キオクシア決算|売上5.2倍・最終利益46倍・8,000億自社株買いでもPTS乱高下
2026年7月31日の引け後、キオクシアホールディングス(285A)が2027年3月期の第1四半期決算を発表しました。売上収益17,671億円(前四半期比+76.2%)、Non-GAAP営業利益13,262億円(同2.2倍・マージン75.0%)と、売上・利益・キャッシュフローのすべてが過去最高です。前年同期(FY2025Q1)との比較なら、売上5.2倍・最終利益46倍という伸びです。さらに上限8,000億円の自社株買いと1対3の株式分割まで、同時に決議されました。
ところが——46倍でも、会社予想には届きませんでした。決算短信ベースの純利益8,422億円は、5月公表の会社予想8,690億円に約3%未達。PTS(夜間取引)では発表直後に一時-9%前後まで売られ、執筆時点では-1.33%程度まで戻しています。日中ストップ高の+17.72%で引けた銘柄が、夜にいったん投げられる乱高下でした。
「全部が過去最高」と「会社予想未達」が同居する、少し読み解きの要る決算です。今日はこのねじれの中身を数字でほどいたうえで、7/29から続けてきたセリクラ(セリング・クライマックス=投げ売りの最終局面)検証の「最終試験」の答え合わせと、週明けの観測ポイントを整理します。
① 事業の数字はNon-GAAPベースで開示ガイダンスを全項目超過・過去最高。営業利益13,262億円・マージン75%、販売単価は前四半期比で約70%上昇し、Q2ガイダンスはさらに上の19,000億円です。
② ただし短信ベースの純利益8,422億円は、5月公表の会社予想8,690億円に約3%未達。差の主因は訴訟損失引当金366億円と株式報酬費用194億円で、これらを除いた実力ベースでは予想超過という「見出しは未達・中身は超過」のねじれです。
③ 併せて自社株買い上限8,000億円(発行済の5.5%)と1対3の株式分割を決議し、ネットキャッシュ1,867億円を確立。PTSは見出しに反応して一時-9%、中身の消化とともに-1.33%まで回復しています(執筆時点)。
何が起きたか|「全部が過去最高」の決算だった
まず数字です。売上収益17,671億円は前四半期の約1.8倍、Non-GAAP営業利益13,262億円は2.2倍で、マージンは75.0%へ切り上がりました。
マージンは売上のうち利益として残る割合のことで、100円売ったら75円が営業利益、という水準です。
製造業は10%あれば優良と言われますから、異常な収益性と言っていいと思います。
※Non-GAAPは、買収に伴う償却費や株式報酬・訴訟引当など一時的・非現金性の費用を除いた「会社が示す実力ベースの利益」です。監査対象の正式な数字は、短信のIFRSベースになります。
背景はAIサーバー向けSSDの物量増と、前四半期比約70%のNAND販売単価上昇です。Q2ガイダンスは、売上でさらに+35%、営業利益で+43%上を見込む水準です。
| (億円) | Q4実績 | Q1ガイダンス | Q1実績 | Q2ガイダンス |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 10,029 | 17,500 | 17,671 | 23,900 |
| Non-GAAP営業利益 | 5,991 | 13,000 | 13,262 | 19,000 |
| 営業利益率 | 59.7% | – | 75.0% | 79.5% |
| Non-GAAP純利益 | 4,099 | 8,700 | 8,870 | 12,800 |
| 1株利益(円・分割前) | 751.78 | 1,593.15 | 1,621.81 | 2,335.70 |
キャッシュも記録づくめです。コアFCF——本業で稼いだ現金から設備投資分を引いた、手元に純粋に残るお金——は過去最高の8,272億円でした。
その結果、社債・借入金から現金を引いた差引はマイナス1,867億円。つまり借金より手元現金のほうが多い「ネットキャッシュ」の会社になりました。
2018年の東芝からの買収で巨額の借金を背負って生まれた会社ですから、これは歴史的な転換です。シニアローン(優先的に返済される借入)4,075億円は期中に全額返済、自己資本比率も38%から51%へ改善しています。
純利益はなぜ未達?|訴訟引当366億円の一過性費用
ねじれの正体は、調整表を見るとはっきりします。短信(IFRS)の純利益8,422億円と、説明資料(Non-GAAP)の純利益8,870億円の差は448億円。
その中身は、今回初めて計上された訴訟損失引当金366億円と、前四半期の21億円から急増した株式報酬費用194億円が大半です。両者の合計560億円から税効果などを調整すると、差の448億円とおおむね一致します。
つまり未達を作ったのは本業の失速ではなく、一過性・非現金性の費用でした。逆に言えば、5月時点の会社予想はこの引当を織り込んでいなかった、ということでもあります。
※訴訟損失引当金は、係争中の訴訟について将来の支払いに備え、あらかじめ費用として計上しておくお金です。実際に現金が出ていくか・いくらになるかは、今後の帰結次第です。
| 純利益(Q1) | 5月公表の予想 | 実績 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 短信ベース(IFRS) | 8,690 | 8,422 | ▲268億円・約3%未達 |
| Non-GAAP(訴訟引当・株式報酬等を除く) | 8,700 | 8,870 | +170億円・超過 |
数値で見るインパクト|赤字の底から13四半期で1.3兆円
今回の数字の異常さは、メモリサイクルの1往復を並べると分かりやすいです。FY2022後半からの4四半期連続赤字(底は-1,658億円)から13四半期で、四半期利益は1.3兆円台まで駆け上がりました。
直近も5,991億円→13,262億円→19,000億円(Q2ガイダンス)と、切り立った階段が続きます。
背景はAIデータセンター需要が価格を押し上げる構図で、会社はCY27のNAND市場を「需要が供給を上回る」とまで踏み込みました。
株主還元の中身|8,000億円の自社株買いと1対3分割
決算と同時に出た2本の開示も整理しておきます。自社株買いは上限3,000万株・8,000億円で発行済株式の5.5%。取得期間は8月3日からなので、週明けの月曜から市場に「常駐の買い手」が入ることになります。
株式分割は1対3で10月1日効力発生。終値46,500円で計算すると、最低投資金額は465万円から約155万円へ下がります(東証が望ましいとする50万円未満へは、会社も「引き続き検討」としています)。
| 施策 | 内容 | 日程 |
|---|---|---|
| 自社株買い | 上限3,000万株・8,000億円(発行済の5.5%)・市場買付 | 2026/8/3〜10/30 |
| 株式分割 | 1株→3株(最低投資金額 約465万円→約155万円) | 基準日9/30・効力10/1 |
独自分析|ストップ高なのに、過熱スコアは-2
ここからが本題です。7/31の日中、キオクシアはストップ高の46,500円(+17.72%)に張り付き、買い気配のまま商いはわずか118万株にとどまりました。
それだけ買いが殺到した銘柄なのに、私が使っている5指標の過熱スコアで測ると、キオクシアは-2「やや弱」です。
RSIは31.64と依然として売られすぎ圏の入り口、25日移動平均線からの乖離は-31.17%と、6月からの暴落の穴がまだ全然埋まっていません。ストップ高でも「過熱」の側に振り切れないほど、深く売られていたということです。
この土台の上で、PTSの一時-9%を考えます。引き金として考えやすいのは、決算速報の「見出し」です。
機械的な速報がまず拾うのは短信の数字ですから、最初に流れるのは「純利益、会社予想を下回る」——ディスコ7/24の「613億円の壁」で見たのと同じく、期待値との差分に初動の投げが出た形と読むのが自然だと思います。
ただし今回は、未達の中身が訴訟引当という一過性費用で、実力ベースでは超過。日中ストップ高で期待を先に買い切っていた分の利益確定も重なったとみられますが、中身が読み込まれるにつれて投げは吸収されました。執筆時点では下げ幅1%台——ストップ高の分をほぼ持ち越したままの夜間水準まで戻っています。
セリクラ最終試験の答え合わせ|3条件はどうなったか
7/29の記事で、私は上場来最大の出来高を「セリクラ候補日」と呼び、答え合わせの3条件(①安値37,650円を終値で割らない ②高水準の出来高〔目安4,000万株超〕を伴う陽線 ③投げが市場全体へ波及しない)を置きました。その後の2日間の結果を並べます。
| 条件 | 7/30 | 7/31 | 判定 |
|---|---|---|---|
| ① 安値37,650円を終値で割らない | ザラ場で36,020円まで割れたが終値は維持 | ストップ高46,500円 | クリア(終値ベース) |
| ② 高水準の出来高(目安4,000万株超)を伴う陽線 | 9,154万株と最大更新も、ほぼ十字線 | 買い気配のまま比例配分(商い118万株) | 形は未確認 |
| ③ 投げが市場全体へ波及しない | 波及なし | 波及なし(市場全体のRSI30以下比率4.1%) | クリア |
面白いのは条件②です。「出来高を伴う陽線」という教科書の形は、7/30が十字線(始値と終値がほぼ同じ、迷いを示すローソク足)、7/31は買い気配のまま商いが成立せず、厳密には最後まで確認できませんでした。
ただ、売り物が出ないほど買いが殺到してストップ高に張り付くというのは、出来高陽線の言わば上位互換の需給です。
※比例配分は、ストップ高で買い注文が売り物を大きく上回ったまま引けた場合に、わずかに成立した株を証券会社経由の抽選で割り当てる仕組みです。
①③がクリアされ、そこに決算とネットキャッシュという実弾の裏付けまで出た以上、7/29〜30の2日間が売り切りの底だった可能性はかなり高まったと見ています。ただし正式な確定は、週明け以降も安値切り上げが続くかどうか——値段に言わせる姿勢は7/29から変えません(この銘柄が「何で動くか」の構造はキオクシアはなぜ動く?(メモリ市況のサイクルで読む)で解説しています)。
週明けのシナリオ|焦点はストップ高46,500円の寄り付き
◎ 強気に見るなら
Q2ガイダンスのEPS2,335円(分割前・四半期)に対して株価46,500円——単純に年率換算すればEPSは9,000円台、PERは5倍前後で、利益成長に株価がまだ追いついていません。8/3からは8,000億円の自社株買いが下値に控え、過熱スコア-2が示すとおりテクニカルの過熱もありません。PTSの投げが-1.33%まで吸収されたこと自体、押し目を待つ資金の厚さの証拠という見方です。
△ 弱気に見るなら
週末に個人投資家へ届く見出しは「純利益、会社予想を下回る」です。ストップ高で比例配分された短期資金の利益確定が寄りに集中しやすいうえ、訴訟引当という新しい不確実性、メモリ価格+70%の持続性への疑念、対ドルで1日に3円49銭進んだ円高(ドル建て比率の高いメモリ売上には逆風)も残ります。寄り付きで前日比マイナスに沈むようなら、前編で見た7/21の騙し反発の再来を疑う場面です。
私自身の整理は3つです。
- セリクラ検証としては、ほぼ答えが出たと考えています。7/29に「候補日」と留保した判定は、①③のクリアと決算の中身で裏付けられました。上場来最大の投げの2日後に、この決算が控えていた——投げた側と拾った側のどちらに分があったかは、この並びが物語っている気がします。
- それでも、月曜の寄りを見るまでは飛びつきません。PTSの-9%が見せたとおり、「未達」の見出し一つで一度投げられる需給ですし、訴訟引当の中身(何の訴訟か・追加があるか)も現時点の開示では分かりません。比例配分玉の利食いを寄りで消化したあと、安値切り上げの形が保たれるか——前編で見た11月の前例のとおり、確かめてからでも間に合うのがこの銘柄の時間軸です。
- 需給の質が8/3から変わる点は、素直にプラスだと思います。上限8,000億円の市場買付は、3カ月間ずっと下値に居続ける買い手です。分割と合わせて、暴落のたびに需給が真空になるこの銘柄の体質を少しずつ変える施策と読んでいます。
7/29の前編、7/30の答え合わせ追記、そして本稿——3回続けたキオクシアの定点観測は、今回でいったん区切りです。あとは週明けの値段が答えを書いてくれます。
セリクラ検証の前編はキオクシア-13.85%|過去最大の出来高はセリクラか、当日のマーケット全体の動きは日次レポートで取り上げています。









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