そして「輸出株」の看板と、中身がどれだけずれているか。
「円安だから輸出株」。相場のニュースで、いちばんよく見る組み合わせだと思います。 私も日々のレポートを書きながら、円が1円動くたびにどの銘柄を見ればいいのか、毎回あいまいなまま書いていました。 そこで、東証33業種の代表98銘柄と、名前の知られた45銘柄について、10年ぶんの値動きを数え直しました。
結果を先に書きます。円安の日にはっきり上がったのは、33業種のうち7業種だけでした。 そして「輸出株といえば」で名前の挙がる電気機器は、そこに入っていません。
- 円安の日に上がったのは7業種。頭ひとつ抜けているのは輸送用機器で、2番手の倍以上。
- 電気機器は帯の中。村田・ファナック・東京エレクトロン・ソニーなど9銘柄すべてが、円安の日も日経平均と同じ動きでした。
- 円安にいちばん弱い小売業の中で、百貨店だけが逆を向いている。
- 円高で上がる横綱はニトリ。円安の日に日経に勝てたのは37%だけ。
- ただし、この動きはすべて寄り付きで終わっている。翌朝に買っても間に合わない。
※本記事は過去データの集計です。特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。
「感応度」という物差しを1つだけ使います
この記事では、数字を「感応度」ひとつにそろえます。読み方はこうです。
- ドル円が1%の円安に動いた日を集めます。
- その日、その銘柄が日経平均より何%多く上がったかを平均します。
- プラスなら円安メリット、マイナスなら円高メリット、0のあたりなら為替とはほとんど関係なし。
日経平均そのものを差し引いているのは、円安の日は市場全体が上がりやすいからです。 実際に測ると、日経平均は1%の円安につき、平均して+0.34%上がってきました。 この記事の数字は、そこからさらにどれだけ勝ったかを表しています。
ただ、+0.34や+0.27と言われても、大きいのか小さいのか分かりにくいと思います。 1ドル150円のときに1円の円安(150円→151円)が進んだ場合に直すと、こうなります。
| 測ったもの | 感応度 | 1円の円安が進んだ日は |
|---|---|---|
| 日経平均そのもの | +0.34 | 平均で+0.23%上がってきた |
| マツダ(対 日経平均) | +0.48 | 日経より+0.32%多く上がった |
| トヨタ自動車(対 日経平均) | +0.27 | 日経より+0.18%多く上がった |
| 電気機器(対 日経平均) | +0.04 | 日経とほとんど変わらなかった |
| ニトリHD(対 日経平均) | −0.71 | 日経より−0.47%負けた |
1円の円安は、150円のときで約0.67%にあたります。感応度に0.67をかけた数字が右の欄です。
33業種で測ると、上がったのは7業種でした
まず業種で見ます。東証33業種それぞれについて代表3社ずつ、98銘柄の平均を取りました。 図の水色の帯は「本当は差がなくても、まぐれでこのくらいは出てしまう範囲」です。 棒が帯からはみ出していれば、日経平均とは違う動きをしていたと言えます。
上にはみ出したのは輸送用機器・鉱業・鉄鋼・ゴム製品・銀行業・建設業・証券の7業種です。 ただし並びを見ると、輸送用機器の+0.36だけが頭ひとつ抜けています。2番手の鉱業が+0.17ですから、倍以上の開きです。 円安で買われるのは、実質的にクルマだと言っていい形でした。
下にはみ出したのも7業種で、小売業−0.27、サービス業−0.20、情報・通信業−0.19、食料品−0.17と続きます。 輸入したものを国内で売る業種が並んでいて、ここは素直な結果です。
問題は真ん中です。電気機器は+0.04で、帯の中にすっぽり収まっています。 「輸出株といえば電機」と言われるわりに、円安の日の値動きは日経平均とほとんど変わりませんでした。 誤解のないように書いておくと、円安の日に電機が下がったわけではありません。日経平均と同じくらいは上がっています。 ただ、それ以上には上がっていなかった、というのがこの図の意味です。 円安と結びつけて語られがちな海運業(+0.04)や不動産業(+0.05)も同じで、帯の中です。
なぜクルマなのか。会社が公表している「1円でいくら」を見てみます
ここで一度、数字の理由を考えておきます。上場企業の多くは決算のときに、 「1ドルにつき1円の円安が進むと、営業利益がいくら増えるか」を自分から公表しています。 これを「為替感応度」と呼びますが、この記事の感応度(株価の反応)とは別物なので、ここでは「1円でいくら」と書き分けます。
| 会社 | 1円の円安で、営業利益は | 年間の営業利益 | 利益に対する割合 |
|---|---|---|---|
| トヨタ自動車 | +500億円 | 3兆7,662億円 | 約1.3% |
| ホンダ | +100億円 | — | — |
| 日産自動車 | +120億円 | — | — |
| 村田製作所 | +45億円 | 2,818億円 | 約1.6% |
| 日立製作所 | +8億円 | — | ごくわずか |
| 東京エレクトロン | 「製品のほとんどが円建て取引で、売上高への影響は少ない」(会社の説明) | ||
「1円でいくら」は各社が2026年3月期の決算時に公表した対ドルの数字(会社ごとに利益の定義が少し違います)。年間の営業利益は2026年3月期の実績。 ホンダ・日産は同じ期に一時的な損失があり、割合を出すと意味がぼやけるので空欄にしました。出典は脚注に置いています。
まず見えるのは、金額の桁がまるで違うことです。トヨタは1円で500億円。村田製作所の45億円の10倍以上、日立の8億円とは60倍以上です。 自動車はいまでも国内で作って輸出する台数が多く、円安がそのまま円建ての売上を押し上げます。 「円安=クルマ」と市場が反射的に動くのは、まずこの金額の大きさが理由だと思います。
ただ、利益に対する割合で見ると、話が少し変わります。トヨタの500億円は年間の営業利益の約1.3%、村田の45億円は約1.6%で、率にすると村田のほうがむしろ大きい。 それでも村田の株価は、円安の日に日経平均以上には上がっていませんでした(図3)。 つまり「利益への効き」だけでは、株価の反応の差は説明しきれないのです。
私はここに2つの理由があると見ています。ひとつは、電機の中で会社ごとの効き方がバラバラなこと。 村田のように効く会社もあれば、日立のように海外で作って海外で売る比率が高く、ほとんど効かない会社もある。 東京エレクトロンに至っては取引そのものが円建てです。業種でまとめて平均すると、こうした違いが打ち消し合って、帯の中に収まります。 自動車は完成車もタイヤも部品も同じ向きに効くので、業種として大きく出ます。
もうひとつは、後の章で触れる「その日の主役」の問題です。村田や東京エレクトロンの株価は、スマホや半導体の需要、アメリカの金利や半導体株に引っ張られる日が多く、 為替はその陰に隠れてしまう。円安が業績に効いていないのではなく、値動きの材料としては順位が低い、ということだと思います。
なお日本取引所グループの解説によると、日本企業全体では1円の円高で経常利益が減る割合は、2000年ごろの約1%から現在は0.4%程度まで下がっています。 現地生産が進んだ結果で、「輸出株」という言葉が指していた中身が、この20年で変わってきたことの裏づけだと思います。
その小売業の中に、ひとつだけ逆を向く集団がいました
ここで一度、業種のくくりを疑ってみます。33業種は幅が広いので、中で打ち消し合っているかもしれません。 いちばん円安に弱かった小売業を、6つのグループに割ってみました。
まるごとだと−0.27でいちばん弱い業種でした。ところが中を割ると、百貨店だけが+0.26。 サブ業種40グループの中でも、完成車に次ぐ2番手です。まるごとの結果と、向きが逆さまでした。
いちばん弱かったのは家具・生活雑貨の−0.45、次いでドラッグストアの−0.23。 つまり小売業という看板の下で、円安で買われる集団と売られる集団が同居していたことになります。 「小売は円安に弱い」とだけ覚えていると、百貨店でちょうど反対のことをやってしまいます。
銘柄の早見表
ここからが本題の早見表です。名前の知られた45銘柄について同じ物差しで測り、3つのグループに分けました。
| コード | 銘柄 | 感応度 | 1円の円安で | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 円安の日に上がった12銘柄 | ||||
| 7261 | マツダ | +0.48 | +0.32% | ◎ |
| 7270 | SUBARU | +0.39 | +0.26% | ◎ |
| 1963 | 日揮HD | +0.34 | +0.23% | ◎ |
| 7267 | ホンダ | +0.33 | +0.22% | ◎ |
| 1605 | INPEX | +0.28 | +0.19% | ◎ |
| 6305 | 日立建機 | +0.28 | +0.19% | ◎ |
| 7203 | トヨタ自動車 | +0.27 | +0.18% | ◎ |
| 6902 | デンソー | +0.23 | +0.15% | ◎ |
| 6301 | コマツ | +0.21 | +0.14% | ◎ |
| 7011 | 三菱重工業 | +0.20 | +0.14% | ○ |
| 8306 | 三菱UFJ FG | +0.17 | +0.12% | ◎ |
| 7751 | キヤノン | +0.15 | +0.10% | ○ |
| 「輸出株」と呼ばれるのに、動かなかった9銘柄 | ||||
| 6981 | 村田製作所 | +0.01 | +0.01% | × |
| 6954 | ファナック | +0.04 | +0.03% | × |
| 6762 | TDK | +0.07 | +0.04% | × |
| 6273 | SMC | −0.02 | −0.01% | × |
| 6594 | ニデック | −0.05 | −0.03% | × |
| 8035 | 東京エレクトロン | −0.07 | −0.04% | × |
| 6758 | ソニーグループ | −0.07 | −0.05% | × |
| 6146 | ディスコ | −0.08 | −0.05% | × |
| 7741 | HOYA | −0.11 | −0.07% | × |
| 円高の日に上がった12銘柄 | ||||
| 9843 | ニトリHD | −0.70 | −0.47% | ◎ |
| 7453 | 良品計画 | −0.39 | −0.26% | ◎ |
| 2269 | 明治HD | −0.27 | −0.18% | ◎ |
| 4063 | 信越化学工業 | −0.22 | −0.15% | ◎ |
| 8267 | イオン | −0.16 | −0.11% | ○ |
| 4911 | 資生堂 | −0.15 | −0.10% | × |
| 2802 | 味の素 | −0.14 | −0.09% | ○ |
| 3382 | セブン&アイ・HD | −0.14 | −0.09% | ○ |
| 9432 | NTT | −0.13 | −0.09% | ○ |
| 9503 | 関西電力 | −0.13 | −0.09% | × |
| 9531 | 東京ガス | −0.13 | −0.09% | × |
| 4452 | 花王 | −0.12 | −0.08% | × |
感応度=ドル円が1%円安に動いた日に、その銘柄が日経平均より何%多く上がったかの10年平均。 「1円の円安で」は、1ドル150円のときに1円の円安が進んだ場合の目安に直したものです。 判定は◎=まぐれで出る確率が数百回に1回未満、○=20回に1回を切る、×=偶然の範囲。
上の12銘柄は、自動車・機械・資源・銀行に偏っています。 電気機器はキヤノン1社だけで、しかも12銘柄のいちばん下でした。
下の12銘柄では、ニトリHDの−0.71が突出しています。 円安の日に日経平均に勝てたのは37.0%、逆に円高の日は61.4%。勝率で24ポイントも開いていて、 この銘柄については「為替を見ていれば向きが分かる」と言っていい水準です。
円安の日も円高の日も、日経平均とほとんど同じ動きでした。
「輸出株なのに動かない」は、集計の間違いではないのか
ここは私も疑いました。村田製作所も東京エレクトロンも、売上の大半は海外です。 円安になれば円建ての売上が増えるはずで、株価が動かないほうがおかしいと考えるのが自然だと思います。
そこで、同じ98銘柄を今度は別の材料で測り直しました。ドル円ではなく、前日のアメリカの長期金利と金の値動きです。
| 測ったグループ | ドル円 | 米10年金利 | 金 |
|---|---|---|---|
| 半導体製造装置 | −0.10(偶然の範囲) | −0.055 | +0.13 |
| 完成車 | +0.33 | +0.077 | −0.12 |
| メガバンク | +0.12 | +0.106 | −0.11 |
太字は帯からはみ出したもの。米金利と金は、前日の動きを受けて翌日の東京がどう動いたかで測っています。 半導体製造装置は東京エレクトロン・ディスコ・アドバンテスト・SCREENの4社平均。
答えが出ました。半導体製造装置は「動かない」のではなく、別の材料で動いていたのです。 為替に対しては偶然の範囲ですが、米国の長期金利に対してはサブ業種40グループの中でいちばん弱く、 金が上がった日には非鉄金属に次いで強い、という反応をしていました。
つまりこういうことだと思います。株価はその日、いちばん強い材料に引っ張られて動きます。 半導体まわりの銘柄にとって、その日の主役は金利や海外の半導体株であって、為替ではない。 円安のぶんは業績には効いていても、値動きとしては他の材料に埋もれてしまう、ということですね。
もうひとつ、私にも説明がつかない結果があります。信越化学工業の−0.22です。 海外売上比率の高さでは代表格なのに、10年で見ると円高の日のほうが強い側に入っていました。 半導体材料としての性格が出ているのかもしれませんが、ここは推測になるので、そのまま数字だけ置いておきます。
では、円安になったら買えばいいのか
ここまでは「同じ日に一緒に動いたか」を測ってきました。当然、次に気になるのは 「円安のニュースを見てから買って、間に合うのか」だと思います。
そこで、前日までに進んだ円安を受けて翌日どうなるかを、2つに分けて測りました。 ひとつは寄り付きの窓(前日の終値から当日の始値まで)、もうひとつは寄ってから引けまで(当日の始値から終値まで)です。
きれいに分かれました。左は7銘柄すべてが帯の外、右は7銘柄すべてが帯の中です。 前日までの円安は翌朝の寄り付きにはきちんと乗るのに、寄ったあとには何も残っていません。
この検証は、前日の終値までに分かっていた為替だけを使っています。 つまり「今晩の円安を見て、明日の寄りで買う」という手順そのものを再現した形です。 その結果が「寄りで終わっている」ですから、この早見表は売買の合図としては使えない、というのが正直な結論になります。
この結果、実践にどう活かす?
感応度がいちばん高いマツダでさえ、円安が進んだ日に日経平均に勝てたのは54.6%です。 2日に1回近くは負けています。逆に円高に振れた日の平均は−0.45%、勝てたのは36.4%まで落ちます。 「円安に強い銘柄」は、円高になったときに同じだけ沈む銘柄でもある、ということですね。
まとめ
10年ぶん数えて分かったのは、「円安で輸出株」という言い方が、思っていたよりずっと粗いということでした。 本当に上がっていたのは33業種のうち7業種で、その中でも輸送用機器が抜けている。 電機は日経平均どまりで、いちばん弱いはずの小売業の中では百貨店だけが逆を向いている。
そして、その動きはすべて寄り付きで終わっています。 だからこの記事は、明日の売買を決めるためではなく、今日の値動きを説明するための表として置いておきます。 金・原油・金利についても同じ物差しで測って、続きを書く予定です。
よくある質問
- データ出典:Yahoo!ファイナンス(日経平均・ドル円・各銘柄の日次終値、および始値。金=COMEX金先物、原油=WTI原油先物、米10年金利=CBOE 10年国債利回り指数)。集計はすべて私が行っています。
- 集計期間は2016年9月5日〜2026年9月3日。日経平均・ドル円・対象銘柄のすべてに値がある日だけを使い、2,141営業日となりました。
- 「感応度」は、日経平均を引いた騰落率をドル円の騰落率で説明する直線(最小二乗法)の傾きです。判定の◎○×は、傾きを標準誤差で割った値の大きさによります(◎=3.0以上、○=2.0以上3.0未満、×=2.0未満。日経平均そのものの感応度は+0.344)。
- 「まぐれでもこのくらいは出る範囲」は、標準誤差を2倍した幅です。おおまかに、本当は差がなくても20回に1回くらいはこの幅の外に出てしまう、という目安として使っています。
- 業種分類は東証33業種によります。代表銘柄は各業種3社(空運業のみ2社)、合計98銘柄。サブ業種40グループは私が分けたもので、公式の分類ではありません(代表124銘柄)。
- 株価は分割・配当を調整した終値を使っています。図4の寄り付きの窓と寄ってから引けまでは、同じ日の始値・終値をそのまま使っています。手数料・税金は含んでいません。
- 金・原油・米10年金利は日本時間の夜に値が決まるため、前日の騰落を翌日の東京の値動きに当てる形で測っています。
- 「1円でいくら」の出典:トヨタ・ホンダ・日産は時事通信「〔為替感応度〕自動車企業、想定レートは平均1ドル144円86銭=26年3月期」(2025年11月10日)。村田製作所・日立製作所はアセットアライブ「2026年3月期の想定為替レートと為替感応度一覧」(2Q決算発表時の会社公表値。日立は調整後EBITA)。東京エレクトロンは同社「2023年3月期 第1四半期決算説明会 質疑応答集」。年間の営業利益はトヨタ(Car Watch、2026年3月期決算記事)・村田製作所(2026年3月期決算短信)。
- 「1円の円高で経常利益が約1%→0.4%程度」は、東証マネ部!(日本取引所グループ)「いまさら聞けない『円高と業績』の常識」によります。
- ドル円の日足終値は東京の大引けより後の時刻です。私の日次レポートで使っている東京15時の値と比べると、値動きの大きい日で0.8円、通常の日で0.2〜0.3円ほどの差がありました。
本記事は過去データの分析であり、将来の値動きを保証するものではありません。特定の銘柄や売買を推奨するものでもありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。数値の集計は私が行っていますが、誤りが含まれる可能性があります。








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