- 日経は +4.99%。米イラン和平→原油安→リスクオンで全面高、6/3の前回高値を明確に上抜けて最高値を更新しました。
- 実力値で見ると、今の予想PERは 25.1倍。直近のピーク26.5倍までは過去レンジ内なので、約73,100円あたりまでは上値の余地がある計算です。
- 一方で、25日線からの乖離 +7.52%・信用倍率の高止まりと、過熱のサインも増えています。トレンドは上、でも追いかけるより押し目を待ちたい局面に見えます。
①何が起きたか ―― 和平で外れた「利上げ」の重し
まず、今日の急騰の引き金です。米国とイランが和平の枠組みで合意し、封鎖されていたホルムズ海峡の再開と、米国によるイラン港湾封鎖の解除が伝わりました。これを受けて原油は大きく売られ、北海ブレント・WTIとも一時4%前後下落しています。
ここがポイントなのですが、つい先日の6月8日、日経は米雇用統計の上振れをきっかけに -3.85% の急落を演じていました。強い雇用→利下げ期待の後退→金利上昇、という「利上げ警戒」の連想です。今回の和平合意は、その重しだったインフレ材料(原油)を逆向きに動かしました。つまり、8日に意識された利上げシナリオを、地政学リスクの後退と原油安が部分的に巻き戻したかたち、と読めそうです。
もっとも、原油安は株式全体には追い風でも、資源・エネルギー関連にとっては逆風になります。実際、今日の物色は資源が逆行安で、景気敏感や半導体が買われる、という分かりやすいローテーションになりました(→③)。外部環境も追い風で、VIX(恐怖指数)は 16.69 へ低下、米株も続伸、ドル円は 160円台の円安が続いて輸出株を下支えしています。
②数値で見るインパクトと、日経の「実力値」
指数の数字だけ見れば文句なしの全面高で、値上がり業種は25/33、年初来高値の更新は86銘柄、新安値は20銘柄でした。需給の幅という意味では、しっかり広がりのある上昇です。
そのうえで、今日のテーマである「日経の実力値」を確認しておきます。今日時点の予想PER(株価収益率)は 25.1倍。ここで効いているのが、日経平均ベースのEPS(1株あたり利益)の伸びです。これは特定の個別銘柄の利益ではなく、日経平均という指数全体をひとつの会社に見立てたときの「1株あたりの利益」を表す数字ですね。このEPSが、5月上旬の約2,414円から今は約2,759円へ、5週間ほどで+14%増えています。つまり今回の上昇は「株価だけが先走った」のではなく、指数全体の利益が後から追いついてきた上昇で、現にPERは5月のピーク(26倍前後)よりむしろ低い水準です。ここは素直にポジティブな材料と言えそうです。
PER(株価収益率)は「株価 ÷ 1株あたり利益(EPS)」です。逆に EPS × PER を計算すると、ある利益水準のときに株価がどこまでいくか、のメドが出せます。今のEPS約2,759円に、直近で到達実績のある 26.5倍を掛けると 約73,100円。26倍なら約71,700円です。「ここまでは過去に買われた前例がある」レンジの上限として、上値の目安に使えます。
ただ、高い側にいるのも事実です。PBR(株価純資産倍率)は2.96倍と3倍に近く、歴史的にはやや割高な水準。もうひとつ、長期金利(国債利回り2.575%)と株式の益回り(PERの逆数、3.98%)を比べる イールドスプレッド(=長期金利−益回り)は 約−1.4%です。これは 0に近づく(プラスに向かう)ほど債券に比べて株が割高、マイナスが大きいほど株が割安とされる指標で、0=株の益回りが国債利回りまで下がり、リスクを取る見返りがなくなった状態が「割高」の一つの目安です。日本株は長く国債利回りがほぼゼロで、益回りとの差(マイナス幅)が大きい=株が割安寄りの時期が続いていました。それが金利上昇で、今は−1.4%まで0に近づいてきていて、過去に比べると株のクッションは薄くなってきている、という見方ができます。なお、これはあくまで債券と比べた相対的な物差しで、絶対的に割高と決まるわけではありません。バブル的な割高さではないけれど、安いとも言えない、というあたりが公平なところかなと思います。
③国内市場の反応 ―― 買われた先と、置いていかれた先
中身を業種で見ると、ローテーションは和平合意のストーリーときれいに整合しています。買われたのは 空運業 +6.68%・金属製品 +6.24%・建設業 +6.15%・電気機器 +6.11%・機械 +5.03%と、景気敏感と製造業が中心。原油安・リスクオンで、世界景気に連動する銘柄に資金が向かった形ですね。
個別では半導体・電子部品が派手に動きました。サムコ +23.58%、太陽誘電 +22.64%、イビデン +19.08%、そして売買代金は キオクシアが約3.0兆円と断トツ、+11.96%。ソフトバンクグループも +10.31%と、値がさの主役がしっかり買われています。半導体テーマの全体像は半導体株の銘柄ガイドでも整理しています。
反対に置いていかれたのが、ディフェンシブと資源です。食料品 -1.22%・鉱業 -1.21%・海運業 -1.09%が逆行安。原油安で資源株が売られ、安全資産的なディフェンシブからリスク資産へ資金が移った、というリスクオンらしい構図です。こういう日に限って生活防衛系だけ静かに売られていたりするんですよね。
④需給とテクニカルで「過熱」を点検する
ここからが、今日いちばん丁寧に見ておきたいところです。上の材料はポジティブですが、需給には「そろそろ満タン」のサインが増えています。順番に、グラフで見ていきます。
まず、株価が25日線からどれだけ離れているかを示す 乖離率です。下のグラフのとおり、+8%が「行き過ぎ」の目安とされ、ここを超えると修正(調整)が出やすい癖があります。実際、今回の上げ相場では 5/7に約+10%まで伸びた直後に一服し、6/3に約+8.8%まで伸びた直後に8日の急落、と2回ともこの癖どおりに動きました。今日は +7.52%で、ちょうどその過熱ラインの入口にいます。
次に、私がいちばん引っかかっている 信用の膨らみです。信用取引で買っている人たちの含み損益(信用評価損益率)と、買い残÷売り残の比率(信用倍率)を並べたのが下のグラフです。評価損益率は -0.68%とゼロのすぐ近く(普段は-3〜-8%の範囲で動きます)、信用倍率は7.54倍とデータ内で最高。どちらも右肩上がりで、買い方が含み益すれすれまで膨らんだ風船のような状態です。
残りの2つは、補足として押さえておきます。
- 騰落レシオ25日は97.64で中立:こちらはまだ過熱していません。余地が残るというプラス材料ですが、中身は値がさ半導体への集中で支えられた数字(売買代金のTOP3集中が44.9%)でもあり、幅の狭さの裏返しという見方もできます。
- 海外投資家は2週連続で売り越し:直近週は小幅、その前の週はやや大きめでした。ただこのデータは6月初旬までの集計で、今日の急騰を誰が買ったかはまだ反映されていません。気にはなるものの、現時点で結論づける材料ではない、という整理です。
⑤さらに高値か、調整か ―― 2つのシナリオ
材料を並べると、トレンド(上)と需給(過熱)が逆を向いています。この綱引きを、2つのシナリオに整理します。私の見立てとしては、中心は「上昇トレンドの中の一服」。方向は上に置きつつ、入るタイミングは需給で計りたい、という立ち位置です。
今日の高値ブレイクと、EPSの伸びという実力の裏付けがあります。和平でリスクオンが続けば、PERの過去レンジ(26〜26.5倍=約71,700〜73,100円)までは素直に上値を試しやすい形です。トレンドそのものは、まだ崩す理由が見当たりません。
70,000円の心理的節目を前に、達成感の売りが出やすい位置です。乖離+7.52%・信用倍率の高止まりと過熱が重なると、上抜け一服から、信用整理を巻き込んだ下げに転じる余地があります。最近は週半ばが弱い傾向もあり、振れには注意したいところです。
⑥まとめ
今日の日経は、米イラン和平をきっかけに最高値を更新しました。EPSの伸びがPERを押し上げすぎないよう支えているので、上昇は実力の裏付けがあるもので、「上がりすぎて危ない」と単純に切り捨てる相場ではないと感じます。トレンドの向きは、素直に上です。
当日のマーケット全体の動きは 日次レポート でも詳しく扱っています。












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