- 同じゴールデンクロスでも、速く回すほど成績が悪化する。日経77年で、日足5/25は売買917回で286倍。週足25/75は売買45回で507倍(持ちっぱなし624倍とほぼ互角、最大下落は−82%→−45%に半減)。
- 意外な事実:GC戦略77年間で最悪の傷(−45%)は、実は直近の2015〜2020年に付いた。この記事いちばんの発見です。
- 効く時代と効かない時代がはっきり分かれる。失われた30年(1990年〜)はリターンも守りもGCの勝ち。一本調子の上げ相場(2010年〜)は持ちっぱなしの圧勝。
- 判定:★★★☆☆(速く回すほど裏切られる)
「ゴールデンクロスは買いサイン」。テクニカル分析の入門書なら、まず最初に出てくる王道中の王道です。今回はこのルールを、日経平均77年分・S&P500 98年分のデータで機械的に売買した場合、ただ持ち続けるより本当に得なのかを検証しました。結論を一言でいえば、ゴールデンクロスは万能ではなく、ゆっくり構えるほど報われるシグナルでした。しかも検証の途中で、77年間で最悪の傷が実は「直近」に付いていたという予想外の事実も見つかりました。
- ゴールデンクロス売買は「持ちっぱなし」に勝てるのか(設定別・日米・時代別)
- なぜ日足の短期クロスは負け、週足の遅いクロスは善戦するのか
- 個人投資家はゴールデンクロスとどう付き合えばいいのか
検証①:ルールを1文に固定する
この通説のやっかいなところは、「ゴールデンクロス」と一口に言っても移動平均線の組み合わせが人によって全然違うことです。5日と25日、25日と75日、週足の25週と75週──どれもゴールデンクロスです。そこで今回は、日本の個人投資家が実際によく使う5・25・75・100・200の組み合わせから、性格の違う3つを選びました。
売買ルールは1文に固定します。「短期線が長期線の上にある間はフル投資、下回ったら全額現金に退避」。これが「ゴールデンクロスで買い、デッドクロスで売り」と同じ意味になります。クロスを確認した翌バーから保有し(当日中に未来を見て約定するズルは排除)、売買のたびに片道0.1%の手数料を払う。増えた残高は次のゴールデンクロスで全額再投資するフル複利です。
ちなみに月足の超長期クロス(100か月×200か月など)も試しましたが、77年間でクロスが1〜2回しか発生せず、検証になりませんでした。月足の大循環ゴールデンクロスは、待っていても人生で数回しか点灯しない──検証する以前に、実戦の道具にならないんですよね。というわけで本記事は日足と週足の勝負です。
検証②:同じGCでも「速さ」で天国と地獄
まず日経平均で、速い設定から遅い設定まで3つを同じ土俵(起点を1950年10月に統一)で走らせました。比較相手は「何も考えず持ち続ける」バイ&ホールド(B&H)です。
結果は一目瞭然でした。日足5/25は売買917回もこなして286倍。クロスのたびに0.1%の手数料を払い、レンジ相場ではダマシのクロスに往復で切られ続けた結果です。日足25/75はさらに悪く100倍。ところが週足25/75は売買わずか45回で507倍(100万円が約5億700万円です)と、持ちっぱなしの624倍に食らいつきました。年率にすると+8.6%対+8.9%。肩を並べたと言っていい水準です。
そして注目すべきは下段の最大下落です。持ちっぱなしはバブル崩壊で資産の82%を失う場面がありました。週足25/75のGC戦略はこれが−45%。リターンをほとんど落とさず、最悪の下落を半分近くに抑えたわけです。
ゆっくり構えるほど報われる。
売買917回で286倍 vs 売買45回で507倍(日経77年)
検証③:日本とアメリカで比べる
では、この「遅い設定の善戦」はアメリカでも通用するのでしょうか。同じルールをS&P500(1929年〜)に当てました。
アメリカでは様子が変わります。週足25/75のGCは111倍で、持ちっぱなしの289倍にリターンでははっきり負けました。ただし最大下落は−86%→−44%と、傷を浅くする効果は日本と同じように働いています。
この日米差は、シリーズ#01(とりあえずS&P500)や#02(セルインメイ)で見たものと同じ構図です。アメリカ市場は長期の上昇が力強く「降りない者勝ち」になりやすく、日本はレンジと低迷が長く「逃げる技術」が報われやすい。ゴールデンクロスの正味の価値は、市場の性格に大きく依存すると考えられます。
よくある疑問:日足の100/200を見ていれば、週足は要らないのでは?
私も最初そう思いました。ですが検証すると、週足25/75はざっくり日足125/375に相当し、日足100/200よりひと回り長い期間を見ていることがわかりました。期間を厳密に揃えて比べると両者の成績はほぼ双子になります。つまり週足が効いて見える主因は「足が滑らかだから」というより「自然と長い期間を見ることになるから」。日足派の方は、より長い線を使えば近い効果が得られる、と読み替えてもらって大丈夫です。
検証④:時代別に切る──GCは「荒れる時代の保険」
全期間の平均は、時代ごとの差をならしてしまいます。そこで主役の週足25/75を、時代別に切り出しました。
ここがこの検証で一番面白いところです。失われた30年(1990年〜)では、持ちっぱなしが1.7倍(年率+1.5%)に沈むなか、GCは3.2倍(年率+3.2%)。しかも最大下落は−81%→−45%。リターンとダメージの両方でB&Hに勝ちました。ITバブル崩壊とリーマンショックを含む2000年〜も、4.6倍対3.7倍でGCの勝ちです。
ところが2010年以降、景色が一変します。日米ともほぼ一本調子の上げ相場となり、B&H6.3倍に対してGCは3.1倍と、リターンで大きく負けました。売りシグナルで降りるたびに上昇を取りこぼし、買い直しのコストだけがかさむ。ゴールデンクロスは「いつでも効く魔法」ではなく、暴落と低迷が続く時代にだけ報われる「保険」だった、というのが時代別検証の答えです。
そしてもう一つ、検証していて予想外の事実が出ました。GC戦略が77年間で負った最悪のドローダウン−45%は、2015年8月から2020年3月にかけて発生していたのです。チャイナショック、2018年の急落、コロナショックと、急落と急回復が繰り返された時期に、GCは「下がってから売り、上がってから買う」を繰り返して傷を深くしました。この期間の持ちっぱなしの最大下落は−31%ですから、直近の10年強に限れば、GCは下落抑制の看板まで失っていたことになります。
直近の2015〜2020年に付いた。
同期間の持ちっぱなしは−31%。急落と急回復の反復がGCの弱点
📊 判定
- 〇週足25/75のような遅いクロスなら、日本ではリターン大差なし+暴落の下落幅は半減。低迷期(1990年〜・2000年〜)はB&Hに勝った
- △一本調子の上げ相場(2010年〜)ではリターンで大敗。直近はGC史上最悪の−45%を記録し、下落抑制の看板も揺らいだ
- ×日足の速いクロス(5/25等)は時代を問わず自滅。ダマシと手数料で、日経917回・S&P500では1,283回の売買の末に大差で負けた
リターンだけで測れば★2寄り。暴落を避ける「保険」として見れば★4寄り。両方の性格を併せ持つため、総合評価は★3としました。ただし「速いクロスほど報われない」という結論だけは、時代と市場を問わず一貫していました。
初心者はどう受け止めればいい?
まとめ
- 「GCで買いDCで売る」を日経77年・S&P500 98年で機械売買した結果、全期間リターンではどの設定も持ちっぱなしに勝てなかった。
- ただし遅いクロスなら、リターンを大きく落とさず最大下落を半減。低迷期の日本ではリターンでも勝った。
- 日足の速いクロスは、時代・市場を問わずダマシと手数料に削られる。速く回すほど裏切られる。
- GC戦略の77年間で最悪の傷は直近の2015〜2020年に発生。直近の印象だけでこの道具の価値を判断しないこと。
- 判定は★★★☆☆「速く回すほど裏切られる」。
よくある質問
- 出典:Stooq の日経平均・S&P500 日次終値データを私が集計。図はすべて自作です。
- 集計方法:単純移動平均(終値ベース)。短期線>長期線の間はフル投資、下回ったら全額現金退避。クロス確認の翌バーから保有(ルックアヘッドなし)。フル複利・片道0.1%の手数料・税とスリッページは未考慮・現金退避中の金利0%。週足は各週の金曜終値で作成。
- 対象期間:日経平均1949年5月〜、S&P500は日次データが安定する1928年以降を使用(それ以前は月次のため除外)。図1・図2の設定間比較は、最長の助走期間(週足75本)明けに起点を統一。時代別(図3)は移動平均を全履歴で計算してから各年代を切り出し。
- 配当は含みません(価格指数の終値のみ)。配当込みではB&H側がやや有利になります。
- 期間の対応関係:週足25本≒日足125日、週足75本≒日足375日(1週間≒5営業日換算)。















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