上方修正でも売られる株|分岐はコンセンサス超えか・三井E&S-8.0%
2026年8月4日の東京市場は、前引けが421円55銭安と売りに押されていました。ところが決算発表が90社に集中したこの日、後場に買いが入り、大引けは202円63銭高の63,957円53銭です。
ただ、決算に反応した銘柄はきれいに割れました。ヤマハ発動機は通期の最終利益を70%引き上げて+13.40%、三井E&Sは通期の経常利益を5.4%引き上げながら-8.02%です。
はじめは「修正の幅が大きいほど買われた」と読みました。しかし大塚商会は経常を6.7%引き上げただけで+6.68%です。修正後の計画をコンセンサスと突き合わせると、6社すべてで符号がそろいました。
① 分けたのは修正の幅ではなく、修正後の会社計画が決算前のコンセンサスに届いたかどうかでした。上回った4社は全社が上昇、下回った2社は全社が下落です。
② 大塚商会(経常+6.7%修正)と三井E&S(同+5.4%修正)は修正幅がほぼ同じ。それでも前者はコンセンサスを4.3%上回って+6.68%、後者は18.4%下回って-8.02%と真逆に動きました。
③ 丸紅は好決算と自社株買いを発表しながら通期計画を据え置き。計画5,800億円がコンセンサスに5.1%届かず-3.80%です。
何が起きたか|前引け421円安から、大引け202円高への切り返し
まず前場は、追加の為替介入への警戒と韓国株安で売りが先行し、前引けは63,333円35銭(前日比421円55銭安)です。ところが後場に決算発表が相次いで買いが入り、大引けは63,957円53銭(+0.32%)と3日ぶりに反発。戻り幅は624円です。
とくに象徴的だったのが三菱重工業です。4〜6月期の純利益97%増、ガスタービンが牽引して受注3割増という内容が場中に伝わり、安値3,712円から終値4,091円まで安値比10.2%戻しました。ヤマハ発動機も、売上営業利益率が前年同期の6.2%から12.5%へ跳ねた決算を受け、安値1,313円から15.1%高い1,511円で引けています。
つまりこの日の切り返しは、個別企業の決算が指数を押し上げたものでした。
数値で見るインパクト|修正の「幅」では順番が合わない
まず、各社が通期計画をどれだけ動かしたかを並べます。開示利益項目に合わせたため、最終利益と経常利益が混在します。
| 銘柄 | 項目 | 修正前 | 修正後 | 修正率 | 8/4騰落率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ヤマハ発動機(7272) | 通期最終 | 1,000億円 | 1,700億円 | +70.0% | +13.40% |
| 商船三井(9104) | 通期経常 | 1,450億円 | 2,250億円 | +55.2% | +4.43% |
| シークス(7613) | 通期経常 | 90億円 | 115億円 | +27.8% | +7.21% |
| 大塚商会(4768) | 通期経常 | 901億円 | 961億円 | +6.7% | +6.68% |
| 三井E&S(7003) | 通期経常 | 370億円 | 390億円 | +5.4% | -8.02% |
| 丸紅(8002) | 通期最終 | 5,800億円 | 5,800億円 | 据え置き | -3.80% |
※ヤマハ発動機・シークス・大塚商会は12月期、ほかの3社は3月期。三菱重工業は通期計画の修正が確認できず本表から外しています。
ここで引っかかりました。修正率の順に並べたのに、株価の並びが合いません。商船三井は経常を55.2%引き上げて+4.43%、大塚商会は6.7%の引き上げで+6.68%と、幅の小さいほうが大きく上げています。
とくに大塚商会と三井E&Sは修正率が+6.7%と+5.4%でほぼ同じなのに、片方は+6.68%、もう片方は-8.02%です。修正の幅を物差しにするかぎり、この2社は説明できません。
独自分析|分岐は「コンセンサスに届いたか」だった
そこで基準を変えました。修正の前後ではなく、修正後の会社計画が、決算前に市場が織り込んでいた水準に届いたかで並べ直します。
※コンセンサスとは、その銘柄を調査するアナリストの業績予想の平均値です。会社が出す計画とは別物で、株価はふつうこちらを織り込みます。ここではIFIS株予報の決算前時点の平均値を使いました。
| 銘柄 | 修正後の会社予想 | 決算前コンセンサス | 対コンセンサス | 8/4騰落率 |
|---|---|---|---|---|
| ヤマハ発動機(7272) | 最終 1,700億円 | 1,141.8億円 | +48.9% | +13.40% |
| 商船三井(9104) | 経常 2,250億円 | 1,779.7億円 | +26.4% | +4.43% |
| シークス(7613) | 経常 115億円 | 100.0億円 | +15.0% | +7.21% |
| 大塚商会(4768) | 経常 961億円 | 921.7億円 | +4.3% | +6.68% |
| 丸紅(8002) | 最終 5,800億円 | 6,112.3億円 | -5.1% | -3.80% |
| 三井E&S(7003) | 経常 390億円 | 478.0億円 | -18.4% | -8.02% |
※コンセンサスはIFIS株予報の集計値(決算前時点)。開示された利益項目に合わせて比較しています。アナリスト数の少ない銘柄は平均値の精度が下がる点にご留意ください。
今度は6社すべてで符号が一致しました。ただし乖離の大小と上げ幅の大小は比例せず、そろったのは方向だけです。
たとえば三井E&Sです。経常を370億円から390億円へ引き上げましたが、市場は478億円を見ていました。修正後でも期待水準の8割ほど、しかも前期比13.1%の減益予想のままです。「上方修正でも物足りなさが意識された」と報じられたのは、この差でしょう。
逆に大塚商会は、修正後の961億円がコンセンサス921.7億円を4.3%上回り、しかも減益予想から一転して増益・最高益です。同じ「5〜7%の上方修正」でも、着地点が違えば受け止めは変わります。
一方、丸紅は別の形です。4〜6月期の純利益は21%増の1,864億円で市場予想を上回り、最大1,000億円の自社株買いも発表しました。ところが通期計画は5,800億円のまま動かしていません。四半期がいくら良くても、通期の目線は上がらなかったわけです。
ただし、ここで並べたのは6社だけです。たまたまそろった可能性は残るので、法則として扱うつもりはありません。
業種の追い風|同じ機械の中で15ポイント開いた
ここで、私が毎日つけている独自指標も当ててみます。業種の騰落率からTOPIXの騰落率を引いた「対TOPIX相対騰落」です。
この日の機械は+3.25%、相対騰落では+3.21ptで33業種中2位でした。業種には強い風が吹いていました。ところがその機械の中に、三菱重工業+7.69%と三井E&S-8.02%・クボタ-4.91%が同居しました。値幅で15ポイント以上の開きです。
逆に輸送用機器は-0.72%(相対-0.76pt)ですが、そこからヤマハ発動機+13.40%が出ています。つまり業種の色ではなく銘柄ごとの決算の中身で値段がついたということです。ふだんはこの指標で読める日が多いものの、決算シーズンの終盤は効きにくくなります。使える日と使えない日がある点は、正直に書いておきます。
市場全体の数字も、この選別を裏づけます。値上がり業種10/33・上昇銘柄比率40.0%と裾野は狭いのに、売買代金が急増した上位30銘柄の平均騰落率は+2.15%でした。資金は動いても、行き先を絞っています。
決算前の株価位置|前日に効いた物差しが、この日は効かなかった
前日8月3日にも、電子・FA商社で似た明暗を取り上げました。そのときは決算前のRSIがきれいに分かれ、上げた3社は78〜83、下げた4社は31〜46です(電子商社で明暗|決算が分けたAI組とFA組)。今回も同じ形かと調べたのですが、結果は違いました。
| 銘柄 | 8/3終値時点のRSI | 同 25日線乖離 | 8/4騰落率 |
|---|---|---|---|
| 商船三井(9104) | 72.4 | +4.5% | +4.43% |
| ヤマハ発動機(7272) | 64.4 | +3.9% | +13.40% |
| 丸紅(8002) | 61.4 | +1.6% | -3.80% |
| 三菱重工業(7011) | 52.6 | -0.4% | +7.69% |
| 三井E&S(7003) | 47.7 | -3.7% | -8.02% |
※RSIと乖離率は決算反応前の8月3日終値時点。上昇組のシークス(67.4)・大塚商会(65.2)は紙幅の都合で省きました。
ご覧のとおり、RSI61.4の丸紅が-3.80%で、RSI52.6の三菱重工業が+7.69%です。上げ組と下げ組でRSIの範囲が重なっており、決算前にどこまで買われていたかでは、この日の明暗を説明できません。前日に効いた物差しが、翌日はもう効かなかったわけです(5指標で過熱を採点する方法は個別銘柄の過熱スコアにまとめています)。
明日以降のシナリオ|決算の残り数日をどう読むか
◎ 強気に見るなら
前場421円安から後場に600円以上を戻したのは、決算の中身に反応する買いが厚いからです。三菱重工業の受注3割増やヤマハ発動機の利益率改善は、一過性というより構造の変化に近く見えます。発表はまだ数日続きますので、コンセンサスを大きく超える計画が続けば材料は残ります。
△ 弱気に見るなら
コンセンサスは、株価が上がるほど切り上がります。ここまで買われてきた銘柄ほど「上方修正しても届かない」状態になりやすく、三井E&Sのような反応が増える可能性があります。裾野が狭いままであることも考えると、決算の通過そのものが売り材料になる展開は頭に置いておきたいところです。
そこで翌日以降は、安値から15%戻したヤマハ発動機が水準を保てるか、三井E&Sや丸紅が反発するかを見ています。安値を切り下げるようなら、コンセンサス未達という評価が定着したことになります。
整理は3つです。
- 決算の良し悪しより、市場予想に届いたかどうかが効くと感じています。というのも、予想が高く積み上がっている銘柄は、中身そのものが良くても叩き売られるからです。今回でいえば三井E&Sがそれでした。
- 逆に、コンセンサス未達で急落した好決算の銘柄は、あとから値を戻すことがあります。売られた理由が業績の悪化ではなく期待とのズレなら、期待が下がりさえすれば株価は戻りうるからです。ただし私の経験則で、勝率まで検証したものではありません。ですので急落銘柄は切り捨てず、数日後の戻り方まで見ています。
- もうひとつ、決算後の業種の動きにも注目しています。個別が1社ずつどう反応したかより、そのあと業種というかたまりでどちらへ動くかのほうが、私には大事に見えます。ただ、決算が出そろったあとに機械なり海運なりが塊で買われ始めるなら、1社の決算ではなく業績の方向そのものが変わったサインです。
結論は「決算の数字を良し悪しで判断する前に、会社計画とコンセンサスの差を見る」です。そのうえで、叩かれた銘柄が戻すか、業種が塊で動き出すか——この2つを次の数日で追いかけます。
当日のマーケット全体の動きは日次レポートで取り上げています。













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