想定為替レート一覧|ドル円153円台は主要28社中18社の前提より円高

ドル円が急に戻しています。7月下旬には163円98銭まで円安が進んでいましたが、9月11日のニューヨーク市場は153円55銭で週を終えました。1か月半で10円ほどの円高です。

この記事では、主要企業が最新の決算で使っている想定為替レートを34社ぶん当たって、いまの水準がその前提からどれだけ離れているかを並べました。想定為替レートは、会社が今期の業績見通しを立てるときに「1ドル何円で計算するか」と置いた数字です。実勢がこれより円高に振れたときに利益が増えるか減るかは会社によって違い、輸出などで円安が利益を押し上げる会社では、下振れの要因になります。

集めてみると、私が事前に思っていたのとは逆の結果になりました。28社が想定レートを公表していて、そのうち18社は、いまの153円55銭より円安の前提で計画を組んでいます。つまり、すでに前提を割り込んでいる会社のほうが多い状態です。この記事で「割り込んだ」と書くのは、会社が置いた想定レートより、いまのドル円が円高になっているという意味です。それが会社にとって得か損かは、為替の効き方によって別に見ます(あとの図2)。

この記事の要点(先に3つ)
① 想定レートを公表している28社のうち18社は、いまの153円55銭より円安の前提。いまより円高の前提を置いているのは、パナソニックHDの145円を筆頭に10社です

② 割り込んだ理由は、8月の第1四半期決算で各社が前提を円安方向に引き上げた直後に、この円高が来たから。トヨタ自動車は150円→160円、本田技研工業は145円→155円に見直しています

③ ただし通期の前提には、もう終わった4〜6月が混ざっています。そこを外すと10社は実勢の1円以内に収まり、残るのはトヨタ自動車・日立製作所など160円組です

何が起きたか|7月の164円から、9月に10円ぶん戻しました

介入で一度止まり、9月の日米の金利観測で本格的に戻した1か月半でした。

2026年のドル円は、年初の152円台からじりじりと円安が進み、7月23日に163円98銭をつけました。ここが年初来の円安のピークです。

流れが変わったのは7月の末でした。7月30日に日本が単独で円買いの介入に踏み切り、その日のうちに163円73銭から157円99銭まで動いています。翌31日には日米の協調介入が入り、8月3日には155円26銭まで下げました※1。ただ、その後は8月のうちに159〜160円台へ戻しています。

9月に入ってからの下げは、介入によるものではありません。日銀の利上げ観測が強まったこと、米国の追加利上げ観測が後退したこと、原油がいったん緩んだことが重なって、9月7日に155円を割り込みました。この日の安値154円06銭は2月以来の円高水準です。翌8日には米財務長官が円安・ドル高の是正に言及したと伝わり、152円90銭まで下げています。

9月11日は東京の15時台が154円09銭、当日の安値が153円43銭で、ニューヨークの引けが153円55銭でした。この記事では週末の終値153円55銭を基準にして数えています。日本株の側の反応は円高で日経1,130円安|下げた業種の並びは10年の集計どおりでしたに書いたとおりで、輸送用機器と電気機器が売られ、陸運や情報・通信が買われる並びになりました。

主要28社の想定為替レート|145円から163円まで、18円の開きがあります

同じ時期の決算なのに、会社によって置いている数字がこれだけ違います。

図1は、各社が最新の決算で公表した想定ドル円レートを、いまの153円55銭との差で並べたものです。棒が左に伸びているのが「実勢のほうが会社の想定より円高」、右に伸びているのが「実勢はまだ会社の想定より円安」です。

主要28社の想定為替レートと、いまのドル円153円 2027年3月期(12月期の会社は2026年12月期)の最新決算で各社が置いた想定ドル円レートを、2026年9月11日の実勢153円との差で並べたもの。28社中18社が想定より円高の側にあり、いまより円高の前提を置いているのはパナソニックホールディングスの145円を筆頭に10社。 各社が決算で使っている想定ドル円レートと、いまの153円台 棒の長さは「いまの153円55銭が、その会社の想定から何円ずれているか」です 左=想定より円高(前提を割り込んでいる) 18社 右=まだ想定より円安(割り込んでいない) 10社 10円 8円 6円 4円 2円 2円 4円 6円 8円 いまのドル円 153円55銭 想定 いまとの差 パナソニックHD(6752) 145円 8円55銭ぶん円安 TDK(6762) 150円 3円55銭ぶん円安 ブリヂストン(5108) 150円 3円55銭ぶん円安 日本航空(9201) 150円 3円55銭ぶん円安 日産自動車(7201) 150円 3円55銭ぶん円安 東レ(3402) 150円 3円55銭ぶん円安 出光興産(5019) 151.3円 2円25銭ぶん円安 コマツ(6301) 152.1円 1円45銭ぶん円安 ソニーグループ(6758) 153円 55銭ぶん円安 デンソー(6902) 153円 55銭ぶん円安 日立建機(6305) 154円 45銭ぶん円高 ANAHD(9202) 155円 1円45銭ぶん円高 SUBARU(7270) 155円 1円45銭ぶん円高 キッコーマン(2801) 155円 1円45銭ぶん円高 キヤノン(7751) 155円 1円45銭ぶん円高 ニトリHD(9843) 155円 1円45銭ぶん円高 マツダ(7261) 155円 1円45銭ぶん円高 本田技研工業(7267) 155円 1円45銭ぶん円高 村田製作所(6981) 155円 1円45銭ぶん円高 東京ガス(9531) 155円 1円45銭ぶん円高 王子HD(3861) 155円 1円45銭ぶん円高 スズキ(7269) 158円 4円45銭ぶん円高 INPEX(1605) 160円 6円45銭ぶん円高 トヨタ自動車(7203) 160円 6円45銭ぶん円高 信越化学工業(4063) 160円 6円45銭ぶん円高 日本製鉄(5401) 160円 6円45銭ぶん円高 日立製作所(6501) 160円 6円45銭ぶん円高 住友ゴム工業(5110) 163円 9円45銭ぶん円高 28社の想定レートの真ん中は155円。10社がその155円ちょうどに並んでいます ▸印は通期ではなく「2Q以降」「下期」など期間を区切った前提。出典:各社の決算短信・決算説明会資料(2027年3月期1Q/2026年12月期2Q)

図1:各社が決算で使っている想定ドル円レートと、いまの153円55銭。2027年3月期の第1四半期(12月期の会社は2026年12月期の第2四半期)時点の前提です。▸印は通期ではなく「2Q以降」「下期」と期間を区切って置いている会社。

いちばん円高寄りの前提を置いているのはパナソニックホールディングスの145円で、いまより8円55銭も円高の側にあります。第1四半期の実績が159円だったのにこの数字にとどめていて、28社の中では突出して保守的です。次がTDK・ブリヂストン・東レ・日産自動車・日本航空の150円、出光興産151.3円、コマツ152.1円、ソニーグループとデンソーの153円と続きます。ここまでの10社が、いまの実勢より円高の前提です。円安で利益が増える会社ならこれは計画の余裕ですが、日本航空のように円安で利益が減る会社では逆向きに効きます(あとの図2で分けます)。

反対の端は住友ゴム工業の163円(下期の前提)で、9円45銭離れています。トヨタ自動車・日立製作所・日本製鉄・信越化学工業・INPEXの160円が6円45銭、スズキの158円が4円45銭。155円に10社が並んでいて、ここが28社の真ん中です。本田技研工業、SUBARU、マツダ、村田製作所、キヤノン、ニトリホールディングス、キッコーマン、王子ホールディングス、ANAホールディングス、東京ガスの10社になります。

ブルームバーグが8月4日に集計した時価総額上位20社の想定レートの平均も、1ドル153円程度でした※2
私が選んだ28社の真ん中が155円と少し円安寄りなのは、母集団が違うからです。ブルームバーグは時価総額の上位20社なので、銀行や通信のように為替の影響が小さい会社も入ります。

銘柄想定ドル円期間為替感応度
(会社が開示した形のまま)
今期の利益見通し
パナソニックHD(6752)145円通期調整後営業利益30億円調整後営業利益6,500億円
TDK(6762)150円2Q以降営業利益20億円営業利益2,950億円
ブリヂストン(5108)150円通期開示なし調整後営業利益5,150億円
日本航空(9201)150円通期燃油との組み合わせ表EBIT 1,800億円
日産自動車(7201)150円通期開示なし営業利益2,000億円
東レ(3402)150円通期(2Qで見直し予定)開示なし事業利益1,600億円
出光興産(5019)151.3円通期5円あたりで開示金融費用除き税引前利益1,400億円
コマツ(6301)152.1円通期営業利益45億円営業利益5,550億円
ソニーグループ(6758)153円2Q以降開示なし営業利益1兆7,200億円
デンソー(6902)153円2Q以降開示なし営業利益5,000億円
日立建機(6305)154円2Q-4Q調整後営業利益13億円調整後営業利益1,500億円
本田技研工業(7267)155円通期開示なし営業利益6,500億円
SUBARU(7270)155円通期開示なし営業利益1,500億円
マツダ(7261)155円通期開示なし営業利益1,500億円
村田製作所(6981)155円2Q以降営業利益45億円営業利益4,300億円
キヤノン(7751)155円下期営業利益15億円(下期)営業利益4,650億円
ニトリHD(9843)155円通期(社内レート)開示なし営業利益1,303億円
キッコーマン(2801)155円通期開示なし営業利益788億円
王子HD(3861)155円通期営業利益7.4億円(1%あたり)営業利益600億円
ANAHD(9202)155円通期収支±8億円(向きの記載なし)営業利益1,500億円
東京ガス(9531)155円2Q以降都市ガス粗利10億円営業利益1,860億円
スズキ(7269)158円通期開示なし営業利益5,400億円
トヨタ自動車(7203)160円通期開示なし営業利益3兆4,000億円
日立製作所(6501)160円2Q-4QAdj. EBITA 70億円(2Q-4Q)Adj. EBITA 1兆5,200億円
日本製鉄(5401)160円通期開示なし事業利益6,300億円
信越化学工業(4063)160円7月以降経常利益37億円営業利益7,000億円
INPEX(1605)160円下期当期利益30億円当期利益5,100億円
住友ゴム工業(5110)163円下期開示なし営業利益890億円

為替感応度は、ドル円が1年で1円ぶん円安に振れたときに、その会社の利益がいくら動くかとして会社が公表している数字です。会社によって「1円あたり」「5円あたり」「1%あたり」と単位が違い、燃油との組み合わせ表で出す会社もあるので、開示された形のまま載せています。外貨で持っている資産や負債を評価し直したときに出る為替差益のことではなく、海外で売った代金を円に直すときの金額や、輸出品の採算がまるごと動くことによる、本業の利益への影響を指します。利益の物差しは会社ごとに違うので、指標名を併記しました。「今期の利益見通し」は会社が公表している通期の予想そのもので、あとで影響額を率に直すときの分母に使います。ブリヂストン・住友ゴム工業・INPEX・キヤノンは12月期決算で、2026年12月期の第2四半期時点の前提です。東京エレクトロン(8035)は、輸出売上が原則円建てで「極端な為替レートの変動がない限り利益への影響は軽微」として、想定レートを置いていません。

株価のほうは、円安・円高でどう動いてきたか

ここで並べたのは「会社が何円で計算しているか」であって、「株価が為替でどう動くか」とは別の話です。株価の側は10年ぶんの日足で測った回があって、円安の日に日経平均より強かったのは33業種のうち8業種、電気機器はそこに入りませんでした。詳しくは「円安なら輸出株」は本当?|33業種を10年ぶん測ったら、上がったのは8業種で、電機は入っていませんでしたをどうぞ。

なぜ割り込んだのか|8月に前提を上げた、その直後でした

4〜6月の実勢が159円台だったので、各社はそこに合わせて前提を引き上げています。

28社のうち18社が想定を割り込んでいるのは、円高の進み方が速かったからというより、各社が8月の第1四半期決算で前提を円安方向に引き上げたばかりだったことのほうが大きい、と私は見ています。

各社が期初の前提を置いたのは5月です。東京商工リサーチの調べでは、上場主要メーカー103社の期初想定の平均は1ドル151.4円で、前期の141.6円から9.8円も円安に振れていました※3。それでも実勢には追いついていません。4〜6月のドル円の平均は159円台で、7月には164円近くまで進んだからです。

そこで8月の決算で、前提を上げ直した会社が出てきます。

銘柄5月時点の前提8月に見直した後動かした幅
トヨタ自動車(7203)150円160円10円
本田技研工業(7267)145円155円10円
パナソニックHD(6752)140円145円5円
村田製作所(6981)150円155円5円
キヤノン(7751)150円155円5円
ソニーグループ(6758)150円前後153円前後3円
スズキ(7269)155円158円3円

いずれも2027年3月期の第1四半期決算(キヤノンは2026年12月期の第2四半期決算)での見直し。デンソーも通期平均を1.6円ぶん円安方向に動かしています。数字の色は、いまの153円55銭より円高の前提が赤、円安の前提が青です。

トヨタ自動車は150円から160円へ10円、本田技研工業は145円から155円へ10円。どちらも8月の頭の発表です。その1か月後に、ドル円は153円台まで戻りました。この2社については、引き上げた幅が、そのまま割り込んだ幅になっている形です。

もっとも、いちばん保守的なパナソニックホールディングスも140円から145円へ5円上げています。ですので「据え置いた会社だけが慎重だった」というより、上げ幅の大きさに差が出たと言うほうが近いですね。

「通期155円」と書いてあっても、残りの9か月は153円67銭

通期の想定は1年の平均なので、もう終わった4〜6月の実績も混ざっています。

ここまで並べた通期の想定レートは今期の12か月をならして1ドル何円かを置いたもので、「これから1ドル155円で進む」という意味ではありません。

本田技研工業で見てみます。同社の通期の想定は155円。ところが4〜6月の実績はすでに159円で確定しています。1年の平均を155円にするには、残りの9か月をもっと円高で見ていないと計算が合いません。

ホンダは、残りの9か月を何円で見ているか

今期は4〜6月の3か月が終わっていて、残りは7月から3月の9か月です。4つの四半期の平均が155円になる式は、こうなります。

4〜6月の実績 159円 + 残り9か月 ◯円 × 3 = 155円 × 4

◯を解くと 153円67銭。つまりホンダは「これから9か月は153円67銭」と言っていることになります。いまの実勢153円55銭とは、12銭しか違いません。

通期の155円だけを見ると「1円45銭も割り込んでいる」と読めますが、ホンダが残りの期間に置いている数字は、すでに実勢とほぼ同じです。ここを外して読むと、実態より厳しく見えてしまいます。

この計算が成り立つかどうかは、コマツで確かめられます。同社は通期152.1円・4〜6月の実績158.5円・第2四半期以降の前提150.0円を全部そろえて出しているからです。(152.1×4 − 158.5)÷3 = 150.0円で、会社が自分で出した数字とぴたり一致しました※4

同じやり方を、通期の数字しか出していない会社に当てはめたのが次の表です。

銘柄通期の想定1Qの実績残り9か月(7〜3月)
の想定
その数字の出所計画は153円55銭より
パナソニックHD(6752)145円159.0円140.3円私の逆算13円22銭 円高寄り
日産自動車(7201)150円160.0円146.7円私の逆算6円88銭 円高寄り
日本航空(9201)150円159.0円147.0円私の逆算6円55銭 円高寄り
コマツ(6301)152.1円158.5円150.0円会社開示3円55銭 円高寄り
出光興産(5019)151.3円159.5円150.0円会社開示3円55銭 円高寄り
キッコーマン(2801)155円160.5円153.2円私の逆算39銭 円高寄り
マツダ(7261)155円160.0円153.3円私の逆算22銭 円高寄り
王子HD(3861)155円159.6円153.5円私の逆算8銭 円高寄り
ANAHD(9202)155円159.2円153.6円私の逆算5銭 円安寄り
本田技研工業(7267)155円159.0円153.7円私の逆算12銭 円安寄り
SUBARU(7270)155円159.0円153.7円私の逆算12銭 円安寄り
スズキ(7269)158円160.0円157.3円私の逆算3円78銭 円安寄り
トヨタ自動車(7203)160円160.0円160.0円私の逆算6円45銭 円安寄り
日本製鉄(5401)160円160.0円160.0円私の逆算6円45銭 円安寄り

「私の逆算」は(通期×4−1Q実績)÷3 で私が計算した数字で、会社が公表したものではありません。コマツ・出光興産は会社が第2四半期以降の前提を自分で開示しているので、その数字を載せています(出光の逆算値は148.6円で、会社の150.0円と1円40銭の差が出ました)。2Q以降・下期の前提を最初から出している会社は逆算の必要がないため、この表には入れていません。12月期のブリヂストンは通期150円に対して上期の実績が158円なので、同じ計算では下期の含みが142円になります。ニトリホールディングスの社内レートは為替予約を含む仕入レートで、期中平均とは性格が違います。

こうして並べ替えると、絵がはっきり変わります。通期の数字では18社が割り込んでいましたが、残りの期間で見ると10社は153円55銭との差が1円以内に収まりました。本田技研工業、SUBARU、マツダ、デンソー、日立建機、ソニーグループ、ニトリホールディングス、キッコーマン、王子ホールディングス、ANAホールディングスです。155円組の多くは、残りを153円台で見ていたことになります。

いちばん差が開いたのはトヨタ自動車と日本製鉄でした。第1四半期の実績が160円で、通期の想定も160円。つまり残りの9か月も足元と同じ160円が続く前提で置いています。同じ160円スタートでも、マツダは通期を155円にとどめて残りを153.3円で見ていますから、ここで7円近い差がついています。

残りの期間に直すと、割り込んでいるのは28社中15社。そのうち3円以上離れているのはスズキ・トヨタ自動車・日本製鉄・日立製作所・信越化学工業・INPEX・住友ゴム工業の7社です。

計画とのズレが、利益をどちらに振らせるか

為替の向きだけでは決まりません。その会社が計画をどこに置いたかで、向きが変わります。

会社の中には、ドル円が1円動いたときの利益の増減を数字で公表しているところがあります。これを今期の残りの期間に直して、さきほどの「残りの想定」と153円55銭の差を掛ければ、この水準で今期を終えたときにどれだけ振れるかの目安が出せます。

感応度の開示は「年間」「下期」「2Q-4Q」と会社ごとにバラバラです。第1四半期はもう終わっているので、全社を今期の残りの期間(3月期の会社は7月から3月の9か月、12月期の会社は7月から12月の6か月)に揃えました。

図2のプラス・マイナスは、為替が得か損かではなく、その会社が立てた計画より上に出るか下に出るかです。
図の左半分に、その会社が残りの期間に置いた計画のレート(●)と、いまの153円55銭(縦線)を並べました。円安で利益が増える会社なら、●が縦線より左(計画がいまより円高)にあれば上振れ、右にあれば下振れです。円安で利益が減る会社はその逆になるので、グループを分けています。

各社が計画に置いたドル円レートと、いまの153円55銭。そのズレで今期の利益が計画より上に出るか下に出るか 左のパネルは、各社が残りの期間に置いた想定ドル円レートと2026年9月11日の実勢153円55銭の位置。右のパネルは、その差に会社が開示する為替感応度を掛けた、今期の利益見通しに対する概算のズレ。円安で利益が増える会社は、計画がいまより円高(左)にあれば上振れ、円安(右)にあれば下振れ。円安で利益が減る会社(東京ガス・王子ホールディングス・日本航空)はその逆になる。 計画のドル円レートはどこにあるか → 今期の利益は計画より上か下か 左:会社が残りの期間に置いた計画のレート(●)と、いまの153円55銭(縦線) 右:その結果、利益が計画からどれだけずれるか =計画のレート。●が縦線より左なら「計画はいまより円高」、右なら「計画はいまより円安」 =利益は計画より上に出る =計画より下に出る。「いまの為替のほうが得」という意味ではありません 140円 145円 150円 155円 160円 いま 153円55銭 円高 ← → 円安 計画 −8% −6% −4% −2% 0 +2% +4% 計画どおり 下振れ ← → 上振れ 利益への影響 金額の目安 円安になると利益が増える会社(9社) 計画がいまより円高なら上振れ、円安なら下振れ パナソニックHD(6752) 140.3円 +4.6% 297億円 コマツ(6301) 150.0円 +2.2% 120億円 TDK(6762) 150.0円 +1.8% 53億円 日立建機(6305) 154.0円 −0.4% 6億円 キヤノン(7751) 155.0円 −0.5% 22億円 村田製作所(6981) 155.0円 −1.1% 49億円 INPEX(1605) 160.0円 −1.9% 97億円 信越化学工業(4063) 160.0円 −2.6% 179億円 日立製作所(6501) 160.0円 −3.0% 452億円 円安になると利益が減る会社(3社) 上と逆。計画がいまより円高なら下振れ、円安なら上振れ 東京ガス(9531) 155.0円 +0.6% 11億円 王子HD(3861) 153.5円 −0.1% 1億円未満 日本航空(9201) 147.0円 −2.5% 44億円 会社が「1円でいくら」を出していない2社(報道の試算・逆算) 本田技研工業(7267) 153.7円 −0.2% 10億円 トヨタ自動車(7203) 160.0円 −7.1% 2,419億円 パナソニックHDが上振れ側に出るのは、計画(140円台)をいまよりずっと円高に置いていたからです。 円高で得をする会社ではありません。ここから円高が進むほど、この上振れ余地は減っていきます。 計画のレートは、会社が2Q以降・下期の前提を出していればその数字、通期しか出していない会社は4〜6月の実績を外して逆算した数字。 利益の物差しは会社ごとに違う(信越化学工業は経常利益、INPEXは当期利益、東京ガスは都市ガス粗利、日立製作所はAdjusted EBITA、 日本航空はEBIT)。出典:各社の決算短信・決算説明会資料

図2:左は各社が残りの期間に置いた計画のドル円レート(●)と、いまの153円55銭(縦線)の位置。右はそのズレで今期の利益が計画からどれだけ振れるかで、棒は通期の利益見通しに対する比率です。いちばん下の2社は会社が「1円でいくら」を出していないため、報道の試算や決算資料からの逆算によるものです。

パナソニックホールディングスが297億円(調整後営業利益6,500億円に対して4.6%)でいちばん上に出ました。ただしこれは、同社が円高で得をするという意味ではありません。同社は円安のほうが利益が増える会社で、残りの9か月を140円台前半という実勢よりずっと円高の水準で計画しているため、いまの153円台は計画より13円も円安の側にある、という形です。図2の左で、●が縦線からいちばん遠い左にあるのがそれです。

ですので、ここからさらに円高が進むほど、この上振れ余地は減っていきます。140円台前半まで戻ったところで余地はなくなり、そこを超えるとこんどは下振れの側に回ります。コマツの120億円(2.2%)とTDKの53億円(1.8%)も同じ形で、計画より3円55銭ぶん円安側にいるぶんです。

下振れの方向でいちばん大きいのは日立製作所の452億円(Adjusted EBITA 1兆5,200億円に対して3.0%)です。残りの期間の想定が160円で、計画より6円45銭ぶん円高側にいます。ドル1円あたりの効きが2Q-4Qで70億円と大きいことも効いています。次が信越化学工業の179億円(経常利益ベース、営業利益見通し7,000億円に対して2.6%)、INPEXの97億円と続きます。

図の真ん中のグループは、円安になると利益が減る3社です。ここだけ向きが逆になります。東京ガスは計画より1円45銭の円高側にいるのでプラス、日本航空は計画より6円55銭の円安側にいるのでマイナス。同じ「計画より円安」でも、会社によって出る符号が反対になるのが、この図でいちばん分かりやすいところだと思います。

いちばん下の2社は、会社が1円あたりの数字を出していないので別扱いにしました。トヨタ自動車は2,400億円ほどの下振れという計算になりますが、使った感応度の500億円は会社の開示ではなく報道の試算です※5。本田技研工業は、残りの想定が153.7円と実勢にほぼ並んでいるので、10億円ほどしか動きません。

図に入れなかった会社が2つあります。日産自動車は、残りの想定が146.7円で6円88銭の余裕があり、報道の試算による感応度120億円を当てはめると600億円を超える上振れ方向になります。ただ通期の営業利益見通しが2,000億円しかないので、率にすると30%を超えてしまいます。利益が薄い会社ほど、同じ為替の振れでも率は大きく出るという話で、日産が為替に強いという意味ではありません。

出光興産は、感応度の出し方が他社と違います。1円あたりではなく5円あたりで、しかも在庫の評価による影響を含めるかどうかで2本立て。5円の円安で、在庫の影響を除くと40億円、含めると190億円と5倍近く変わります

同じ表に並べると誤解を招くので外しました。同社の上振れ余地は、為替よりも原油の前提のほうが桁違いに大きい状態です※6

まとめると、153円台が続いたときの振れ幅は、会社が数字を出している範囲では下振れ側で最大3.0%、上振れ側で最大4.6%です。計画より6円45銭ぶん円高側にいるトヨタ自動車だけが、報道の試算ベースで7.1%という計算になります。

円高で得をするはずの会社ほど、数字を出していません

円安メリット側は前提も感応度も出すのに、円高メリット側は開示自体が薄いという非対称がありました。

輸入の比率が高くて「円高になると助かる」と言われる会社ほど、想定レートも感応度も公表していませんでした。

良品計画(7453)は、決算説明会の質疑応答で「仕入にかかる為替予約レートの詳細は非開示としている」と明言しています。明治ホールディングス(2269)は決算短信に「為替前提も見直しました」という文はあるものの、具体的なレートの記載がありません。イオン(8267)東日本旅客鉄道(9020)も、想定レートの記載そのものがありませんでした。

東京電力ホールディングス(9501)にいたっては、通期の業績予想そのものが未定です。決算短信には「中東情勢等の影響を受け、燃料価格等の見通しが不透明であり、具体的な業績予想をお示しできる状況になく」とあります。前提を置くこと自体をやめている、という状態です。

ニトリホールディングス(9843)は「社内レート1ドル155円」を決算説明会資料に載せていますが、感応度は出していません。第1四半期の仕入為替レートが147円69銭から160円05銭へ円安に動いて、仕入為替の影響が45億円のマイナスだった、という実績の数字はあります。ここから逆算すれば1円あたり四半期3.6億円ほどですが、これは会社が感応度として示したものではありません。

数字で「円高になるとプラス」を出しているのは、34社の中で3社でした。王子ホールディングス(3861)が対ドル1%の変動につき営業利益7.4億円(ドル高がマイナス方向)、東京ガス(9531)が1円の円安につき都市ガス粗利10億円のマイナス、日本航空(9201)が為替と燃油の組み合わせ表です。王子ホールディングスは古紙やチップの価格の感応度も同じ表に並べていて、開示の丁寧さが際立ちます。

東京ガスは、原料費調整によって市況の変動が約4か月後にガス料金へ反映されると明記しています。為替が動いてから収支に出るまでに時間差があるので、他社と同じ感覚で「1円でいくら」を当てはめると、出る時期がずれます。

もう一つ、私の予想と違ったのが空運です。日本航空は為替と燃油の組み合わせ表で影響額を出していて、そこを読むと円安のほうがマイナスになっています。想定150円・シンガポールケロシン90ドルを基準に、155円へ円安が進むと45億円の減益方向です。燃油を買う側のコストのほうが、ドル建ての収入より大きいということですね。

ANAホールディングスのほうは「収支感応度 ±約8億円/年」とだけ書いていて、円安と円高のどちらがプラスなのかを書いていません。ヘッジの方針を「不足する外貨量を対象に」と説明しているので、支払いのほうが多い側と読めますが、向きは明示されていません。同じ業種の2社で、開示の姿勢がここまで違うのは面白いところです。

11月の中間決算で、どこを見るか

修正が出るとすれば11月です。見どころは3つあると思っています。

◆ 中間決算で見ておきたい3つ
  • 160円組が、下期の前提を下げてくるか。残りの期間で見ても6円以上離れているのは、トヨタ自動車・日本製鉄・日立製作所・信越化学工業・INPEX、それに住友ゴム工業です。ここが下期を何円に置き直すかが、いちばん分かりやすい線になります
  • 為替以外の追い風が、どれだけ相殺するか。153円台が続いても、会社が数字を出している範囲での振れ幅は、今期の利益見通しに対して数%です。上期に稼いだぶんや、原材料・関税の動きのほうが大きい会社では、為替のマイナスが表に出ないまま終わることもあります
  • 円高メリット側は、結局そこまで恩恵が見えないかもしれない。数字を出していない会社が多いので、円高が効いたかどうかは中間決算の粗利率や仕入為替の実績を読むしかありません。良品計画のように「非開示」と言い切っている会社では、外からは確かめようがない部分が残ります

ただ、為替だけで修正が決まるわけではありません。過去の例では、2016年にTOPIX500の構成銘柄のうち想定レートを公表している197社を調べた調査があって、6月末から9月末にかけて想定を円高方向に見直した67社の合計では、予想当期利益が7.0%の下方修正になっていました※7。ただ同じ調査は「想定レートの変更幅が大きいほど下方修正率も大きいとは限らない」とも書いています。為替は修正の材料の一つであって、単独の予告ではありません。

まとめ

想定為替レートと153円台・3行まとめ

  • 想定レートを公表している28社のうち18社は、いまの153円55銭より円安の前提で計画を組んでいます。いまより円高の前提を置いているのはパナソニックHDの145円を筆頭に10社。真ん中の155円には10社が並んでいます
  • 割り込んだのは、8月の第1四半期決算で各社が前提を円安方向に引き上げた直後に円高が来たから。トヨタ自動車と本田技研工業はそれぞれ10円ぶん上げています
  • ただし通期の前提には確定した4〜6月が混ざっています。そこを外すと10社は実勢の1円以内に収まり、6円以上離れて残るのはトヨタ自動車・日本製鉄・日立製作所・信越化学工業・INPEX・住友ゴム工業です

円高で得をすると言われる会社ほど、想定レートも感応度も公表していませんでした。数字で「円高がプラス」を出しているのは、34社のうち王子ホールディングス・東京ガス・日本航空の3社だけです。

📝 個人的な見解
ドル円153円台は、想定レートを下回る会社が多く、業績への影響が気になる水準だと思っています

28社のうち18社が想定より円高の側にいて、残りの期間に直しても、トヨタ自動車・日本製鉄・日立製作所・信越化学工業・INPEXの160円組は6円以上離れたままです。利益の振れ幅そのものは、会社が数字を出している範囲で数%と大きくはありません。ただ、11月の中間決算で下期の前提を下げてくる会社が出やすい水準だと見ています。

特に自動車銘柄は、円高が進む日に嫌気されて売られることが多く、9月11日も輸送用機器は下げた業種の上位でした。想定を割り込んだまま中間決算を迎えるトヨタ自動車やスズキあたりは、為替が落ち着くまではなかなか買われにくい展開になりそうです。手を出すなら、中間決算で前提の見直しを通過してからでも遅くないと考えています。

今後の決算では、為替前提を何円に置き直すかと一緒に、為替感応度の開示と、業績予想への影響にも注目したいところです。前提だけ下げて感応度を出さない会社と、感応度まで出す会社とでは、次に為替が動いたときの読みやすさが違ってきます。

※1 2026年7月30日の日本単独介入と、7月31日の日米協調介入について(国際通貨研究所ニュースレター)。ドル円の日付ごとの高値・安値は、ヤフーファイナンスのチャートAPI(JPY=X)の日足・30分足から取っています。

※2 「トヨタの想定為替レートは160円、実勢より円安に-大手20社平均は153円」(ブルームバーグ、2026年8月4日)。同記事は「3月期決算で、4日までに4-6月(第1四半期)業績を開示した時価総額上位20社のうち、通期または第2四半期以降の想定為替レートを公表している企業を対象に集計した」としています。対象20社の社名は記事に記載がありません。

※3 「2027年3月期 上場主要メーカー『想定為替レート』調査」(東京商工リサーチ、2026年6月24日)。電機・自動車関連・機械・精密の3月期決算103社が対象で、期初想定の平均は151.4円。150円が60社(58.2%)、155円が24社(23.3%)でした。

※4 コマツの第1四半期決算短信では、第1四半期の実績が1米ドル158.5円、第2四半期以降の前提が150.0円、通期平均が152.1円と、3つとも開示されています。逆算式(152.1×4 − 158.5)÷3 は150.0円ちょうどになりました。ただしこの計算は各四半期の売上が均等であることを前提にしているので、会社が実際に置いた数字と完全には一致しません(出光興産では逆算値148.6円に対して会社の開示が150.0円でした)。

※5 トヨタ自動車の「対ドル1円で営業利益約500億円」は、会社の開示ではなく報道機関の試算です(時事通信)。本記事で当たった自動車7社のうち、1円あたりの感応度を自社資料で公表している会社はありませんでした。本田技研工業の1円あたり約113億円も、第1四半期決算で対米ドルの前提を145円から155円へ10円動かしたときの影響額1,135億円からの逆算です。

※6 出光興産の第1四半期決算説明資料では、原油価格が10ドル/バレル・為替が5円/ドル動いたときの税引前利益への影響を、在庫の評価による影響を除くベースと含むベースに分けて開示しています。為替の5円ぶんは、除くベースで40億円、含むベースで190億円。原油の10ドルぶんは、除くベースで160億円、含むベースで860億円です。なおパナソニックホールディングスの為替感応度は、補足資料に「2026年5月12日時点」の参考数値として載っているものです。

※7 「円高は再び株価を押し下げるか-想定為替レートの変更事例から中間決算を読む」(ニッセイ基礎研究所、2016年10月12日)。

※本記事は、公表情報をもとにした情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。各社の想定為替レート・為替感応度・第1四半期の実績為替レート・通期の利益見通しは、2027年3月期第1四半期(12月期決算の会社は2026年12月期第2四半期、イオンは2027年2月期第1四半期、良品計画は2026年8月期第3四半期)時点で各社が公表した決算短信・決算説明会資料・補足資料にもとづく、2026年9月11日時点の数値です。会社が前提を見直した場合は数値が変わります。ドル円の水準は、ヤフーファイナンスのチャートAPI(JPY=X)の日足・30分足から私が取得したもので、取引所や金融機関の公式値とは異なる場合があります。「残り9か月の想定」は、会社が第2四半期以降・下期の前提を開示している場合はその数字を、通期の前提しか開示していない場合は(通期×4−第1四半期実績)÷3 で私が逆算したものであり、会社が公表した数字ではありません。各四半期の売上が均等であることを前提にした概算です。「153円台が続いたときの影響額」は、各社が開示する為替感応度を今期の残りの期間(3月期の会社は9か月、12月期の会社は6か月)に按分し、残りの期間の想定と153円55銭の差を掛けて私が算出した概算であり、会社の見通しや修正額を示すものではありません。感応度の利益指標は会社ごとに異なります(信越化学工業は経常利益、INPEXは当期利益、東京ガスは都市ガス粗利、日立製作所および日立建機は調整後の利益指標、日本航空はEBIT)。トヨタ自動車・日産自動車の感応度は報道機関の試算、本田技研工業の感応度は決算説明会資料の為替影響額からの逆算であり、いずれも会社の開示ではありません。王子ホールディングスの感応度は会社が1%単位で開示したものを1円あたりに換算しています。パナソニックホールディングスの感応度は補足資料に2026年5月12日時点の参考数値として記載されたものです。日本航空の影響額は、会社が開示する為替と燃油の組み合わせ表のうち、シンガポールケロシン90ドルの列から読み取った概算です。ANAホールディングスの収支感応度は会社が「±」表記としており、円安・円高のどちらがプラスかは公表されていません。日銀・FRBの政策や為替の先行きに関する見方は市場の観測であり、実際の結果を保証するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。

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