中東情勢が緊迫すると、決まって「石油株を買え」「海運株を買え」と言われます。私も何度も耳にしてきました。ただ、それが本当に再現性のある動きなのか、それとも印象論なのか、ずっと気になっていました。今回は、過去7回の地政学ショックについて、14銘柄の値動きをデータで確かめてみます。そして調べてみると、「買われる株」より「売られる株」の方がはるかに再現性が高いという、少し意外な結果になりました。
- 対象イベント:中東・地政学の7局面(次の「検証した7つの局面」に一覧)
- 各局面のショック直前営業日終値を基準に、翌日・1週間後・2週間後・1か月後(営業日ベースでT+1・5・10・20営業日)の株価を集計
- 評価は日経平均に対する超過リターン(=日経を上回ったか)で統一
- 3グループ:資源(INPEX・石油資源開発・ENEOS・出光)/海運(郵船・商船三井・川崎汽船)/空運・化学(ANA・JAL・三井化学=比較用の”売られる側”)
検証した7つの局面
今回さかのぼったのは、中東で何かが起きて原油に注目が集まった次の7回です。各局面の末尾に、そのとき原油(WTI)が基準日から最大どれくらい上がったか(終値ベース)も添えました。同じ「有事」でも、織り込み済みでほとんど動かなかった2024年4月から、供給不安が長期化して7割上げた2026年2月まで、反応の幅がかなり大きいことが分かります。
- 2019年9月 サウジ石油施設攻撃 — ドローン攻撃で世界有数の石油施設が一時停止し、原油が急騰した局面。原油 最大+15%
- 2020年1月 ソレイマニ司令官殺害 — 米軍の攻撃でイランの司令官が死亡し、米・イランの緊張が一気に高まった。原油 最大+3%(その後反落)
- 2023年10月 ハマス・イスラエル衝突 — ガザで大規模な衝突が勃発し、中東全体のリスクが再燃した。原油 最大+8%
- 2024年4月 イラン・イスラエル直接交戦 — 両国が史上初めて直接ミサイルを撃ち合った。原油 ほぼ横ばい(織り込み済み)
- 2024年10月 イランのミサイル攻撃 — イランがイスラエルへ大規模なミサイル攻撃を実施した。原油 最大+13%
- 2025年6月 十二日間戦争 — イスラエルのイラン攻撃から米軍の核施設攻撃、停戦までのおよそ12日間。原油 最大+10%
- 2026年2月 米・イスラエルの大規模攻撃 — 最高指導者の死亡が伝えられ、ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となった。原油 最大+71%(数週間かけて/突出)
- 資源株は原油の写し鏡(相関0.95)。初動は勝率86%と強いが、原油が戻せば一緒に失速する。
- 海運株は、バスケットで見ると一貫した優位性は確認できず。
- 最も再現性が高かったのは、買われることではなく空運・化学が売られること(翌日勝率0%)。
まず、結論の一枚から
細かい説明の前に、勝率(日経平均を上回った局面の割合)の図を置きます。この一枚で、今回いちばん伝えたいことはほぼ出てしまっています。
3グループの「足取り」を見比べる
勝率だけでなく、平均的な値動きの足取りでも同じ絵が出ます。基準日(有事の直前)をゼロ=日経平均並みとして、そこから各グループが平均でどれだけ上下したかを1枚に重ねました。
資源(ネイビー)は最初に上へ跳ねてから戻り、空運・化学(レッド)は翌日から下に沈んだままです。あわせて、資源の線は原油(ゴールドの点線)とほぼ重なって動いており、資源株の強さが原油の高止まり次第であることも見て取れます。
しかし売られる株は、ほぼ毎回同じ方向へ動いていた。
資源株は、原油の写し鏡だった
資源グループは、1週間後で勝率86%と、通説どおりの強さを見せました。ただ、これを「資源株は初動だけ強い」と資源株そのものの性質のように読むのは、少し正確ではないかもしれません。先ほどの図2を見ると、資源株(ネイビー)は原油そのもの(ゴールドの点線)とほぼ同じ足取りで動いています。資源株の強さは、原油の値動きの写し鏡と言えそうです。念のため数字でも確かめると、局面ごとの1か月後リターンで見た資源株の超過と原油の騰落率の相関はおよそ0.95。ほとんど原油の動きで説明できる水準でした。
そして原油の側も、7局面の中央値でみると、初動で跳ねたあと1〜2週間で元の水準へ戻っています。つまり「資源株が初動で失速する」のではなく、「原油が跳ねて、たいてい数日〜2週間で戻る」。資源株はそれに忠実についていっているだけ、と見るほうが実態に近そうです。原油が高止まりし続けた局面では、資源株も同じように中期まで強さを保ちました。個別の資源・エネルギー株の見極め方は、エネルギー株ガイドで整理しています。
資源株の優位が1か月後まで伸びたのは、原油が実際に高止まりし続けた2026/02だけでした(このとき資源は日経を約+22%上回りました)。逆に、原油が数日で戻した局面では、資源株の優位も一緒に消えています。だから資源株を握り続けられるかは、銘柄の問題ではなく「このあと原油が高止まりするか」に尽きる、というのが実務的な含意だと思います。
海運は、思ったほど強くない
意外だったのが海運です。日本郵船を単体で見ると、強く逆行高する局面もありました(2024/04など)。ところが、商船三井・川崎汽船を加えてバスケットにすると、その優位性はほとんど消えてしまいます。勝率は全期間で29〜57%と、コイン投げと同程度かそれ以下でした。背景には、海運株が運賃市況や個別の材料で動く部分が大きく、原油との連動が薄いことがあると考えられます。「海運=有事で買い」という括りは、今回のデータでは一貫して確認できませんでした。
なぜ通説どおりにならないのか。海運株は、原油以外に動く要因が多すぎるのだと思います。コンテナ運賃、ばら積み(バルク)運賃、為替(円安メリット)、配当利回り、世界景気の見通し——これらが同時に効くため、有事の原油高は数ある材料の一つにすぎません。タンカー運賃の上昇というプラス材料と、燃料費増というマイナスが同居することもあります。だから局面によって上にも下にも振れ、平均すると優位が消えてしまう、というのが実態に近そうです。
いちばん再現性が高かったのは「売られる側」だった
ここが、今回の検証でいちばん驚いた点です。買われる側(資源・海運)の勝率が局面ごとにばらつく一方で、売られるとされる側(空運・化学)は、翌日の時点で7局面すべて日経を上回れませんでした(勝率0%)。中央値も、どの期間で見ても一貫してマイナスでした。
「売られる株」を避ける方が、はるかに確実だった。
なぜ、資源は買われ、空運・化学は売られるのか
ここまでの明暗は、実はひとつの理屈でほぼ説明できます。カギは、原油高が、その業種の損益に「どちら向き」に効くかです。
資源(石油・鉱業)は、原油を掘って売る側です。原油高はそのまま売値の上昇=増益に効くので、買われる。反対に、空運はジェット燃料、化学はナフサと、どちらも原油を主要なコストに抱える業種です。原油高は原料・燃料コストの増加=減益に直結し、しかも空運は地政学リスクで渡航需要も落ちます。だから売られる。売られる理由が”実害”に紐づいているぶん、反応が揃いやすいのだと思います。なお、化学株と原油コストの関係は、ナフサ急騰と化学株の整理記事でも詳しく扱っています。
海運はその中間です。燃料費の増加(マイナス)と運賃の上昇(プラス)が同居し、そこに運賃市況・為替・景気といった原油以外の要因が重なるため、原油高だけでは向きが決まりません。だから局面によって上にも下にも振れ、平均すると優位が消えてしまう——これが「海運だけ通説どおりにならない」理由だと考えられます。
ちなみに買われる側(資源)も、「有事だから上がるはず」という連想で先回り買いされ、利益確定も早いため、原油そのものより値動きがばらつきやすい面があります。だからこそ、相対的に”売られる側”の一貫性が際立つ、という構図です。
私なら、有事で慌てて資源株を買いに行くより、まず空運・化学を保有していないか確認します。そのうえで、原油が本当に高止まりしそうなら資源株を検討する——そんな順番のほうが、このデータには合っていると感じました。もちろん過去の傾向にすぎず、次も同じとは限りませんが、”避ける”判断のほうが自分には扱いやすそうです。
- 〇資源株は1週間後で勝率86%。初動の逆行高は通説どおり。
- △ただし資源株は原油の写し鏡(相関0.95)で、原油が戻れば一緒に失速する。
- ×海運は一貫した優位なし。空運・化学は7局面すべて日経割れ。











コメントを残す