決算期末が近づくと、「機関投資家のお化粧買いで株価が上がる」という話をよく見かけます。3月末と9月末、日経平均の最終5営業日を1990年以降で数え直してみました。平均は-0.58%、勝率38%。上がっていたのは、決算期末ではないほうの月末でした。
- 3月末・9月末の最終5営業日は平均-0.58%・勝率38%(73回)。それ以外の10か月末は+0.40%・勝率58%、通常日の任意5営業日は+0.08%。決算期末だけが沈んでいました。
- 3月末・9月末の窓には配当の権利落ち日が入ります。その1日を外して積み直しても-0.26%で、他の月末には届きません。
- 買い上げの本番であるはずの最終営業日1日だけを見ると-0.68%・勝率33%。月末をまたぐ11営業日のなかで、いちばん深い谷でした。
- 「月初に剥がれる」も逆向きです。月初5営業日は+0.54%・勝率59%(中央値+1.22%)。下がって戻す、が実際の形でした。
- ただし1970〜80年代は+1.62%・勝率82%で、通説どおりの期末高がありました。消えたのは1990年代からです。
- 判定:★★☆☆☆(ほぼ気のせい——上がっていたのは、決算期末ではないほうの月末)
- 日経平均の日次終値から月末の最終営業日を特定し、そこまでの5営業日・最終営業日1日・翌月初の5営業日の騰落率を機械的に集計する
- 比べる相手を3つ置く。決算期末ではない10か月末、任意の5営業日(通常日)、そして時代を分けた同じ集計
- 3月末・9月末は配当の権利落ち日が同じ窓に入るため、権利落ち日の1日を外した集計も並走させる
- 対象は1990年1月〜2026年5月の月末437回(うち3月末37回・9月末36回)。時代の比較のみ1970年以降。出典はStooq、集計は私が行いました
そもそも「お化粧買い」とは何か
期末の運用成績や保有銘柄の見え方を良くするために、機関投資家が持ち株を買い増して株価を引き上げる——という説明で語られる需給です。英語ではwindow dressing、日本語では「ドレッシング買い」とも呼ばれます。日本で3月末と9月末が名指しされるのは、3月期決算の会社が多く、9月末がその中間期末にあたるためです。
ただ、期末の数日というのは、いろいろなことが同時に起きる時間帯でもあります。配当の権利落ち、指数連動ファンドのリバランス、決算をまたぎたくない投資家の売り(益出し・損出し)、四半期末の解約に備えた換金。お化粧買いは、そのなかの一つでしかありません。
ですから、データで取り出せるのは「お化粧買いだけ」ではなく、それらを合計した結果として、指数がどう動いたかです。この記事で検証できるのはその範囲だ、という点は先に書いておきます。逆にいえば、私たちが実際に向き合うのも合計の値動きのほうです。お化粧買いだけを取り出せなくても、合計を測ること自体は判断の材料になると考えています。
検証①:期末の最終5営業日は、本当に上がっているのか
まず素直に数えます。1990年以降の月末437回について、最終営業日までの5営業日の騰落率を平均しました。
まず「月末は上がりやすい」という形そのものは、たしかに出ています。決算期末ではない10か月末は+0.40%・勝率58%で、通常日の+0.08%・勝率53%を上回りました。海外では月替わりの需給としてよく知られる形で、給与天引きの積立や年金の買いが月初に集中することなどが理由として挙げられます。
ところが、お化粧買いがあるはずの3月末・9月末は-0.58%。勝率は38%にとどまりました。内訳は3月末-0.09%(勝率46%)、9月末-1.08%(勝率31%)で、どちらも通常日の+0.08%を下回っています。通説がいちばん強く働くはずの2つの月末だけが、月末効果の外に置かれている——それが最初に出てきた形でした。
何も起きないはずの月末のほうでした。
検証②:権利落ちを差し引いても、上げは出てこない
ここで一つ、公平を期す必要があります。3月末・9月末の窓には、配当の権利落ち日が必ず入るからです。配当を受け取れるのは権利確定日に株主名簿へ載っている人で、株の受け渡しは約定の2営業日後(T+2)。つまり確定日の2営業日前までに買っておく必要があり、その日が権利付最終日、翌日が権利落ち日です。月末が権利確定日なら、権利落ち日は最終営業日の1営業日前にあたります。配当の分だけ理論上は下がる日が、検証の窓のなかに含まれている。これでは決算期末に不利な比較です。
そこで、権利落ち日の1日分だけを外して、残りの4営業日で積み直しました。結果は-0.26%(勝率49%)。マイナスは浅くなりましたが、他の10か月末の+0.40%には届きません。
月別に分けると、性格の違いがはっきりします。3月末は権利落ちを外すと+0.34%(勝率59%)とプラスに転じました。3月末の弱さは、その大半が配当の権利落ちで説明がつくということです。一方で9月末は、外しても-0.87%(勝率39%)。落ち分を差し引いてもなお沈んだままでした。
なお、権利落ち日そのものの値動きは通説検証#07「配当の権利落ちはすぐ埋まる」は本当か?で73回分を集計していて、当日の平均は-0.32%(3月-0.43%/9月-0.21%)でした。本記事の権利落ち日の特定は、そこで使った日付と同じ結果になることを確かめたうえで使っています。
検証③:買い上げられるはずの最終営業日が、いちばん深い谷
次に、期末の5営業日を1日ずつ分解します。お化粧買いが本当にあるなら、評価額が確定する最終営業日に向かって、じりじり強くなる形が出るはずです。月末をまたぐ11営業日について、1日ごとの平均騰落率を並べました。
形は、通説とほぼ真逆でした。3月末・9月末の最終営業日は-0.68%・勝率33%。11営業日のなかでいちばん深い谷です。同じ日を他の10か月末で測ると+0.14%(勝率54%)で、こちらはわずかにプラス。全営業日の平均は+0.02%ですから、決算期末の最終営業日だけが、はっきり外れた場所にいます。
権利落ち日にあたる-1日目も-0.36%と沈んでいますが、より深いのはその翌日、つまり配当とは関係のない最終営業日そのものでした。買い上げの本番であるはずの日が、いちばん売られている。ここが今回いちばん意外だった部分です。
11営業日でいちばん深い谷でした(勝率33%)。
検証④:「月初に剥がれる」も、順番が逆だった
通説の後半、「期末に持ち上げた分は月初に剥がれる」も確かめます。月末最終営業日の終値から、翌月の5営業日後までを測りました。
3月末・9月末のあとの月初5営業日は+0.54%・勝率59%、中央値は+1.22%。剥がれるどころか、戻していました。逆に、期末に上がっていた10か月末のほうは月初-0.03%とほぼ横ばいです。「上がって剥がれる」ではなく「下がって戻す」——通説とは順番が入れ替わっていた、というのが実際の形でした。
ただ、この月初の戻りをルールとして使えるかというと、そこは慎重に見ています。2013年以降だけで測ると、月初5営業日の平均は-0.21%と符号が反転するからです。関税ショックで急落した2025年4月の-12.58%が効いていて、この1回を外すと+0.26%に戻ります。1回の大波で平均がひっくり返る程度の差だということは、正直に書いておきます。
昔は本当にあった──1980年代までの期末高
ここまでの結果だけ見ると「そんな通説はどこから来たのか」と思うかもしれません。時代を分けると、答えらしきものが出てきます。
1970〜89年の3月末・9月末は+1.62%・勝率82%。他の月末(+0.76%)を大きく上回っていて、通説どおりの期末高がはっきり出ています。5回に4回はプラスで終えていた計算です。
それが1990年代に入ると-0.80%へ沈み、2000年代-0.41%、2013年以降-0.58%と、3つの時代すべてで他の月末を下回りました。通説が生まれた時代の相場は実在した。ただし、それは30年以上前の形だということになります。
何が変わったのかは、この数字だけでは決められません。株式の持ち合いが解けたこと、時価会計の導入で期末の株価が財務に直結する形が変わったこと、四半期開示や運用評価が細かくなって「期末の1日」の重みが薄れたこと——どれも背景として挙げられますが、どれが効いたのかを本記事のデータで切り分けることはできません。ここは「消えた」という事実だけを持ち帰るのが誠実だと思っています。
- 〇「月末は上がりやすい」という形そのものは残っている。決算期末以外の10か月末は+0.40%・勝率58%で、通常日の任意5営業日(+0.08%)を上回る。
- ×肝心の3月末・9月末は-0.58%・勝率38%。権利落ち日を外しても-0.26%で、他の月末に届かない。
- ×買い上げの本番であるはずの最終営業日が-0.68%・勝率33%と、月末をまたぐ11営業日でいちばん深い谷だった。
- ×「月初に剥がれる」も逆。月初5営業日は+0.54%・勝率59%(中央値+1.22%)で、むしろ戻していた。
- △1970〜89年に限れば+1.62%・勝率82%で通説どおり。この形が消えたのは1990年代から。
★2とした理由を書いておきます。「月末は上がりやすい」という緩い意味に取るなら★4級です。実際、決算期末以外の10か月末は通常日より明確に強い。けれども通説がわざわざ名指しするのは3月末と9月末で、そこに限ると向きが逆になり、後半の「月初に剥がれる」も外れました。名指しされた2つの月末だけが、月末効果から外れている——通説として見ると、これは当たっているとは言いにくいところです。ただし1980年代までは実在した形です。指数に出てこないだけで、個別株の買い上げまで否定できたわけでもありません。そこで★1(逆効果)までは落とさず、★2としました。
この結果、実践にどう活かす?
期末の日付は、誰のカレンダーにも同じように載っています。買い上げがあると分かっているなら、その手前で買っておいて当日に売る人が出る。そうして先回りが積み重なると、肝心の当日は平らになります。これはETFの分配金捻出売り(#03)やメジャーSQ週(#12)でも見えた形でした。しかも期末には、決算をまたぎたくない売り——益出し、損出し、リスクの圧縮——が同じ日に出てきます。お化粧買いがゼロだとまでは言えなくても、反対側の売りと相殺されて指数には残らない。今回の結果は、そう読むのがいちばん自然だという気がしています。
私自身は、期末の需給を気にして売買することはありません。お化粧買いという言葉は知っていましたが、逆向きの結果が出たのは正直なところ意外でした。ただ、これを根拠に期末を狙って売買しようとは思わないんですよね。月初には戻すという形もあわせて出たので、「3月末・9月末は下がりやすい」と知識として持っておいて、その時期の下げに驚かない——そのくらいの使い方のほうが、落ち着いた判断につながると考えています。
まとめ
- 3月末・9月末の最終5営業日は平均-0.58%・勝率38%。決算期末ではない10か月末は+0.40%・勝率58%で、上がっていたのは後者のほうでした。
- 窓に入る配当の権利落ち日を外しても-0.26%。3月末は+0.34%とプラスに転じますが、9月末は-0.87%と沈んだままでした。
- 買い上げの本番であるはずの最終営業日は-0.68%・勝率33%。月末をまたぐ11営業日でいちばん深い谷です。
- 「月初に剥がれる」は逆で、月初5営業日は+0.54%・勝率59%と戻していました。ただし1回の急落で平均が反転する程度の差でもあります。
- 1970〜89年は+1.62%・勝率82%で通説どおりでした。判定は★★☆☆☆——通説が指している相場は、30年以上前のものだったことになります。
期末の株価には、たしかにいろいろな力がかかっています。ただ、その合計は「上がる」ではありませんでした。カレンダーに書き込んでおくとしたら、3月末・9月末は買い上げの月ではなく、権利落ちと期末の売りが重なって、むしろ下押しされやすい月——そのくらいの温度で覚えておくのがちょうどいいのだと思います。
よくある質問
- 対象期間を1990年以降にしたのは、バブル崩壊後の市場構造でそろえるためと、権利落ち日を含む集計を#07(配当の権利落ち)の73回と同じ母数に合わせるためです。時代比較の図4のみ1970年以降を使っています。
- 「期末の最終5営業日」は、月末最終営業日の5営業日前の終値から最終営業日の終値までの騰落率(複利)です。「月初5営業日」は最終営業日の終値から5営業日後の終値までを測っています。
- 権利落ち日は、受渡がT+2になった2019年7月16日以降は月末最終営業日の1営業日前、それ以前はT+3として2営業日前としました。この特定方法で計算した権利落ち日当日の平均(1990年以降73回で-0.32%、3月-0.43%・9月-0.21%)が#07の集計と一致することを確認しています。1997年以前の受渡制度の細かな違いは考慮していません。
- 対照群の「通常日」は、全営業日を起点にした任意の5営業日です(起点が1日ずつずれるため、窓は重複します)。月末をまたぐ回も含みますが、n=8,930のうち月末起点は437回にすぎないため、平均への影響はごくわずかです。
- 日経平均は配当を含まない指数です。本記事の数値はすべて配当抜きの株価指数ベースで、配当込みで測れば3月末・9月末の落ち分は理論上その分だけ埋まります。
- 3月末・9月末の集計はn=73と小さく、日々の値動きのばらつきに比べれば平均の差は大きくありません。厳密な有意性の主張ではなく、傾向として読んでいただければと思います。
- 2013年以降の月初5営業日は平均-0.21%(中央値+0.18%)で、1990年以降の全体(+0.54%)と符号が異なります。2025年4月の-12.58%を除くと+0.26%になります。n=27と少ないため、時代の変化と読むには早いと考えています。
- 出典はStooq(日経平均株価の日次終値)。手元のCSVは2026年6月5日までで、月末の集計は最後の完全な月末である2026年5月末までを対象にしています。集計・図版はすべて私が作成しました。















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