信用評価損益率−10.45%|関税ショック以来でも「投げ」はまだ出ていない

最新の週次データ(7月17日基準)で、信用評価損益率が−10.45%まで悪化しました。−10%を超える悪化は、2025年4月のトランプ関税ショック(−15.31%)以来の水準です。きっかけははっきりしていて、日経平均が週間で−6.44%、一時62,704円まで売り込まれた7月17日の急落週を反映した数字になります。ただ、−10.45%という数字を詳しく見ると、一般的にイメージされる「総悲観」とはやや異なる側面も見えてきます。今回はこの数字の中身と、下値・上値の目処までまとめて整理してみます。 この指標は6月24日に約13年ぶりのプラス転換(+1.47%)を取り上げたばかりでした。あのとき「戻り売り予備軍の山」と書いた含み益の山が、わずか1か月で−10%台の含み損の山に変わった——その続きの話です。
先に3行で
  1. 信用評価損益率が−10.45%へ悪化。前週の−4.95%から1週間で急落し、2025年4月のトランプ関税ショック(−15.31%)以来の水準です。
  2. ただし中身を見ると、急減したのは売り残(−14.3%)で、買い残はほぼ動いていません。つまり買い方の「投げ」(損失確定の売り)はまだ出ていない状態です。
  3. 下値はPER23倍の床(現に7/17はそこで下げ止まり)、上値は決算でEPSが切り上がるか次第。「悲観の極み」と呼ぶには早い、というのが私の見立てです。

何が起きたか ―― 1か月で「含み益の山」が「含み損の山」に

まず経緯からです。この指標は6月19日基準で+1.47%と、約13年ぶりのプラス圏にいました。ところがそこから−3.09%(6/26基準)→−2.78%(7/3)→−4.95%(7/10)と沈み、今回の7月17日基準で−10.45%。直近の1週間だけで5.5pt(pt=%どうしの差分)の急悪化です。プラス転換からわずか1か月で約12pt下という、値動きの荒さがそのまま表れた振れ幅です。

背景はシンプルで、7月17日の急落です。この週の日経平均は週間−6.44%(−4,416円)、ザラ場では62,704円まで売られました。米国の半導体株安を起点にAI・半導体関連へ売りが集中し、追証に伴う投げ(損失確定の手仕舞い売り)も下げを加速させたと伝えられています。買い方の建玉が平均で1割の含み損を抱えた、というのが今回の−10.45%の意味になります。

信用評価損益率の温度帯と今回の位置(−10.45%)信用評価損益率を-20%から+5%の数直線で示した図。底値圏(-20〜-15%)、通常レンジ(-15〜-3%)、天井圏(-3〜0%)、過熱圏(0%超)の4帯に色分け。先週の-4.95%と今回の-10.45%を上部に並べ、1週間で5.5pt悪化したことを示す。今回の-10.45%は通常レンジの深い側にあり、底値圏(-15%)にはまだ届いていない。2025年4月の関税ショック時-15.31%の位置も参考表示。数値は週次・7/17基準の遅行データ。 信用評価損益率はいま「どの温度帯」? +1.47%から1か月で−10.45%へ。ただし底値圏(−15%)はまだ先。 1週間で −5.5pt 先週 −4.95% 今回 −10.45% 底値圏 通常レンジ 天井圏 過熱圏 -20% -15% -10% -3% 0% +5% 2025/4 関税ショック −15.31% ※−3%付近=天井圏/−15〜−20%=底値圏の目安。本数値は週次(7/17基準)の遅行データです。
信用評価損益率の温度帯と今回の位置。−10.45%は通常レンジの深い側で、セリング・クライマックスの目安とされる底値圏(−15〜−20%)にはまだ届いていません。参考として2025年4月の関税ショック時(−15.31%)の位置も示しています(数値は7/17基準の週次データ)。

水準の感覚は前回記事と同じ物差しで見ます。この指標はおおむね−3〜−9%が通常レンジで、−3%付近が天井圏、−15〜−20%が底値圏の目安でした。今回の−10.45%は通常レンジの下限を割り込んだ「警戒ゾーン」ですが、逆張りの好機とされる底値圏には、じつはまだ5ptほど距離があります。関税ショック時は−15.31%まで沈んでから底を打っており、水準面では「底値圏の手前」にとどまっている、というのが事実関係になります。

中身が曲者 ―― 減ったのは売り残、買い方は投げていない

そして今回いちばん見ておきたいのが、同時に発表される信用残高の中身です。急落した週ですから、買い方の投げで買い残が大きく減った……と思いきや、数字は逆でした。

急落週にポジションを畳んだのは誰か(売り方と買い方の行動比較)売り方と買い方の行動を2枚のカードで比較した図解。売り方の建玉(売り残)は7955億円から6814億円へ14.3%減少。急落で空売りに利益が乗り、手仕舞いの買い戻しが一気に出た。一方、買い方の建玉(買い残)は6兆7322億円から6兆7097億円へ0.3%減とほぼ動かず。平均1割の含み損を抱えても投げはまだ出ていない。結論として、動いたのは売り方の利益確定だけで、信用倍率は9.85倍に上昇し買い長の需給はさらに重くなった。 急落の週、ポジションを畳んだのは誰? 二市場信用残高の前週比(7/10基準 → 7/17基準) 売り方の建玉(売り残) 7/10時点 → 7/17時点 7,955億円 → 6,814億円 −14.3% 大きく減った 急落で空売りに利益が乗り、 手仕舞いの買い戻しが一気に出た → 踏み上げの燃料は残りわずか 買い方の建玉(買い残) 7/10時点 → 7/17時点 6兆7,322億円 → 6兆7,097億円 −0.3% ほぼ動かず(売り残の約10倍の山) 平均1割の含み損を抱えても、 投げ(手仕舞い売り)はまだ出ていない → 6.7兆円の山がそのまま残った 動いたのは売り方だけ ―― 信用倍率9.85倍、買い長の需給はさらに重く ※信用倍率=買い残÷売り残。買い残6.7兆円は1年前(約4.0兆円)から約67%増の高水準。
急落週(7/17基準)の売り方と買い方の行動比較。動いたのは売り方の買い戻し(売り残−14.3%)で、買い方は平均1割の含み損を抱えたままほぼ動いていません(買い残−0.3%)。結果、信用倍率(買い残÷売り残)は9.85倍まで上昇しました。データ:二市場信用取引残高より作成。

売り残は7,955億円→6,814億円で前週比−14.3%の急減。一方の買い残は6兆7,322億円→6兆7,097億円とわずか−0.3%しか減っていません。この週に目立ったのは、買い方の投げ売りよりも、売り方による利益確定の買い戻しだったとみられます。皮肉なことに、この買い戻しが急落のクッションになっていた面もあったのではないでしょうか。

ですので、−10.45%という数字の読み方も変わってきます。追証で強制決済された建玉は集計から抜けていくにもかかわらず、残った建玉が平均1割の含み損を抱えている。つまり今回の−10.45%は、「投げた後の膿が出た数字」ではなく「投げが出ていないのに1割やられている数字」——含み損に耐えている買い方が、ほぼそのままの規模で残っていることを示唆しています。

信用倍率9.85倍・買い残6.7兆円の意味売り残の急減で、信用倍率(買い残÷売り残)は8.46倍→9.85倍へ跳ね上がりました。買い残6.7兆円は1年前(約4.0兆円)から約67%増の高水準です。踏み上げ(売り方の買い戻しによる上昇)の燃料は今回の急落でかなり使われた一方、上値では建値に戻った買い方の「やれやれ売り」、下値では二番底時の追証の投げが出やすい。どちらに動いても重石になりやすい需給、という点は意識しておきたいところです。

下値の余地 ―― テクニカルにはまだ「許容範囲の調整」

では、仮に二番底を試す展開になったとき、どこまでの下げがあり得るのか。週足の長期トレンドラインで測っておきます。2025年4月の関税ショック安値(30,793円)と、2026年3月末の押し安値(50,559円)を結んだ上昇トレンドラインは、週あたりおよそ+390円のペースで切り上がっていて、現在の位置は57,000円前後です。

日経平均 週足と長期上昇トレンドライン(2025年1月〜2026年7月23日)日経平均の週足チャート。2025年4月7日の関税ショック安値30,793円と2026年3月30日週の押し安値50,559円を結んだ上昇トレンドラインは週あたり約390円のペースで切り上がり、現在の位置はおよそ57,000円。2026年7月17日のザラ場安値62,705円はトレンドラインまでまだ5,000円以上の距離がある。 下値試しの「許容範囲」はまだ広い 日経平均 週足と長期上昇トレンドライン(2025/1〜2026/7/23) 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 2025/4/7 安値 30,793円 2026/3/30週 安値 50,559円 7/17 ザラ場安値 62,705円 ラインまで約5,000円の距離 長期上昇トレンドライン(現在約57,000円) 週あたり約+390円のペースで切り上がり 2025/1 4月 7月 10月 2026/1 4月 7月 ※週足4本値より作成。トレンドラインは2025/4/7安値と2026/3/30週安値を結んだもの。緑=陽線/赤=陰線。
日経平均の週足と長期上昇トレンドライン。2025年4月7日の関税ショック安値(30,793円)と2026年3月30日週の押し安値(50,559円)を結んだラインは週あたり約+390円のペースで切り上がっていて、現在の位置はおよそ57,000円。7/17のザラ場安値(62,705円)からは、まだ5,000円以上の距離があります。データ:週足4本値より作成。

7月17日のザラ場安値62,704円から、このラインまではまだ5,000円以上の距離があります。逆に言うと、60,000円割れ近辺まで二番底を掘ったとしても長期の上昇トレンド自体は無傷——テクニカルの側から見れば「下値試しがあっても全然不思議ではない」余地が残っている、と言えそうです。

でも実際は「PER23倍の床」で止まった

需給は重く、テクニカルには下値余地がある。それでも実際の相場は、急落の翌週にはもう66,000円台まで戻しています。下値を支えたものとして私が注目しているのが、日経平均のPER23倍のラインです。

日経平均とPER23〜26.5倍バンド(2026年3月末〜7月23日)日経平均の週足終値と、EPS×23倍からEPS×26.5倍のバリュエーションバンドを重ねた図。3月末のEPS約2,255円から7月の約2,790円へEPSが階段状に切り上がるのに伴い、バンド全体が上方シフトし、株価はほぼこのバンド内で推移してきた。7月17日の急落もほぼ23倍ライン(約64,200円)で下げ止まっている。 相場を作ってきたのは「EPSの階段」 日経平均とPER23〜26.5倍バンド(帯はEPSの切り上がりで上方シフト) 50,000 55,000 60,000 65,000 70,000 7/17の急落も ほぼ23倍ラインで下げ止まり PER23倍ライン(床) PER26.5倍ライン(上限) 5月決算シーズンでEPSが約13%切り上がり → 帯ごと上へ 3月末 4月末 5月末 6月末 7/17 ※帯=その時点のEPS×23倍〜×26.5倍。EPS:約2,255円(3月末)→約2,790円(7月)。週足終値ベース。
日経平均の週足終値と、PER23〜26.5倍のバリュエーションバンド。この4か月、PERのレンジ自体はほぼ固定のまま、EPSが約2,255円→約2,790円(+24%)へ階段状に切り上がることで帯ごと上方シフトしてきました。7/17の急落もほぼ23倍ライン(約64,200円)で止まっています。データ:日経平均の指数ベースPER・EPSより作成。

この4か月の日経は、指数ベースのPERがおおむね23〜26.5倍のレンジで動いてきました。4月の安値圏で23倍台前半、6月上旬の押しで23.2倍、そして7月17日の急落時が22.99倍。23倍タッチで3回とも反発しています。唯一の例外は5月中旬の22.07倍ですが、これは後述のEPS急増でPERが機械的に押し下げられた局面でした。

そして図で見てほしいのがEPSの階段です。日経のEPSは3月末の約2,255円から、5月の決算シーズンで一気に切り上がり、7月には約2,790円。4か月で+24%です。つまりこの上昇相場は、PERの拡大ではなく、EPSの切り上げが「帯ごと」相場を持ち上げてきた増益裏付け相場だったということなんですよね。需給がどれだけ重くても23倍の床で買いが入るのは、この裏付けがあるからだと読めます。

上に行く道はEPS一本 ―― 決算シーズンと金利の蓋

そう考えると、ここから上に行けるかどうかの分水嶺もはっきりします。今週から本格化する4〜6月期の決算で、AI・半導体を中心にEPSの階段をもう一段作れるかです。

参考になるのが5月の前例です。5月の決算シーズンは、PER26倍前後という「期待を完全に織り込んだ」状態で突入しました。それでも一度は22倍まで売られるシェイクアウトをはさみつつ、最終的にはEPSの約13%切り上げが勝って、6月には72,000円台の高値まで駆け上がっています。今回はどうかというと、突入時のPERは23倍台と、7月17日の急落が期待の織り込みを先回りで剥がしてくれた形です。「織り込み済みだから決算で急落」というシナリオは、5月と比べればむしろ条件が悪い(=起きにくい)位置からのスタートと言えそうです。

ただし「PERの切り上がり」には金利の蓋一方で、上値をPERの拡大に期待するのは難しくなっています。長期金利がこの4か月で2.3%前後→2.7%台へ上昇し、株の益回り(PERの逆数、現在約4.2%)と国債利回りの差は約1.9pt→約1.4ptまで痩せました。4月末に26.5倍の高値をつけたときの金利は2.4%台。いまの金利水準で同じ26.5倍まで買うと、株のリスクを取る見返りが1pt程度まで潰れてしまう計算です。ですので上値ドライバーは、PERではなくEPSの一本足と見ておくのが安全だと思います(このところの金利上昇の背景は骨太の方針2026と株・金利の整理でも扱っています)。

想定されるシナリオ ―― 分水嶺はAI・半導体のガイダンス

ここまでの需給・テクニカル・バリュエーションを重ねると、シナリオはこう整理できます。断定はできませんが、上下の目処は数字で置けるのが今回の面白いところです。

◎ 強気:EPSの階段がもう一段

AI・半導体の好決算と上方修正でEPSが+4〜5%(2,900円前後)切り上がるケース。23倍の床でも66,700円、25倍なら72,500円まで帯が上がります。5月と同じ「シェイクアウト後にEPSが勝つ」再現です。

条件:ガイダンスの上振れ+米ハイテクの持ち直し
○ 中立:帯の中を往来

決算が「良いが想定内」ならEPSは横ばいで、現行バンドの64,000〜70,000円前後を往来。上値は買い残6.7兆円のやれやれ売りで重く、下値は23倍の床で支えられる、こう着に近い展開です。

条件:決算が概ね予想線+金利が2.7%台で安定
△ 弱気:ガイダンス失望で二番底

失望決算でEPS微減×5月安値と同じ22倍まで売られると59,500〜61,000円前後。含み損の買い方の投げ(追証)が下げを増幅しやすい位置ですが、それでも57,000円前後の長期トレンドラインは残ります。

条件:AI・半導体の弱いガイダンス+金利の一段上昇

まとめ ―― 「答え合わせ」は3つ

今回の−10.45%は、見出しだけなら関税ショック以来の悲観に見えます。ただ中身は、売り方の買い戻しが先に出て、含み損を抱えた買い方6.7兆円がほぼ手つかずで残っている、という「弾の残った」状態です。セリング・クライマックスと呼ぶには浅く、かといって崩れを断定するには23倍の床とEPSの裏付けが堅い。私としては、決算シーズンの中身を見るまでは中立シナリオを本線に、上下の分岐を数字で追いたい局面という気がします。

答え合わせのポイントは3つです。①次回の週次更新(7/24基準)で評価損益率がどこまで戻るか。②買い残が減り始めるか——高止まりのままなら、上値の重さも二番底時の投げ余地も残ります。そして③AI・半導体のガイダンス。EPSの階段がもう一段できるかどうかが、結局はいちばん効いてくると思います。当日のマーケット全体の動きは日次レポートで整理しています。

※本記事は私個人が独自に収集・整理したデータと指標にもとづく見解であり、特定の銘柄や投資行動を推奨するものではありません。信用評価損益率・信用残高は週次(公表に数日のタイムラグ)の指標で、記載の数値は執筆時点のものです。PER・EPS・シナリオの水準はあくまで機械的な試算であり、将来の株価を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA