「百貨店=インバウンド銘柄」は本当か?免税は売上の1割だった

百貨店の話になると、まずインバウンドが出てきます。ところが、全国百貨店売上高のうち免税が占めるのは2026年で平均10.5%。中国からの訪日客が平均56.1%減った2026年1〜7月に、百貨店の売上は7カ月連続でプラスでした。数字を並べ直すと、通説とは違う形が出てきます。

検証する通説
「百貨店はインバウンド銘柄。訪日外国人が減れば、百貨店の売上も落ちる」は本当か?
※本記事が検証するのは売上の側です。株価との連動は扱いません。
30秒でわかる結論
  • 免税売上(=訪日客の買い物の目安)が全国百貨店売上高に占める割合は、2026年で平均10.5%。残りの約9割は国内のお客さんです。
  • 中国からの訪日客が半分以下になった2026年1〜7月、百貨店の売上は7カ月連続プラス・平均+4.0%。しかもその伸びの8割以上は国内客が持ち込んだものでした。
  • 免税売上そのものは伸びていますが、増えたのは人数ではなく1人あたりの金額(客単価)。訪日客数のニュースと、売上に効く経路がずれています。
  • 判定:★★☆☆☆(ほぼ気のせい——動かしているのは、残り9割の国内客のほう)
検証方法
  1. 日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」の月次から、売上総額・免税売上高・免税購買客数・免税客単価・国内顧客の前年比を2024年1月〜2026年7月の31カ月分そろえる
  2. JNTO(日本政府観光局)の訪日外客統計から、同じ31カ月の訪日客総数と国・地域別の内訳を並べる
  3. 両者の前年同月比どうしで相関を取り、コロナ後の回復局面と、回復が一巡した後の局面に分けて連動が残るかを見る
  4. 売上総額の伸びを免税の寄与と国内の寄与に分解し、さらに免税の伸びを客数の寄与と客単価の寄与に分解する
  5. 本記事が測っているのは売上であって株価ではありません。この点は最後にあらためて書きます。集計と図版は私が作成しました

そもそも「インバウンド銘柄」とは何を指しているのか

訪日外国人の消費が業績に効く会社、という意味で使われる言葉です。百貨店はその代表格として名前が挙がります。空港の免税店や化粧品メーカー、ホテル、鉄道なども同じ括りに入れられることが多いですね。

この括り方が広まったのは、2015年前後のいわゆる「爆買い」の時期でした。当時は中国からの団体客が高額品を大量に買っていく光景が繰り返し報じられ、免税カウンターに行列ができる映像が流れました。百貨店=インバウンドという結びつきは、あのときの絵とセットで記憶されているところがあります。

ただ、その後の10年で中身はかなり変わりました。訪日客の国・地域の構成も、1人あたりの使い方も、百貨店側の顧客戦略も動いています。言葉のほうが先にあって、中身の点検が後回しになっている——今回はそこを数字で確かめます。

検証①:百貨店の売上のうち、免税はどれくらいか

まず大きさを測ります。ここで一つ、言葉の整理をしておきます。インバウンドとは訪日外国人(の来訪や消費)のことですが、百貨店協会は「外国人がいくら買ったか」を直接は集計できません。そこで免税手続きをした売上を「インバウンド売上」として毎月公表しています。本記事もこの免税売上高を訪日客の消費の目安として使います。免税手続きをしない買い物は含まれないので、実際の訪日客消費はこれよりやや大きいはずです。

その全国百貨店売上高と、うち免税売上高を並べたのが図1です。

百貨店の売上のうち、免税はどれくらいか全国百貨店売上高(棒の全体)と、そのうちの免税=インバウンド分(赤)。直近13カ月02,0004,0006,000億円8.6%710.7%89.2%911.7%109.6%117.9%1210.2%110.5%29.2%311.8%410.6%510.9%610.4%72025年2026年 →売上高の全体うち免税(インバウンド)免税が売上に占める割合は2026年で平均 10.5%(9.2〜11.8%)。残る約9割は国内のお客さんです出典:日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」各月分より私が集計。免税売上と総額は母集団が異なるため構成比は概算
▼検証条件
対象:日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」の全国計/期間:2025年7月〜2026年7月の13カ月(構成比の平均は2026年1〜7月)/集計:各月の免税売上高を売上総額で割った値/注意:免税売上高は協会インバウンド推進委員会の加盟店(86〜87店)の集計、売上総額は全国68〜70社172〜178店(図1の期間)の集計で母集団が異なります。したがって構成比は概算です/出典:日本百貨店協会
図1:全国百貨店売上高と、そのうちの免税分(2025年7月〜2026年7月)。赤い部分が免税で、どの月も1割前後にとどまっています。

2026年の平均は10.5%。いちばん低い3月が9.2%、いちばん高い4月でも11.8%でした。31カ月の全期間で均しても10.6%です。免税は、百貨店の売上のおよそ10分の1。これが出発点になります。

1割という数字は、無視していい大きさではありません。利益率の高い高額品が多いぶん、売上構成比よりも利益への効き目は大きいと考えられます。それでも、総額がどちらを向くかを決めているのは、残りの9割のほうです。ここを取り違えると、話の順番が逆になります。

白眉
「インバウンド銘柄」と呼ばれている業態の、
売上の約9割は国内のお客さんでした。

検証②:中国客が半分以下になった局面で、売上はどうなったか

ここで、ちょうどいい実験のような期間があります。2025年12月から、中国からの訪日客が急激に減りました。JNTOの資料には、中国政府による訪日渡航の注意喚起と、中国線の減便が理由として繰り返し記されています。人数は2025年8月の約102万人から、2026年に入って約29〜43万人の水準へ落ちました。

通説どおりなら、百貨店の売上はここで崩れるはずです。実際にどうだったかを見ます。

中国からの訪日客が半分以下になった局面で、百貨店の売上はどうだったか上:中国からの訪日外客数(万人)/下:全国百貨店売上高の前年同月比。2025年1月〜2026年7月050100万人+8%+4%+0%-4%-8%12345678910111212345672025年2026年 →2025年12月:中国客が前年割れへ中国客は平均 -56% 減。それでも百貨店の売上は2026年に入って7カ月連続プラス(平均 +4.0%)出典:日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計/日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」より私が集計
▼検証条件
対象:上=JNTO訪日外客統計の中国からの訪日客数(推計値)/下=日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」全国計の前年同月比(既存店ベース=前年も営業していた店どうしで比べた値)/期間:2025年1月〜2026年7月の19カ月/集計:いずれも協会・JNTOの公表値をそのまま使用/注意:売上の前年同月比は既存店ベースのため、総額の単純な前年比とは一致しません/出典:日本百貨店協会、日本政府観光局(JNTO)
図2:中国からの訪日客数(上・万人)と、全国百貨店売上高の前年同月比(下)。中国客が半分以下になった2026年に、売上のほうは全月プラスに転じています。

形は、通説とほぼ逆でした。中国客が平均56.1%減だった2026年1〜7月、百貨店の売上は7カ月連続でプラス、平均+4.0%。マイナスの月はありません。むしろ中国客が月66万〜98万人で推移していた2025年前半のほうが、売上は6カ月連続でマイナス(2025年2〜7月)だったんですよね。

ここで「2025年が弱かった反動が出ただけでは?」という疑問が出ると思います。それはそのとおりで、2026年のプラスには前年の低さが効いています。だからこそ、伸びの中身を分けておきます。2026年1〜7月の売上+4.0%を免税と国内に分解すると、国内顧客が+3.39ポイント、免税が+0.62ポイントでした(合計+4.01ポイントで、公表の前年比+4.00%とほぼ一致します)。反動だとしても、その伸びを持ち込んだのは国内のほうだった——これが検証②で言えることです。

訪日客の総数で見ても向きは同じです。31カ月のうち総数が前年割れした月は4回(2026年1月・4月・5月・6月)で、その4カ月の百貨店売上は平均+4.53%。総数がプラスだった27カ月の平均+2.92%より高く出ました。ただし4カ月しかなく、統計的に意味のある差とは言えません(脚注参照)。向きの目安として読んでいただくのがちょうどいいところです。

検証③:全期間の相関は、コロナ回復期がつくった「見かけの連動」だった

「たまたま最近そうなっているだけでは」という見方もできます。そこで、31カ月分の前年同月比どうしで相関係数を取りました。

相関係数の読み方だけ先に書いておきます。値は-1から+1の間で、+1に近いほど「訪日客が増えた月は百貨店の売上も伸びていた」-1に近いほど「訪日客が増えた月ほど百貨店は伸びていなかった(逆に動いていた)」、0の近くなら「関係が見えない」です。図3は、この値を横向きの棒にしたものです。真ん中の線が0で、右に伸びれば同じ向き、左に伸びれば逆向き、と読んでください。今回確かめたいのは「訪日客数を見れば百貨店の売上の向きが読めるか」、つまり期間を通じて安定した連動があるかどうかです。

百貨店の売上は、訪日客数と連動しているのか全国百貨店売上高(前年同月比)と、各指標の相関係数。コロナ回復期を外すと連動が消えるr = 0訪日客総数(2024年1月〜2025年3月)コロナ後の回復局面・n=15・p=0.000+0.830訪日客総数(2025年4月〜2026年7月)回復が一巡した後半16カ月・n=16・p=0.055-0.488訪日客総数(全31カ月)上の2つを合算・n=31・p=0.000+0.589(参考)国内顧客(2025年4月〜2026年7月)売上の約9割を占める内数のため高く出ます・n=16・p=0.000+0.884全期間の +0.589 は回復期の前半がつくった数字。回復が一巡した後半では連動が消えました出典:日本百貨店協会/JNTOの月次データより私が算出。ピアソンの相関係数、月次の前年同月比どうし
▼検証条件
対象:全国百貨店売上高の前年同月比と、訪日客総数・国内顧客売上の前年同月比/期間:2024年1月〜2026年7月(国内顧客は協会が前年比を公表している月のみ・n=16)/集計:ピアソンの相関係数。pは無相関を帰無仮説とした両側検定の値/期間の分け方:2025年3月までとそれ以降で、月次データがほぼ半分ずつになる位置で機械的に区切りました。中国客が前年割れに転じた2025年12月で切ると後半がn=8になり短すぎるためです(12月以降だけで取ると-0.442・p=0.27で、向きは同じでした)/注意:国内顧客売上は売上総額の約9割を占める内数(売上の中身の一部)なので、+0.884は高く出て当然です。参考として並べています/出典:日本百貨店協会、日本政府観光局(JNTO)
図3:百貨店売上高の前年同月比と、訪日客数の前年同月比の相関係数。右に伸びる棒=一緒に動いた、左に伸びる棒=逆に動いた。全期間(灰)では連動して見えますが、それは回復期の前半(紺)がつくった数字で、回復が一巡した後半(赤)には連動が残っていません。いちばん下の緑は参考値です。

31カ月をまとめて見ると+0.589で、たしかに連動しているように見えます。ここだけを見れば通説は正しそうです。

ところが、この数字はほぼ前半だけでできています。2024年1月〜2025年3月に限ると+0.830。この時期はインバウンドも百貨店の売上も、コロナ後の回復という同じ追い風で一緒に伸びていました。両方が同じ方向に伸びていれば相関は高く出て当たり前で、「訪日客が増えたから百貨店が伸びた」の証拠にはなりません

その追い風が消えた後半(2025年4月〜2026年7月)で同じ計算をすると-0.488。連動は消えました。数字上は弱い逆向きですが、n=16でp=0.055と、「逆に動く」と言い切れるほどの強さではありません。ここで言えるのは「逆」ではなく、回復期を外すと、訪日客数と百貨店売上のあいだに安定した関係が見つからない、という一点です。なお「中国客が減り始めた2025年12月で切るべきでは」と思われるかもしれません。そこで切ると後半が8カ月しかなくなるので半分の位置で区切りましたが、12月以降だけで取っても-0.442で、結果は変わりませんでした。

参考までに、同じ16カ月で国内顧客との相関を取ると+0.884でした。ただし国内顧客は売上の9割を占める中身そのものなので、高く出るのは当たり前です。ここから言えるのも、外から来る訪日客数の側に連動が見えない、ということにとどめておきます。

白眉
全期間の相関+0.589は、コロナ回復期がつくった数字でした。
回復期を外すと、訪日客数との連動は見えなくなります。

検証④:免税の伸びをつくったのは、客数ではなく単価

ここまでで通説の輪郭は出ましたが、まだ引っかかる点が残っています。免税売上そのものは、2026年に入ってしっかり伸びているからです。7月は506億円で前年同月比+25.5%。中国客が半減しているのに、なぜ免税が増えるのか。

免税売上は「買った人の数×1人あたりの金額」です。協会は両方を毎月公表しています。そこで、通説の順番どおりに「訪日客の数→免税で買った人の数→1人あたりの金額→免税の売上」の4つを、前年同月比で上から並べました。

訪日客 → 免税で買った人 → 1人あたりの金額 → 免税売上、の順に見る4つとも前年同月比。訪日客数はJNTO、ほかの3つは日本百貨店協会。2025年8月〜2026年7月① 訪日客の数(全体)ほぼ横ばい〜微減(うち中国客は12月以降 -45〜-61%)+20%+0%-20%+17%+14%+18%+10%+4%-5%+6%+4%-6%-4%-7%+0%② 免税で買った人の数12月から減少、7月にやっと前年並み+20%+0%-20%+9%+3%+9%-2%-17%-21%-21%-12%-6%-6%-0%+3%③ 1人あたりの金額3月から2割以上アップ+20%+0%-20%-12%-3%-1%-0%-0%+2%+7%+20%+26%+24%+30%+22%④ 免税の売上3月から伸びている+20%+0%-20%-5%8-0%9+8%10-2%11-17%12-19%1-16%2+5%3+18%4+17%5+30%6+26%72025年2026年 →3〜7月:訪日客ほぼ横ばい・買う人 -4.4% でも売上 +19.1%。効いたのは1人あたり +24.5%出典:日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計、日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」各月分より私が作成
▼検証条件
対象:JNTO訪日外客統計の訪日客総数、日本百貨店協会が公表する免税購買客数(買った人の数)・免税客単価(1人あたりの金額)・免税売上高、それぞれの前年同月比/期間:2025年8月〜2026年7月の12カ月/集計:JNTO・協会の公表値をそのまま並べたもの。緑=前年より増、赤=前年より減/注意:協会公表の客単価は「約〇万〇千円」の丸め値のため、売上高÷客数と厳密には一致しません/出典:日本政府観光局(JNTO)、日本百貨店協会
図4:上から「訪日客の数」「免税で買った人の数」「1人あたりの金額」「免税の売上」の前年同月比。2026年3月以降(黄色の帯)、訪日客はほぼ横ばい、免税で買う人は減ったままなのに、1人あたりの金額が2割以上増えて、売上を押し上げています。

上から順に見ると、話は単純です。①訪日客の総数は2026年に入ってほぼ横ばいですが、中国客が半減したぶん、②免税で買う人の数は12月から2割前後減りました。1〜2月はその減少がそのまま④売上の減少に出ています。ここは通説どおりです。ところが3月から、②人の数はまだ減ったままなのに、③1人あたりの金額が2割以上増え、④売上がプラスに転じました。

2026年3〜7月の5カ月平均は、免税売上+19.1%に対して購買客数-4.4%、客単価+24.5%。人の数が減ったぶんを、1人あたりの金額の増加が埋めて、さらに上回った形です。7月単月で見ると客単価は約10万3千円でした。

単価が2割以上も上がった背景として、まず円安が挙げられます。この記事を書いている時点でドル円は159円台。同じ商品でも、外貨で持っている人にとっては数年前よりずっと安く見える計算になります。協会の月次でも、宝飾や高級時計が資産保全の観点から動いているという説明が出ていました。人数が戻らなくても金額が伸びる、という形ですね。

ここで、通説の鎖がどこで切れているかがはっきりします。訪日客総数と免税購買客数の相関は+0.947で、これはほぼ完全な連動です。訪日客が減れば免税で買う人も減る——通説の前半は正しい。切れるのはその先で、免税客が減っても免税売上は増え、その免税は売上の1割で、総額は残り9割の国内客が決めている。3段構えで通説が届かなくなっています。

会社ごとに違いはあるのか

ここまでは業界の合計です。個社の月次を並べると、同じ「百貨店」でも濃淡があります。2026年7月の売上高は、三越伊勢丹HDが+7.0%、高島屋が+8.3%、H2Oリテイリングが+12.8%、J.フロント リテイリングが+0.6%でした。J.フロントは前年の万博会場売上の反動と大丸梅田店の売場縮小が響いたとされ、梅田店を除く百貨店事業の合計では+4.3%です。

顧客の側から見ると、三越伊勢丹の2026年3月期は営業利益800億円で3期連続の最高益。決算資料では、インバウンドの鈍化を国内顧客の299億円の増収が補ったと説明されています。とくに年間購入額300万円以上の上位顧客の売上が前期比+14%の2,379億円。伸びているのは外商の上顧客層です。業界合計で見えた「国内が動かしている」という形は、個社の数字でも同じ向きに出ていました。

とはいえ、この記事の集計は業界合計ですから、個社ごとの免税比率までは切り分けていません。都心の旗艦店を持つ会社と関西や地方が主戦場の会社では、免税の効き方は違うはずです。「百貨店」とひとくくりにして比率を当てはめるのは、そこまで丁寧なやり方ではないという点は書き添えておきます。

判定:「百貨店はインバウンド銘柄。訪日外国人が減れば、百貨店の売上も落ちる」は本当か?
結論:通説が指している部分は売上の約1割で、しかも直近はその1割も客数では動いていませんでした。
  • 通説の前半は正しい。訪日客総数と免税購買客数(免税で買った人の数)の相関は+0.947(n=31)で、訪日客が減れば免税で買う人数も減る。
  • ×ただしその免税は売上の約10.5%(2026年平均)。総額の向きを決めているのは残る約9割の国内顧客。
  • ×中国客が平均56.1%減だった2026年1〜7月、売上は7カ月連続プラス・平均+4.0%。伸びの内訳は国内+3.39ポイント、免税+0.62ポイントで、動かしたのは国内側。
  • ×訪日客総数との相関は全期間で+0.589だが、コロナ回復期の前半(+0.830)がつくった数字。回復が一巡した後半16カ月では連動が見つからない(-0.488)。
  • 免税は利益率の高い高額品が中心とされ、利益への効き目は売上比10.5%より大きい可能性がある。今回のデータでは切り分けられなかった。
★★☆☆☆
ほぼ気のせい——動かしているのは、残り9割の国内客のほう

★2とした理由を書いておきます。「インバウンドが百貨店の業績に効く」という緩い意味に取るなら★4級です。免税は月500億円前後あり、利益率も高い。効いていないとまでは言えません。けれども通説がわざわざ主張するのは「訪日客が減れば落ちる」という向きで、そこに限ると直近16カ月では連動が見つかりませんでした。見るべき指標として訪日客数を採用した時点で、方向を外す——通説として見ると、これは当たっているとは言いにくいところです。一方で★1(逆効果)まで落とさなかったのは、後半の-0.488は「逆に動く」と言えるほど強くなく、その弱い逆向きも円安という別の要因がたまたま重なった結果と読めるからです。「訪日客が減ったら買い」という逆張りのルールが成り立つ、という話ではありません。

この結果、実践にどう活かす?

1
百貨店の業績を見るなら、訪日客数ではなく協会の月次を見る
毎月中旬にJNTOが出す訪日客数は大きく報じられますが、それが動かすのは売上の1割部分です。業績の向きを知りたいなら、毎月下旬に日本百貨店協会が出す「全国百貨店売上高概況」で、総額の前年比・国内顧客の前年比・免税の客単価の3つを見るほうが、売上に効く経路と一致しています。
2
「インバウンド減少」で売られた日は、翌月の月次で答え合わせをする
訪日客の減少が報じられて百貨店株が下げた場合、それが業績の悪化なのか、イメージからくる思惑売りなのかは、その時点では分かりません。翌月の協会月次で総額と国内顧客がプラスを保っていれば、下げの中身は需給寄りだったと読めます。売られた理由と、実際の数字を分けて確かめる——この手順を持っておくと、見出しに振り回されにくくなります。
3
免税を見るなら、客数ではなく客単価と為替
2026年3〜7月の免税売上+19.1%は、客数-4.4%・単価+24.5%でできています。単価を押し上げている候補の筆頭は円安です。ですから為替が円高に振れ始めたときは、免税の伸びが同じ経路で逆回転する可能性を頭に置いておきたいところです。人数の増減より、そちらのほうが先に効くと考えています。
4
11月1日のリファンド方式は、10月・11月の月次に振れが出る前提で見る
2026年11月1日から、免税は購入時に税を引く方式から、出国時の税関確認を経て後から返す「リファンド方式」へ移ります。施行前の駆け込みと施行後の反動が免税の月次に出る可能性はありますが、効く先は売上の1割部分です。10月分・11月分の免税が大きく振れても、総額と国内顧客が保たれているかを先に見る——そうすれば制度変更のニュースで慌てずに済みます。
本質1割の変数で、9割を語ってしまうことがある

銘柄につけられるラベルは、売上構成から決まるとはかぎりません。強い映像や、分かりやすい物語のほうが先に定着します。免税カウンターの行列は絵になりますが、外商の担当者が自宅を訪ねて宝飾を売る場面はニュースになりません。見えているものの大きさと、業績を動かしているものの大きさが、必ずしも一致していない——今回の結果はそう読めます。同じことは他の「◯◯関連株」にも起きているはずで、ラベルを見たら売上構成に当たってみる、という手順は持っておいて損がないという気がします。日付が見えている材料が織り込まれてしまう話は#03(ETFの分配金捻出売り)で、指標の思い込みを数字で崩す話は#14(信用倍率10倍超え)で扱っています。

私の場合は

私も百貨店をインバウンドの括りで見ていました。今回いちばん意外だったのは、中国客が月80万人前後で来ていた2025年前半に売上がマイナスで、その半分以下になった2026年にプラスへ転じていたことなんですよね。売上で見るかぎり、訪日客数はあまり関係がなかったわけです。

ただ、だからといって「訪日客のニュースは無視していい」とは考えていません。百貨店=インバウンドというイメージは市場に根強く残っていて、「インバウンド減少」の見出しが出れば、実際の数字が悪くなくても思惑から売られる可能性は十分にあると見ています。今回分かったのは業績の側で、株価の側はまた別の話です。私としては、そういう日に「数字は悪くないはず」と思えるだけで、判断の落ち着きがだいぶ違うと考えています。

まとめ

この記事のまとめ
  • 全国百貨店売上高に免税が占める割合は2026年で平均10.5%。残りの約9割は国内のお客さんでした。
  • 中国客が平均56.1%減だった2026年1〜7月、売上は7カ月連続プラス・平均+4.0%。その内訳は国内+3.39ポイント、免税+0.62ポイントです。
  • 訪日客総数との相関は全期間で+0.589と連動して見えますが、それはコロナ回復期の前半(+0.830)がつくった数字でした。回復が一巡した2025年4月以降の16カ月では、連動は見つかりませんでした(-0.488)。
  • 免税売上は伸びていますが、2026年3〜7月は客数-4.4%・客単価+24.5%。増えたのは人数ではなく1人あたりの金額でした。
  • 判定は★★☆☆☆。通説の前半(訪日客が減れば免税客も減る)は+0.947と正しい一方、そこから売上総額まで鎖がつながっていませんでした。

「インバウンド銘柄」という言葉が間違いだとまでは思いません。免税は月500億円前後あって、利益率も高い。ただ、その言葉で百貨店の全体を説明しようとすると、9割を見落とします。カレンダーに書き込んでおくとしたら、百貨店を見るときは訪日客数ではなく、客単価と国内の高額品を先に見る——そのくらいの温度でちょうどいいのだと思います。

よくある質問

Q. 免税が1割なら、どうして百貨店株はインバウンドの話題で動くのですか?
A. 株価が何に反応するかと、業績が何で決まるかは別の話です。市場が「インバウンド銘柄」として認識していれば、関連するニュースで売買が出ること自体は起こります。今回検証したのは業績側、つまり売上の構成と連動のほうです。株価がどちらとどれだけ連動しているかは日次の株価データで別に測る必要があり、本記事の範囲外としました。ここは次の宿題です。
Q. 2026年11月からの「リファンド方式」で、免税売上は減りますか?
A. 現時点では分かりません。制度の中身としては、購入時に税込で払って出国時の税関確認後に還付を受ける形に変わり、消耗品の1日50万円の上限や特殊包装の義務がなくなります。買い物の自由度が上がる面と、税額をいったん立て替えて手続きを踏む負担が増える面の両方があります。施行前に駆け込みが出て、その後に反動が出るという展開はありえますが、いずれにせよ効くのは売上の1割部分です。実際の数値は11月分以降の月次で答え合わせができます。
Q. 中国からの訪日客は、なぜここまで減ったのですか?
A. JNTOの月次資料には、中国政府による日本への渡航を避けるよう促す注意喚起があったこと、そして中国線の減便で航空座席数が減ったことが、2025年12月分以降ほぼ毎月記載されています。前年割れに転じたのは2025年12月(-45.3%)で、2026年7月まで8カ月連続のマイナスです。なお同じ期間に韓国・台湾・香港は大きく伸びていて、訪日客の総数としては7月として過去最高を記録しました。
Q. 31カ月というのは、検証の期間として短くありませんか?
A. 短いです。相関を期間で割ると片方はn=15、もう片方はn=16になり、月次のばらつきに比べて十分な数とは言えません。今回いちばん強く言えるのは相関係数そのものではなく、「免税が売上の約1割である」という構成比と、「中国客が半減した7カ月に売上が全月プラスだった」という事実のほうです。相関は補強材料として読んでいただければと思います。
  • 対象期間を2024年1月以降にしたのは、コロナ後の入国制限が完全に解けたあとの月次でそろえるためです。2023年までを含めると、前年同月比が入国再開直後との比較になり、100%を超える伸び率が並んで平均が歪みます。
  • 免税売上高・免税購買客数・免税客単価は、日本百貨店協会のインバウンド推進委員会加盟店(期間中86〜87店)の集計です。売上総額の母集団(全期間で68〜72社172〜180店、図1の期間では68〜70社172〜178店)とは異なるため、本記事の構成比(約10.5%)は概算です。母集団が狭いぶん実際の全国比率はこれよりやや高い可能性があります。
  • 売上高の前年同月比は協会公表の既存店ベースです。期間中に調査対象店舗が減っている(2024年1月の72社180店→2026年7月の68社172店)ため、総額の単純な前年比とは一致しません。時系列の比較には公表の前年比を使っています。
  • 国内顧客の前年同月比は協会が公表している月のみを使いました。2024年10月〜2025年3月の6カ月は記事本文に前年比の数値がなく、欠測として扱っています。なお相関を取った後半16カ月(2025年4月〜2026年7月)はすべて公表されているため、n=16は比較期間の長さそのままです。
  • 免税売上の客数・単価分解は (1+客数の前年比)×(1+客単価の前年比)-1 で行いました。12カ月中11カ月で再現値と公表値の差は0.1ポイント以内、最大でも0.12ポイント(2025年9月)です。ただし協会公表の客単価は丸め値のため、売上高÷客数と厳密には一致しません。
  • 売上総額の伸びを免税と国内に分解した部分は、前年同月の免税構成比を重みとして (構成比×免税の前年比)+(1-構成比)×国内の前年比 で計算しました。2026年1〜7月の再現値+4.01ポイントは公表の前年比平均+4.00%とほぼ一致します。
  • 検証②の「訪日客総数が前年割れした4カ月(平均+4.53%)とプラスの27カ月(+2.92%)」の差は、ウェルチのt検定でp=0.41と統計的に有意ではありません。4カ月がすべて2026年に集中しているため、2025年が弱かった反動とも切り分けられていません。
  • 検証③の相関は、前半(n=15)+0.830がp<0.001、後半(n=16)-0.488がp=0.055、2025年12月以降のみ(n=8)で-0.442・p=0.27です。
  • 検証④の「増えたのは人ではなく金額」は、免税売上の前年比を (1+客数の前年比)×(1+客単価の前年比)-1 で再現して確かめました。2026年3〜7月の平均で、客数の寄与が-4.4ポイント、客単価の寄与が+23.5ポイントです。
  • 国内顧客売上は売上総額の約9割を占める内数です。売上総額との相関(+0.884)が高く出るのは会計上ほぼ自明で、外生変数である訪日客数との相関と同列には比べられません。本文でも参考値として扱っています。
  • 相関係数はピアソンの積率相関で、p値は無相関を帰無仮説とした両側検定です。月次の前年同月比どうしで取っているため、同じ前年値を分母に使う12カ月間には系列相関が残ります。有意性の主張ではなく、向きの目安として読んでください。
  • 本記事が検証したのは売上であって株価ではありません。株価との連動は日次の終値データで別途測る必要があり、今回は扱っていません。個社の株価・株数・免税比率の切り分けも同様です。
  • 個社の月次(2026年7月)と三越伊勢丹HDの2026年3月期の数値は各社の月次売上速報および決算資料の報道をもとにしています。為替の水準(159円台)は本記事執筆時点のものです。
  • 出典は日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」各月分、および日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計。集計・図版はすべて私が作成しました。
※本記事は過去データの分析であり、将来の運用成果を示すものではありません。特定の銘柄・商品・投資手法を推奨するものではなく、投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。記載の数値は公開データをもとに私が集計したもので、正確性を保証するものではありません。データ出典:日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」、日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計。対象期間:2024年1月〜2026年7月。集計方法:月次の前年同月比どうしの相関、および売上の寄与分解。本記事は売上を対象としており、株価の連動は検証していません。

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