市場体温計とは ─ 三層スコアと騰落レシオ25日で日本株の温度・過熱・底値を測る独自指標
なぜ三層スコアなのか
「相場が過熱している」「相場が底値圏」というのは、単一の指標で判断するには情報量が足りません。たとえば騰落レシオ25日が120を超えていても、信用評価損益率は依然マイナス圏ということもありますし、RSIが30以下の銘柄が3割を超えていても、日経225の25日乖離率は中立圏ということもあります。「日々の温度」と「極端な過熱」と「極端な底値」は、それぞれ別の現象として測るべき、というのが三層スコアの設計思想です。
本ブログでは、これを以下の3層に分けています。Layer 1(日々の体温)は当日のデータから直接計算される5項目で、相場全体が「暖かい/寒い」を-5〜+5のスコアで示します。Layer 2(高温シグナル)は4項目の点灯式で、稀にしか発生しない過熱の極端値を捉えます。Layer 3(低温シグナル)も4項目の点灯式で、稀にしか発生しない底値の極端値を捉えます。Layer 2と3は「点灯すれば警戒・逆張り検討」という、Layer 1とは別の使い方をする補助レイヤーです。
Layer 1:日々の体温を測る5項目
Layer 1は、その日のデータから直接計算される5項目で構成されています。各項目は-1点/0点/+1点の3段階で評価され、合計が-5〜+5の体温スコアになります。
| 項目 | +1の閾値 | 0の範囲 | -1の閾値 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| 上昇銘柄比率 | ≥55% | 35〜55% | ≤35% | 東証プライムの上昇銘柄数の割合。マーケットの広がり |
| 値上がり業種数 | ≥20 | 11〜20 | ≤11 | 33業種のうち上昇した業種数。セクターの広がり |
| 新高値−新安値スプレッド | ≥+30 | ±30以内 | ≤-30 | 52週新高値と新安値の差。モメンタムの方向 |
| 日経・TOPIX方向 | 両方+ | 片方+ | 両方- or 値嵩偏重 | 2指数の整合性。値嵩偏重なら警戒 |
| TOP10売買代金上昇数 | ≥8社 | 4〜7社 | ≤3社 | 主力株の方向感。本物の上昇か見極め |
合計スコアに応じて、相場の温度が以下の7段階の温度ラベルで表示されます。
「微熱(やや強気)」「熱中症(強気だが警戒)」のように、温度ラベルそのものが直感的な相場判断とリンクしているのがポイントです。Layer 1だけで日々の相場の流れは大体掴めますが、「このまま上昇が続くのか」「過熱で反落するのか」を見極めるためには、Layer 2/3の補助指標が必要になります。
Layer 2:高温シグナル(4項目・点灯式)
| 項目 | 点灯閾値 | 意味 |
|---|---|---|
| RSI70超銘柄比率 | ≥25% | 個別株レベルでの過熱の広がり |
| 日経225 25日乖離率 | ≥+8% | 指数レベルでの上方乖離 |
| 騰落レシオ25日 | ≥125 | 市場全体での買われ過ぎ(業界標準指標) |
| 信用評価損益率 | ≥-3% | 信用買い方の楽観度(リスク警戒) |
Layer 2の特徴は、「滅多に点灯しない」設計になっていることです。閾値はかなり厳しめに設定してあるので、点灯すると相場が本当に過熱の極限にあることを意味します。1点なら警戒開始、2点以上なら利確検討のサインとして使います。Layer 1の体温が+3〜+5(微熱〜熱中症)にあって、かつLayer 2が2点以上点灯していれば、短期的な反落リスクがかなり高い局面、と判断できます。
Layer 3:低温シグナル(4項目・点灯式)
| 項目 | 点灯閾値 | 意味 |
|---|---|---|
| RSI30以下銘柄比率 | ≥15% | 個別株レベルでの売られ過ぎ広がり |
| 日経225 25日乖離率 | ≤-6% | 指数レベルでの下方乖離 |
| 騰落レシオ6日 | ≤60 | 市場全体の短期的な急激な売られ過ぎ |
| 信用評価損益率 | ≤-15% | 信用買い方の悲観度(投売り近接) |
Layer 3もLayer 2と同じく、滅多に点灯しない設計です。Layer 1の体温が-3〜-5(凍結〜極寒)にあって、Layer 3が2点以上点灯していれば、本格的な底値圏での逆張り買いを検討するタイミング、という判断ができます。逆に、Layer 1が高くても(暖かい〜微熱)Layer 3が点灯している場合は、上昇相場の中でも一部の銘柄が異常に売られている、という下にも向かう資金の偏りを示しています。
意図的な非対称設計:上昇は25日、下落は6日で測る
注目すべきは、Layer 2の3つ目の指標が騰落レシオ25日(≥125)なのに対し、Layer 3の3つ目は騰落レシオ6日(≤60)と、観察期間を変えていることです。これは意図的な非対称設計で、株式相場の特性をそのまま反映しています。
株式相場には「上昇はじわじわ進み、下落は急激に進む」という非対称性があります。上昇相場の過熱はゆっくり積み上がるので25日平均で測るのが自然ですが、下落相場の底値(特にショック安)は数日で急激に進むため、25日平均だと反応が間に合いません。実際、業界標準の「騰落レシオ25日 ≤70」は1980〜90年代の市場で確立されたと言われている基準ですが、量的緩和以降の現代市場では、過去2年の歴史的なショック(2024年8月の植田日銀ショック76、2025年4月のトランプ関税ショック83)でさえ70を割っていません。業界標準の70閾値は現代市場では事実上ほぼ点灯しない死蔵シグナルになっているのが実態です。
そこでLayer 3では、短期の騰落レシオ6日(≤60で点灯)に切り替えています。6日平均なので急落に即座に反応し、過去2年のショック安局面でも実用的に機能する設計です。「上昇相場は中期、下落相場は短期で測る」という設計思想によって、両方向の極端値をきちんと捉えられるようにしています。
業界標準指標としての騰落レシオ(25日・6日)
騰落レシオは、対象期間における「値上がり銘柄数 ÷ 値下がり銘柄数 × 100」で計算される、日本株市場の代表的な過熱感指標です。100が中立点で、数値が高いほど買われ過ぎ、低いほど売られ過ぎを示します。本ブログでは業界標準指標として三層スコアの中に組み込んでいます。
Layer 2では「騰落レシオ25日 ≥125」を採用。25営業日の長めの期間で平滑化することで、上昇相場のじわじわ進む過熱感を捉えます。1980年代から「125以上で過熱」という基準が広く使われており、業界共通の判定基準です。
Layer 3では「騰落レシオ6日 ≤60」を採用。下落相場の急激な売られ過ぎを捉えるため、6営業日の短期で測ります。業界標準の「騰落レシオ25日 ≤70」は、現代市場では歴史的ショックでも到達しないため、本ブログでは実用性の高い6日に切り替えています。
Layer 2/3で騰落レシオを組み込んでいる理由は、業界標準指標と独自指標(RSI銘柄比率・乖離率・信用評価損益率)を組み合わせることで、多角的な視点で過熱・底値を検知できるからです。騰落レシオ単独では「過熱だが指数の乖離は中立」というケースを取り違えるリスクがありますが、4項目の中の1つとして使えば、他の3項目と相互チェックされて誤判定が大幅に減ります。
補助指標と相場の質
Layerには含まれませんが、相場の質を読み解くための補助指標を5項目併記しています。資金集中度(TOP3売買代金シェア)/買い主導率(TOP20内)/TOPIX 25日乖離率/日経−TOPIX乖離率差/騰落レシオ6日の5つです。これらは「同じ体温スコアでも、中身の質が違う相場」を識別するために使います。
たとえば体温が同じ+2(微熱)でも、資金集中度が30%超なら「集中型の上昇=裾野が狭い」と判定され、買い主導率が70%以上なら「買い主導の本物の上昇」と判定されます。Layer 1のスコアが同じでも、補助指標を見ることで「この上昇は持続性が高いのか、それとも短期で剥落しやすいのか」が見えてくるんですね。
実例 ─ 2026年4月28日の市場体温計
| レイヤー | スコア | 判定 |
|---|---|---|
| Layer 1(日々の体温) | +2 / ±5 | ☀ 微熱(やや強気) |
| Layer 2(高温シグナル) | 0 / 4 | 過熱なし(騰落レシオ25日 99.35で未達) |
| Layer 3(低温シグナル) | 1 / 4 | 底値兆候わずかにあり(RSI30以下銘柄比率31.5%が点灯/騰落レシオ6日 65.02で未達) |
| 相場の質 | – | 中立(集中型・方向曖昧) |
4月28日は体温+2の微熱(やや強気)、高温シグナルゼロ、低温シグナル1点という組み合わせでした。Layer 1は前日(4/27)の+1からプラスに進みましたが、上昇銘柄比率82.6%・値上がり業種数30/33という広い上昇の割に、日経・TOPIX方向は0点(日経-TOPIX+の食い違い)、TOP10売買代金上昇数も4/10と方向感は弱め。Layer 2はゼロ点灯で過熱には程遠く、騰落レシオ25日も99.35と中立圏でした。Layer 3はRSI30以下銘柄比率が31.5%で1点点灯と、底値圏の銘柄も依然として残っている状態でしたが、騰落レシオ6日は65.02で60の閾値には到達しておらず、短期的な急激な売られ過ぎではない、と読み取れます。
この組み合わせから読めるのは、「上昇銘柄は多いが、市場全体が過熱しているわけではなく、一部に売られすぎ銘柄が残る不均一な反発相場」です。資金集中度30.9%という「集中型」の判定もあり、銀行・建設の急騰に資金が偏った相場の質も見えてきます。Layer 1だけ見ると「微熱で良い感じ」ですが、3層+補助指標を併せて見ると「反発初動で過熱はまだ先、ただし中身は集中型なので持続性は要観察」という、より立体的な相場像が浮かび上がるんですね。
モデルの限界と注意点
特に強調しておきたいのが、Layer 3が点灯したからといって、必ずそこから相場が反転するわけではないという点です。歴史的なショック安局面では、騰落レシオ6日が60を大きく下回って極端な値まで下がることがあります。たとえば2025年4月のトランプ関税ショック時、騰落レシオ6日は最終的に17.29まで下落しました。Layer 3が点灯しても、そこからさらに半分以下まで下落する局面が現実にあった、ということです。
Layer 3の点灯は、「反転確定のサイン」ではなく「下げ止まりを警戒し始めるタイミング」として使うのが正しい使い方です。実際の反転判断には、以下のような他の情報も併用することをおすすめします。
- VIX(米国恐怖指数)の水準:日本株は米国株のリスクオン・オフに引きずられやすいため、VIXの落ち着きを確認
- 実際のチャートパターン:下値の切り上げ、ダブルボトムや逆三尊の形成など、テクニカルな反転シグナルとの整合
- 11因子モデル(用語集①)と対TOPIX相対騰落(用語集②)の動き:単一指標ではなく総合的な強弱判断
- ファンダメンタルズの確認:ショック安の原因が解消に向かっているか、悪化しているか
市場体温計の三層スコアは、あくまで相場全体の温度を機械的に判定する補助線です。Layer 2/3の各指標も、相場局面によって有効性が変動します(特に長期の右肩上がり相場では125を超えても更に上昇が続くケース、ショック安では60を大きく下回り続けるケース等)。閾値の機械的判定だけで売買判断を下すのは避け、必ず他の指標やファンダメンタルズと組み合わせて使ってください。
まとめ
- 三層構造:Layer 1(日々の体温・5項目)/Layer 2(高温シグナル・4項目)/Layer 3(低温シグナル・4項目)の合計13指標で相場全体の温度を立体的に測る
- Layer 1は-5〜+5のスコアで、極寒〜熱中症までの温度ラベルが直感的に分かる
- Layer 2/3は点灯式で、稀にしか発生しない極端値を捉える。2点以上点灯で警戒(過熱)または逆張り検討(底値)
- Layer 2/3は意図的な非対称設計:上昇は中期(騰落レシオ25日 ≥125)、下落は短期(騰落レシオ6日 ≤60)で測ることで、株式相場の「上昇はじわじわ・下落は急激」という特性に対応
- 業界標準の騰落レシオを組み込むことで、独自指標と業界標準を多角的に組み合わせている(業界標準の25日 ≤70は現代市場では事実上死蔵されているため、Layer 3は6日 ≤60に独自調整)
- Layer 3点灯=反転確定ではない:歴史的ショック時は60を大きく下回ることがある(例:2025年トランプ関税ショック時、騰落レシオ6日は17.29まで下落)。VIX・チャートパターン・他指標と組み合わせて判断する
- 補助指標5項目で「相場の質」(集中型 vs 裾野広い、買い主導 vs 売り主導)を識別
- 個別判断には11因子モデル・対TOPIX相対騰落・テーマ別資金フローと組み合わせて使うのが大前提
本ブログの日次レポートでは、毎日この市場体温計を「先行指標分析(市場体温計)」セクションでチェックしています。Layer 1の体温が日々どう変化しているか、Layer 2/3が点灯しているか、騰落レシオ(25日・6日)の数値がどう動いているかを継続的に追うことで、「いま相場がどの温度にいて、過熱か底値か中立か」を機械的に把握できる仕組みです。「今日の相場は強そうだけど中身はどうなんだろう?」と感じたときに、サクッと体温計を見にきてもらえると嬉しいです。
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免責事項:本記事は市場のデータを基にした情報提供を目的としたものであり、投資の勧誘や特定銘柄の推奨を行うものではありません。市場体温計の三層スコアは、私が独自に設計している分析ツールであり、学術的に検証されたものでもなければ、将来の相場を保証するものでもありません。各レイヤーの構成項目や判定閾値は、過去の相場観察に基づく経験則で設定したものであり、絶対の正解ではありません。Layer 2/3に組み込まれている騰落レシオ(25日・6日)は業界標準指標ですが、相場局面によって有効性が変動することも知られています。特にLayer 3の点灯は底値の確定を示すものではなく、歴史的なショック相場ではさらに大きく下落することがあります。投資判断は最終的にご自身の責任において行ってください。株式投資にはリスクが伴い、元本を毀損する可能性があります。









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