海運株はなぜ急騰?|中東緊迫の運賃思惑と「追うには遅い」独自データ
2026年8月21日の東京市場では、日経平均が200円安と反落するなかで海運業が+4.92%と33業種の値上がり率トップになりました。川崎汽船は7.28%高、商船三井は4.61%高、日本郵船は4.50%高で、川崎汽船と日本郵船は年初来高値を更新しています。この記事では、なぜ中東の緊迫が海運株の買い材料になるのかを整理したうえで、私が毎日集計している業種別の資金フローから「いま追いかけてよい位置なのか」を検証します。
① 中東緊迫でタンカーの用船料と戦争保険料が急騰しています。VLCC(大型原油タンカー)の用船料は日額42万ドル前後、戦争保険料は開戦前の約0.25%から7.5〜10%へ跳ね上がりました
② 海運業は下げ相場でも買われ続け、25日累積の対TOPIX相対騰落は+25.34ptと33業種で断トツです。市場が3%超下げた8月19日も逆行高でした
③ ただし私の資金流入シグナルでは点灯5日目。過去の検証では、点灯4日目以降に追いかけた場合の翌日成績は平均-0.72pt・勝率34%と分が悪い位置です
何が起きたか|日経が下げた日も、海運だけが買われ続けた
この5営業日、海運業が市場平均に負けたのは1日だけ。急落した8月19日も逆行高でした。
まず8月21日の大手3社の終値です。3社そろって大幅高となり、しかも売買代金は3社合計で1,100億円を超えました。つまり材料株の薄商いではなく、まとまった資金が入った上げです。
| 銘柄 | 終値 | 前日比 | 売買代金 | 予想PER | 予想配当利回り |
|---|---|---|---|---|---|
| 川崎汽船(9107) | 3,405円 | +7.28% | 319億円 | 15.1倍 | 3.52% |
| 商船三井(9104) | 7,278円 | +4.61% | 428億円 | 10.4倍 | 2.82% |
| 日本郵船(9101) | 7,101円 | +4.50% | 389億円 | 11.9倍 | 3.38% |
※終値・売買代金は8月21日の東証プライム。川崎汽船と日本郵船は同日に年初来高値を更新。PER・配当利回りは会社予想ベースです。
ここで注目したいのは、この上げが「1日の急騰」ではないことです。そこで直近5営業日の海運業を、市場全体(TOPIX)と並べてみます。
| 日付 | TOPIX | 海運業の相対騰落 | その日の市場 |
|---|---|---|---|
| 8/17(月) | -0.31% | +2.13pt | 小幅安の日に逆行高 |
| 8/18(火) | -1.05% | +4.69pt | 下げ相場で郵船が最高値と報道 |
| 8/19(水) | -3.09% | +3.32pt | 日経2,134円安の全面安でも上昇 |
| 8/20(木) | +1.18% | -0.75pt | 全面反発の日は出遅れ |
| 8/21(金) | +0.19% | +4.73pt | 業種別トップの+4.92% |
相対騰落(pt)は業種の騰落率からTOPIXを引いた値で、プラスなら「市場平均に勝った」ことを意味します。この5日間の合計は+14.12ptです。全面安の日に買われ、全面反発の日に売られるという市場と逆向きの動きは、リスクオフの避難先に選ばれた業種の典型的な形ですね。
なぜ上がる?|中東緊迫は「運賃」と「保険料」に効く
船が足りなくなる思惑と、コストの転嫁期待。地政学リスクが海運だけはプラスに働きます。
今回の買い材料は、中東情勢の緊迫でタンカーの運賃が上がるという思惑です。実際、日本経済新聞も8月18日に「中東緊迫で海運に運賃上昇思惑、大手海運株が最高値」と報じています。さらに8月21日にはトランプ米大統領のイランへの強硬発言でWTI原油が86ドル台へ続伸し、24日には米国の対イラン制裁の詳細公表も控えます。
地政学リスクがなぜ海運株の買い材料になるのか。ポイントは3つあります。
第一に、用船料(船のレンタル料)の急騰です。ホルムズ海峡周辺の緊張で、VLCC(大型原油タンカー)の中東〜中国航路の用船料は日額42万ドル前後(7月末時点)まで跳ねています。第二に、戦争保険料の高騰で、船体価額に対する保険料率は開戦前の約0.25%から7.5〜10%へ上がりました。そして第三に、迂回航路による「船の拘束時間」の増加です。危険海域を避けて遠回りするほど、同じ荷物を運ぶのに多くの船が必要になり、需給が締まります。
ここで押さえておきたいのは、この追い風はタンカー中心で、コンテナ船には及んでいないことです。実際、コンテナ運賃の国際指標(Drewry総合指数)は7月末時点で前週比-3%と、むしろ下落が続いています。大手3社は事業構成が異なるため、思惑の効き方にも濃淡が出そうです。
独自データの現在地|33業種で断トツ、ただし「点灯5日目」
強さは本物です。問題は、強さが確認できてから既に5日たっていることです。
私は毎日、33業種の対TOPIX相対騰落を集計しています。そこで海運業の直近25営業日を図にすると、今回の上げの「形」がよく分かります。
図1:海運業の対TOPIX相対騰落(日次と25日累積)。8月17日以降、私の資金流入シグナルが5営業日連続で点灯しています。出所:筆者の市場資金フロー日報の実測値から作成。
25日累積は+25.34ptで、2位以下を大きく引き離した33業種トップです。またテーマ別でも輸送・物流は+1.62ptの強流入で、エネルギー・商社と並ぶ当日の主役でした(テーマ別の見方はテーマ別資金フローと3対立軸の読み方で解説しています)。強さの実在は疑いようがありません。
ただし、気になる点が3つあります。
第一に、私の資金流入シグナルは8月17日の点灯から数えて5日目に入りました。過去の検証では、点灯4日目以降に追いかけた場合の翌日成績は平均-0.72pt・勝率34%と、はっきり分が悪くなります。第二に、この上げは大手3社が業種指数を持ち上げる「大型主導」で、最大の商船三井だけで業種売買代金の約4割を占めます。そして第三に、個別の過熱です。商船三井はRSI84.8・25日線乖離+18.4%で、私の過熱スコアでは+6の「強過熱」圏です(スコアの仕組みは個別銘柄の過熱スコアで解説しています)。
バイイングクライマックスか?|日足と信用残を検証する
出来高を伴う5日目の大陽線。「最後の一撃」を疑って、当日の足の中身と信用残を確かめました。
これだけの急騰が点灯5日目に出ると、上昇の最後に出来高を伴う大陽線が出て終わる「バイイングクライマックス(買い尽くし)」を疑いたくなります。そこで株探の時系列データで、当日の足の中身を確かめました。
| 銘柄 | 当日の値動き | 終値の位置 | 出来高(25日平均比) |
|---|---|---|---|
| 川崎汽船 | 3,222円 → 3,405円 | ほぼ高値引け(上ヒゲ5円) | 957万株(1.9倍) |
| 商船三井 | 7,000円 → 7,278円 | 高値引け(上ヒゲなし) | 597万株(2.1倍) |
| 日本郵船 | 6,800円 → 7,101円 | 高値圏(レンジ上位9割) | 555万株(1.8倍) |
※8月21日の日足。出所は株探の時系列データ(同日夜時点)です。
買い尽くしの典型は「寄りから買われ、引けにかけて失速して長い上ヒゲを残す」形です。ところが今日は3社とも引けまで買われ続け、商船三井は文字どおりの高値引けでした。出来高も25日平均比1.8〜2.1倍と膨らんではいるものの、ブローオフに典型的な3〜5倍には届かず、川崎汽船の957万株は8月5日の急落日(1,045万株)をむしろ下回ります。週間でみても、同じ中東材料で急騰した今年3月のピーク週の半分程度の商いです。
個人の熱狂も、まだ数字に出ていません。信用残(8月14日時点)を遡ると、商船三井の買い残は7月10日の242万株から163万株へ、川崎汽船は190万株から133万株へと、上昇のあいだむしろ減り続けています。逆に売り残は両社とも増えて信用倍率は低下しており、個人の信用組は利食いで降りながら、逆張りの空売りを積んでいる形です。「靴磨きの少年まで株の話を始めたら天井」という古い相場の逸話がありますが、買い残の急増を伴うあの熱狂とは正反対の形ですね。
つまり現時点の形は「買い尽くしの最後の一撃」というより、世間が強さに気づいた「認知の号砲」に近いと私は見ています。積み上がった売り残は、踏み上げの燃料にもなります。ただしクライマックスは事後にしか確定できず、加速する高値引けの数日後に本当の反転が来るのが相場の常です。商船三井の終値7,278円が3月19日の高値7,325円の目前まで来ていることも含めて、天井の検証は来週に持ち越しです。
この流れは続く?|監視する4つのポイント
材料は生きています。ただし事件駆動の上げは、材料が剥がれるときも一瞬です。
- ① 8月24日:米国の対イラン制裁の詳細公表
制裁が厳しければ思惑は続き、逆に緩和的なら「リスクプレミアムの剥落」が最も大きく出るのは、おそらく海運です - ② タンカー用船料と戦争保険料の水準
日額42万ドル・保険料7.5〜10%が続くか。また下落中のコンテナ運賃との乖離にも注意です - ③ 相対騰落マイナスが2日続くか
そうなると私のシグナルは剥がれやすく、その時が「思惑相場の一区切り」の目安になります - ④ 8月25日(火)夕方:8/21基準の信用残
買い残の急増と信用倍率の反転上昇が出たら、いよいよ「靴磨きの少年」が現れた合図です。過熱の最終局面入りを疑い始めます
🏆 この記事のまとめ
- 8月21日、日経反落のなか海運業が+4.92%で33業種トップ。川崎汽船+7.28%・商船三井+4.61%・日本郵船+4.50%で、川崎汽船と日本郵船は年初来高値を更新
- 材料は中東緊迫による運賃上昇思惑。VLCC用船料は日額42万ドル前後、戦争保険料は約0.25%→7.5〜10%へ。ただし追い風はタンカー中心で、コンテナ運賃はむしろ下落中
- 海運業の25日累積・対TOPIX相対騰落は+25.34ptと断トツ。市場が3%超下げた8月19日も逆行高と、リスクオフの避難先として機能
- ただし資金流入シグナルは点灯5日目。検証では4日目以降の追随は翌日平均-0.72pt・勝率34%と分が悪く、「強いのに追うには遅い」位置
- 「バイイングクライマックス」の反転形はまだ出ていない。3社とも高値圏で引け、出来高は25日平均の2倍前後と3月ピーク週の半分。信用残も買い残減・売り残増と、個人の熱狂とは逆の形
- 次の分岐は8月24日の対イラン制裁詳細と、25日夕方に公表される信用残
数値の出所:株価・売買代金は8月21日の東証終値。用船料・保険料は7月末〜8月上旬時点の各種報道ベースで、確報で修正される場合があります。相対騰落・シグナル・過熱スコアは筆者の集計値です。当日の四本値・出来高と信用残の推移は、株探の時系列データ(8月21日夜時点)を参照しました。
今回の上げは、業績の積み上げというより「事件」で運賃が跳ねている相場です。この種の上げは材料が続く限りしつこく強い一方で、停戦観測のようなヘッドラインひとつで一瞬にして逆回転します。実際、今年6月に米・イランの和平合意観測で日経が急騰した日、逆に売られたのは資源・海運側でした。
「あの大陽線はクライマックスでは」という見方もあると思います。ただ本文の通り、日足も信用残もまだ天井の形ではありません。私が追わないのは形の問題ではなく、あくまで統計(点灯5日目)の問題です。
また、私の検証データが示すのは「強さが誰の目にも明らかになってから入ると報われにくい」という、身も蓋もない事実です。ですので5日目から業種ごと追いかけるより、点灯が剥がれてから次の初動を待つほうが私のルールには合っています。保有している方にとっては、このシグナル日数が利益確定を考える物差しになるかもしれません。
前日の米金利低下と関連銘柄の急騰は米財務省バイバック倍増で解説しています。当日のマーケット全体の動きは日次レポートで取り上げています。












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