.67%ポイントと階段状に伸びる。
- 上げ側に鏡はない。5%以上上げた日の翌日は+0.03%ポイント。戻るのは怖がりすぎたときだけ。
- 窓は3営業日。3日で+1.18%まで戻り、そのあと17日で足されるのは+0.38%(ふだんは+0.66%)。
- 追いかけは効かない。戻したのを見てから買うと5営業日後−0.45%。普通の上げの日(+0.45%)と逆を向く。
- 個別株は逆。ストップ安の翌日は−3.16%と続落する。指数の話をそのまま個別株に持ち込まない。
よくある質問
【2026年9月2日 追記・実例】9月2日の日経平均は1,889円安(-2.85%)で、寄り付きが高値・ほぼ安値引けの急落日でした。この記事の3%には届きませんでしたが、「戻るのは本当、ただし窓は3営業日しかない」という結果と、その日の足の形をどう読んだかは日経100日線割れ|次の関門は63,300円・大トレンドはまだ無事の「翌日以降のシナリオ」で扱っています。
- データ出典:Stooq 日経平均株価 日次終値(1949/05/16〜2026/06/05・19,130営業日)。集計・図の作成はすべて私が行いました。
- 騰落率はすべて終値ベース(前営業日終値→当日終値)。配当は含みません。
- 「まぐれでもこのくらいは出る範囲」=平均のブレ幅(標準誤差)の2倍。棒がこの帯をはみ出すのは、本当に差がない場合でもおよそ20回に1回は起きます。帯をはみ出したから確実、という意味ではありません。なお、帯の幅を示す「%ポイント」と、縦軸の値動きの「%」は別のものです。
- 参考値(本文で使った統計量):3%以上の下げ n=298、翌日の超過+0.489pt・t=2.69/5%以上 n=56、+1.668pt・t=2.71/+5%以上の上げ n=49、+0.033pt・t=0.07/戻しの日と普通の上げの日の5営業日後の差 −0.89pt・t=−2.40/下げ続けた末と上げてきた末の5営業日後の差 +1.12pt・t=1.62。
- リスク側の参考値:3%以上下げた翌日にさらに3%以上下げた割合12.08%(ふだん1.56%)/5%以上下げた翌日でも12.50%/5営業日以内にもう一度3%以上下げた回数101回(33.9%)/急落日の終値で買った場合の最安終値までの下落率は、5営業日以内が平均−1.66%・中央値−1.05%・10%以上沈んだ割合4%、20営業日以内が平均−4.97%・中央値−3.51%・同19%(ふだんの日はそれぞれ1%・7%)。
- 期間を1949年からの全期間にした理由:急落そのものが77年で298回しかないため、期間を区切ると判定に必要な件数が確保できないためです。時代による違いは判定の段落で3区分の数字を示しています。
- CSVは2026年6月5日までのため、それ以降の急落は集計に含まれていません。過去77年の結論を動かす規模ではありませんが、直近の答え合わせは別途行う予定です。















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