信用評価損益率とは ─ 買い方の含み損益で相場の天井と底を測る需給指標の読み方

信用評価損益率とは ─ 買い方の含み損益で相場の天井と底を測る需給指標の読み方

30秒サマリー
  • ▶ 信用評価損益率=信用取引の買い方全体の含み損益。普段はほぼマイナス圏(−3〜−9%)で動く指標です
  • ▶ 読み方は3段構え。水準(−3%=天井警戒/−15〜−20%=底値圏)→変化(週5pt超は要警戒)→中身(買い残・売り残)
  • ▶ 2026年は6月に13年ぶりのプラス転換 → 直後に日経は天井圏から下落 → 5週で−10.45%。経験則どおりに機能した実例です
信用評価損益率は、急騰や急落のニュースにたびたび登場する需給指標です。2026年も、6月の「約13年ぶりプラス転換」と7月の「関税ショック以来の−10%台」で主役級の働きをしました。その割に「そもそも何の数字で、どう読めばいいのか」を正面から整理した資料は意外と少ないんですよね。本記事では、定義・水準の目安・天井と底のサインになる理由・そして限界までを、図と実例で一枚にまとめます。

信用評価損益率とは何か

信用評価損益率とは、信用取引で買い建てをしている投資家全体の建玉が、平均でどれだけの含み損益を抱えているかを%で表した指標です。プラスなら買い方の多くが含み益、マイナスなら含み損を抱えている、という状態です。

項目内容
計算のイメージ買い建玉全体の評価損益 ÷ 建玉の金額(%表示)
更新頻度週1回。前週末時点の数字が数営業日遅れて公表される(=遅行データ)
定位置おおむね−3〜−9%。過去もだいたい+5%〜−25%の範囲に収まってきた

最大の特徴は、通常はほぼマイナス圏で推移することです。理由は集計の癖にあります。

なぜ普段はマイナスに偏るのか
含み益の建玉は利益確定でどんどん決済される 集計から抜けていく 含み損の建玉は「戻ったら売ろう」と残り続ける 集計に残る建玉は含み損側に偏る

この癖を知っておくと、「プラス」という数字がどれほど珍しいかが分かります。実際、プラス圏は2013年から2026年まで一度も出現しませんでした。

水準の目安 ─ 温度帯で読む

私はこの指標を、絶対値ではなく「温度帯」で読んでいます。過去をさかのぼると、この指標はだいたいプラス5%〜マイナス25%の範囲に収まってきました。そのなかで、一般に目安とされるゾーンを整理したのが次の図と表です。

信用評価損益率の温度帯(4つのゾーン)と実例 信用評価損益率をマイナス25パーセントからプラス5パーセントの数直線で示した図。底値圏(マイナス25からマイナス15)、通常レンジ(マイナス15からマイナス3)、天井圏(マイナス3から0)、過熱圏(0超)の4帯に色分け。実例として2025年4月の関税ショック時のマイナス15.31パーセント、2026年7月17日基準のマイナス10.45パーセント、2026年6月19日基準のプラス1.47パーセント(約13年ぶりのプラス転換)の位置を示している。 信用評価損益率の「温度帯」と実例 通常はマイナス圏。−3%が天井警戒、−15〜−20%が底値圏の目安。 2025/4 関税ショック −15.31% 2026/6 +1.47% 約13年ぶりのプラス転換 2026/7 −10.45% 底値圏 通常レンジ 天井圏 過熱圏 −25% −15% −10% −3% 0% +5% ※ゾーンの区切りは一般に言われる目安で、厳密な境界ではありません。 ※各実例は週次データの基準日ベースの値です。
信用評価損益率の温度帯。2026年は6月のプラス圏から7月の−10%台まで、1か月で温度帯を3つまたぎました。
水準温度帯読み方の目安
0%超過熱圏めったに出ない側の数字。買い方の大半が含み益=利益確定売りの山。直近では2026年6月(+1.47%)まで、2013年以来プラスがなかった
−3%付近天井圏0%に近づくほど相場が天井をつけやすいとされる警戒ライン。私の市場体温計でも高温シグナルの閾値に採用
−3〜−9%通常レンジこの指標の定位置。ここにいる間は、需給のサインとしては中立
−10%前後〜警戒ゾーン通常レンジを下抜けた状態。追証(後述)が出始めやすく、下値でも上値でも需給が重くなりやすい
−15〜−20%底値圏投げ売りが出尽くしに近づく水準。セリング・クライマックスの目安とされ、市場体温計では低温シグナルの閾値(−15%)に採用

大事なのは、プラスが「良い状態」ではないことです。ふだんの感覚では含み益=良いことですが、需給指標としてはむしろ逆で、プラス圏は過熱のサインになります。なぜそうなるのかを、次で見ていきます。

なぜ天井と底のサインになるのか

プラス側 ── 含み益の山は「戻り売り予備軍」

含み損を抱えた投資家が「買値まで戻ったら売りたい」と考えるのはイメージしやすいと思います。じつは含み益を抱えた投資家も、「この利益を確定したい」と考えます。だから含み益の建玉の山は、売りに変わりやすい「予備軍」の山として読みます。

プラス圏が「天井」につながるしくみ
株価上昇で含み益が積み上がる 「利益を確定したい」人も一緒に増える 相場が上に動くたびに利確売りが出る 上値が重くなる 0%前後まで改善した局面では相場が天井をつけやすい

マイナス側 ── 投げの連鎖と、その「出尽くし」

マイナスが深くなる過程では、別のメカニズムが働きます。信用買いには委託保証金があり、含み損が膨らむと追加の保証金(いわゆる追証)を求められます。差し入れられなければ建玉は強制的に決済され、その売りがさらに株価を押し下げる ── 下げが下げを呼ぶ連鎖です。

マイナス圏の深掘りが「底」につながるしくみ
株価下落で含み損が拡大 追証が発生 投げ売り(強制決済)が出る さらに株価が下がる 連鎖が続く 投げたい人が投げ尽くす 売り圧力が枯れて底が入る

この連鎖が出尽くしに近づく目安が−15〜−20%の底値圏です。セリング・クライマックスと呼ばれる局面は、この指標の側から見ると「含み損の膿が出きった状態」ということになります。ただし後述するとおり、底値圏への到達は「底の確定」ではありません。ここはこの指標のいちばん誤解されやすいところです。

2026年の実例 ─ 13年ぶりのプラスから、1か月で−10%台へ

教科書的な説明よりも、実際に起きたことを見るのが早いと思います。2026年の夏、この指標は絵に描いたような往復を見せました。

2026年夏の日経平均と信用評価損益率の推移(週次・同じ基準日で比較) 上段は日経平均の週足終値。6月19日の71,250円から、6月26日69,361円、7月3日69,744円、7月10日68,558円、7月17日64,141円へと5週で9.98パーセント下落した。下段は同じ基準日の信用評価損益率で、6月19日のプラス1.47パーセントから、6月26日マイナス3.09、7月3日マイナス2.78、7月10日マイナス4.95、7月17日マイナス10.45パーセントへと約12ポイント悪化した。株価の下落と含み損の拡大が同じタイミングで進んだことが分かる。 1か月で天から地へ ── 2026年夏の週次推移 株価が9.98%下がる間に、買い方の含み益は12pt分の含み損に変わった。 ① 日経平均(週足終値) 70,000円 65,000円 6/19→7/17で −9.98% 71,250円 64,141円 ② 信用評価損益率(同じ基準日) 0% +1.47 −3.09 −2.78 −4.95 −10.45 6/19基準 13年ぶりプラス 6/26基準 7/3基準 7/10基準 7/17基準 関税ショック以来 ※上段・下段とも横軸は信用評価損益率の基準日(各週の金曜)で、日経平均はその日の終値です。 ※信用評価損益率の公表は基準日の数営業日後になります。
同じ基準日で並べた日経平均(上段)と信用評価損益率(下段)。株価の下落と含み損の拡大が、ほぼ歩調を合わせて進んだのが分かります。データ:日経平均の週足終値および二市場信用取引残高より作成。

時系列で整理すると、こうなります。

日付何が起きたか
6/24週次データ(6/19基準)が+1.47%とプラス転換。2013年以来・約13年ぶり。速報記事で「戻り売り予備軍の山」と指摘
6月下旬日経平均はこの前後が高値圏(6/25の終値72,366円がこの局面のピーク)。以後、米半導体株安をきっかけに下落基調へ
7/23週次データ(7/17基準)が−10.45%まで悪化。関税ショック(−15.31%)以来の水準。中身は速報記事で分解

図の上下を見比べると、株価の下落と含み損の拡大が、ほぼ同じタイミングで進んでいるのが分かります。当たり前のようですが、大事なのは順番のほうです。プラス転換(=含み益の山)が先に観測され、そのあとに株価が下げに転じました。この指標が天井のサインとして扱われるのは、こういう並びが繰り返し観察されてきたからなんですよね。

もうひとつ、この実例から持ち帰りたい教訓が2つあります。1つ目は、この指標は動くときは一気に動くこと。週次で5ptを超える変化が出たら、需給の地形が変わったサインとして真剣に見るようにしています。2つ目は、水準だけでは読み切れないことです。−10.45%という数字は見出しだけなら総悲観ですが、中身を見ると様子が違いました。それが次の話です。

水準だけでなく「中身」を見る ─ 買い残・売り残・信用倍率

信用評価損益率とセットで公表されるのが、信用取引の残高です。ここを合わせて見ると、同じ水準でもまったく違う絵が見えてきます。

用語意味
買い残信用取引で買われたまま決済されていない建玉の残高。「将来の売り圧力」の予備軍でもある
売り残信用取引で空売りされたまま残っている建玉。「将来の買い戻し圧力」の予備軍でもある
信用倍率買い残÷売り残。高いほど買い方に偏った需給で、上値が重くなりやすいとされる

2026年7月17日基準の−10.45%は、この「中身」の大切さを教えてくれる好例でした。急落した週ですから、買い方の投げで買い残が減ったと思いきや ── 数字は逆でした。

項目前週(7/10基準)今回(7/17基準)変化
買い残6兆7,322億円6兆7,097億円−0.3%(ほぼ動かず)
売り残7,955億円6,814億円−14.3%(急減)
信用倍率8.46倍9.85倍跳ね上がり

この週に出たのは買い方の投げではなく、売り方の利益確定の買い戻しだったわけです。中身が分かると−10.45%の意味も変わります。投げて膿が出たあとの数字ではなく、投げが出ていないのに1割やられている数字 ── 含み損に耐えている買い方が、ほぼそのままの規模で残っている状態でした。同じ−10%でも、投げの後と投げの前では、その先の読み方がまるで違ってきます。水準は入口、中身が本体、という順番で見るのがおすすめです。

なお、信用倍率は市場全体だけでなく個別銘柄でも使います。私の過熱スコアでは5指標の1つが信用倍率で、たとえばフジクラの深掘り記事では、信用倍率31倍という買い残の厚さを「好材料でも利益確定売りが出やすい状態」として読んでいます。市場全体と個別銘柄、どちらのレベルでも同じ理屈が使えるのがこの指標群の便利なところです。

私の使い方 ─ 市場体温計の高温・低温シグナル

本ブログの日次レポートでは、信用評価損益率を単独では使わず、市場体温計の部品として組み込んでいます。具体的には、稀な過熱を検知するLayer 2(高温シグナル)と、稀な底値を検知するLayer 3(低温シグナル)の1項目ずつです。

レイヤー点灯閾値意味
Layer 2(高温)信用評価損益率 ≥ −3%信用買い方の楽観が天井圏の水準に達した。RSI70超比率・25日乖離率・騰落レシオ25日と合わせ、2点以上点灯で過熱警戒
Layer 3(低温)信用評価損益率 ≤ −15%信用買い方の悲観が底値圏の水準に達した(投げ売り近接)。他3項目と合わせ、2点以上点灯で逆張り検討

単独で使わない理由は、この指標が週次の遅行データであり、かつ需給の一面しか写さないからです。値動きの過熱(RSI・乖離率)や市場の広がり(騰落レシオ)と組み合わせて、複数のサインが同時に点灯したときだけ警戒を強める、という使い方をしています。

2026年6月のプラス転換のときも、高温シグナルの点灯はこの1項目だけで、ほかの過熱サインはまだ出ていませんでした。だからこそ「即座に売り」ではなく「上値が重くなりやすい地合い」という強さの読み方になったわけです。

限界と注意点

注意1:週次の遅行データである
公表される数字は前週末基準で、手元に届くまで数営業日のタイムラグがあります。急落・急騰の直後は「すでに古い数字」を見ている可能性が高く、実勢はもっと悪化(または改善)していると考えて補正しながら読む必要があります。
注意2:市場の一部しか写していない
この指標が写すのは信用取引の買い方の姿だけです。現物のみの投資家、機関投資家、海外勢の動向は含まれません。「個人の信用買い」という、相場のなかでもっとも振れやすい一角の温度計として使うのが正しい距離感です。
注意3:目安のレンジは固定ではない
−3%=天井、−15%=底という目安は過去の経験則であって、物理法則ではありません。実際、2013年から2026年まで約13年間、プラス圏は一度も出現しませんでした。相場の構造が変われば、機能する水準も変わり得ます。目安を使いつつ、目安を疑う視点は残しておきたいところです。
注意4:底値圏への到達は「底の確定」ではない
−15%に達しても、歴史的なショック相場ではそこからさらに深掘りすることがあります。底値圏のサインは「下げ止まりを警戒し始めるタイミング」であって、即座の逆張り買い推奨ではありません。買い残の減少(=投げの進行)など、膿が実際に出ているかを中身で確認してからでも遅くないと思います。

まとめ:信用評価損益率チェックリスト

  • ☐ いまの水準はどの温度帯か?(−3%付近=天井警戒/−15〜−20%=底値圏)
  • ☐ 前週からの変化幅は?(週次で5pt超の変化は需給の地形変化のサイン)
  • ☐ 中身は見たか?(買い残・売り残のどちらが動いたか、信用倍率はどうか)
  • ☐ 他のサインと重なっているか?(市場体温計の他項目・過熱スコアと併読)

信用評価損益率は、買い方の含み損益という「感情の在庫」を数字にした指標です。プラスの山は戻り売りに、深いマイナスの山は投げ売りに、どちらもいずれ売り圧力に変わります。水準で温度を測り、変化で地形を読み、中身で確度を確かめる ── この3段構えで使えば、週に1回届く遅行データでも、相場の需給を読む強力な物差しになります。

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免責事項:本記事は市場データを基にした情報提供を目的としたものであり、投資の勧誘や特定銘柄の推奨を行うものではありません。信用評価損益率・信用残高は週次公表の指標で、基準日から公表まで数営業日のタイムラグがあります。温度帯の区分(天井圏・底値圏等)は過去の相場観察に基づく一般的な経験則および本ブログの運用上の目安であり、学術的に検証されたものでも、将来の相場を保証するものでもありません。記事中の数値は各基準日時点のものです。投資判断は最終的にご自身の責任において行ってください。株式投資にはリスクが伴い、元本を毀損する可能性があります。

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